第103回薬剤師国家試験

◆問274-275

50歳男性。体重70 kg。血清アルブミン値4.1 g/dL、血清クレアチニン値2.0 mg/dL。重症のMRSA院内感染によりバンコマイシン塩酸塩を1日1回間欠点滴投与することになった。初回は負荷投与する予定である。この患者におけるバンコマイシンの分布容積は0.7 L/kg、半減期は24時間と見積もられている。血液培養の結果、バンコマイシンによる最小発育阻止濃度(MIC)は1.0μg/mLであった。

◆ 問274

バンコマイシン塩酸塩による治療及びTDMに関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
  • この患者では、腎機能低下により、半減期が延長している。
  • 肝毒性の発現を回避するため、バンコマイシンのトラフ値は20 µg/mL以下にすることが推奨されている。
  • 治療効果の指標として、最高血中濃度/MICを用いる。
  • レッドネック症候群を予防するために、1時間以上かけて点滴する。
  • この患者では、アルブミンが大量に尿中へ漏出しているため、タンパク結合率が低下している。

◆ 問275


◆ 問274

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:1、4


1 正
本患者の血清クレアチニン値(基準値0.5〜1.3 mg/dL)は高値を示していることから、本患者は腎機能が低下していると考えられる。バンコマイシン塩酸塩は、腎消失型薬物であるため、腎機能の低下に伴い半減期が延長する。
2 誤
バンコマイシン塩酸塩は、重大な副作用として重篤な腎機能障害を起こすことがある。バンコマイシン塩酸塩において、重篤な腎機能障害の発現とトラフ値には相関性があり、腎障害の発現を回避するため、バンコマイシンのトラフ値は20 µg/mL以下にすることが推奨されている。
3 誤
抗菌薬の種類により、治療効果の指標として用いるPK/PDパラメータが異なる。
以下に抗菌薬の分類と投与する際に用いられるPK/PDパラメータを示す。
103回問274-275画像1

4 正
バンコマイシン塩酸塩を急速静注すると、ヒスタミン遊離に起因するレッドネック症候群を起こすことがある。そのため、レッドネック症候群を予防するために本剤は1時間以上かけて点滴する必要がある。
5 誤
本患者の血清アルブミン値(基準値:3.7〜4.9 g/dL)は基準値範囲内にあることから、アルブミンが大量に尿中へ漏出している可能性は低い。

◆ 問275

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:4


問題文中に「投与に要する時間は投与間隔に対して無視できるほど短いものとし、投与中における体内からのバンコマイシンの消失は無視できるものとする。」と記載されていることから、本問は、静脈内投与における繰り返し投与に関する問題であると考えることができる。

<負荷投与量を求める>
本問では、バンコマイシン(半減期24時間)を1日1回間欠点滴投与していることから、2回目投与直前の血中濃度は24時間経過後(半減期経過後)の血中濃度であると考えられる。このことから、2回目投与直前の血中濃度が10 µg/mLとなることを想定し、初回負荷投与する場合には、初回負荷投与直後の血中濃度が20 µg/mLとなるようにすればよいことがわかる。

これらのことから、バンコマイシンの負荷投与量を以下のように算出することができる。
負荷投与量=投与直後の血中濃度×分布容積=20 µg/mL×0.7 L/kg×70 kg=20 mg/L×49 L=980 mg

<維持投与量を求める>
本問では、バンコマイシン(半減期24時間)を1日1回間欠点滴投与していることから、投与間隔=半減期で繰り返し静脈内投与していると考えられる。投与間隔=半減期で繰り返し静脈内投与した際のトラフ値は、維持投与量を1回投与した場合の濃度の上昇幅の値と同じとなるため、定常状態におけるトラフ値を15 µg/mLとなるように維持投与する場合には、維持投与量を1回投与する際の濃度の上昇幅の値が15µg/mLになるようにすればよいことがわかる。

これらのことから、バンコマイシンの維持投与量を以下のように算出することができる。
維持投与量=濃度の上昇幅×分布容積=15 µg/mL×0.7 L/kg×70 kg=15 mg/L×49 L=735 mg