第104回薬剤師国家試験

◆問137-140

新生児マススクリーニングは、先天性代謝異常を出生直後に早期発見し、栄養療法による早期治療を目指す事業である。近年、新たな新生児マススクリーニングとしてタンデムマス法を用いた脂肪酸代謝異常症の検査が始まった。検査できる主な脂肪酸代謝異常症には、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ–1(CPT–1)欠損症、極長鎖アシルCoA脱水素酵素(VLCAD)欠損症、中鎖アシルCoA脱水素酵素(MCAD)欠損症がある。図1はヒトにおける長鎖脂肪酸と中鎖脂肪酸の代謝の概略である。ミトコンドリアにおいて、VLCADは長鎖脂肪酸、MCADは中鎖脂肪酸のβ酸化に関与する。なお、3種の代謝異常症に関わる酵素を四角で示している。
104回問137-140画像1

◆ 問137


◆ 問138

β酸化による脂肪酸の代謝反応のうち、脂肪酸と補酵素A(CoASH)が縮合したチオエステルaからアセチルCoA(化合物f)が生じる経路を示す。下の記述のうち正しいのはどれか。2つ選べ。ただし、ア及びイは補酵素であり、チオエステルはエステルと同様の反応を起こすものとする。
104回問137-140画像2
  • 化合物aからbへの変換には、補酵素アが必要である。
  • 化合物bからcへの反応は、酸化反応である。
  • 化合物cからdへの変換には、補酵素イが必要である。
  • 化合物dからe及びfへの反応では、CoASHが求核剤としてはたらいている。
  • 化合物dのチオエステルのα–水素の酸性度は、化合物aのものよりも低い。

◆ 問139


◆ 問140


◆ 問137

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:1、4


1 正
長鎖脂肪酸は、細胞質で活性化されアシル−CoAとなるが、アシル−CoAはミトコンドリア内膜を通過することができないため、ミトコンドリア外膜に存在するCPT−1によりカルニチンと縮合しアシルカルニチンとなりミトコンドリア内膜を通過する。その後、アシルカルニチンは、ミトコンドリアマトリックスにおいて再びアシルCoAとなりVLCADが関与するβ酸化を受ける。このことから、CPT−1が長鎖脂肪酸から生成するアシル−CoAをミトコンドリアマトリクスに輸送することを制御していると考えられるため、長鎖脂肪酸の分解の律速段階は、CPT−1によるカルニチンのアシル化であるといえる。

2 誤
細胞内では、脂肪酸の生合成が促進すると、分解(β酸化)が抑制されるように調整されている。脂肪酸生合成が促進し、中間体のマロニルCoAが増えると、脂肪酸の分解(β酸化)に関わるCPT−1が阻害されることにより脂肪酸の分解(β酸化)が抑制される。

3 誤
脂肪酸のβ酸化では、NAD+からNADHが生成される。

4 正

5 誤
図1より、中鎖脂肪酸は、直接ミトコンドリアマトリックス内に入り、アシルCoAとなりMCADが関与するβ酸化を受けるが、VLCADが関与するβ酸化を受けない。よって、VLCAD欠損していても、中鎖脂肪酸からアセチルCoAを産生することができる。

◆ 問138

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:1、4


1 正
化合物a(アセチル−CoA)から化合物b(トランス−Δ2−エノイルCoA)への変換(脱水素)には、補酵素ア(FAD:フラビンアデニンジヌクレオチド)が必要である。

2 誤
化合物b(トランス−Δ2−エノイルCoA)から化合物c(L(+)−3−ヒドロキシアシルCoA)への反応は、水の付加反応であり、酸化反応ではない。
104回問137-140画像1

3 誤
化合物c(L(+)−3−ヒドロキシアシルCoA)から化合物d(3−ケトアシル−CoA)への変換には、補酵素としてNADを必要とする。補酵素イはチアミン二リン酸であり、化合物cから化合物dになる際の補酵素として作用しない。

4 正
化合物d(3−ケトアシル−CoA)からe(アシルCoA)及びf(アセチルCoA)への反応では、化合物dのβ位のカルボニルに対してCoASHが求核剤としてはたらいている。
104回問137-140画像2

5 誤
カルボニル基は、電子吸求基であることから、カルボニルのα−水素は、プロトン(H)として解離しやすい。化合物d(3−ケトアシル−CoA)はカルボニルを2つ有していることから、カルボニルを1つ有している化合物a(アセチル−CoA)に比べ、α−水素がプロトン(H)として解離しやすいため、化合物dのチオエステルのα–水素の酸性度は、化合物aのものよりも高い。

◆ 問139

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:3、5


1 誤
タンデムマス法では、質量分離部が直列に配置されており、1つ目の質量分離部で試料をイオン化させ、特定の質量数のイオン(このイオンをプリカーサーイオンという)を選択し、衝突活性化室に導き、プリカーサーイオンから生じた2次イオン(プロダクトイオン)を2つ目の質量分離部で分離する。

2 誤
試料は一般に電子衝撃法によりイオン化される。なお、冷蒸気法は、原子吸光光度法の原子化法の1つである。

3 正
解説1参照

4 誤
プリカーサーイオンは、衝突活性化室でキセノンなどの不活性化ガスと衝突させることによりさらに解離される。

5 正
タンデムマス法は、タンパク質やDNAの構造解析に加え、アミノ酸や有機酸などの代謝物の一斉分析に用いられる。

◆ 問140

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:2、4


1 誤
図2よりAはC0の数値のみ基準値を超えているため、どの欠損症にも該当しない。

2 正
図2よりBはC14:1の数値のみ基準値を超えているため、VLCAD欠損症であると判断できる。VLCAD欠損症では、長鎖脂肪酸のβ酸化が抑制され、長鎖脂肪酸からのエネルギー産生が抑制されるため、中鎖脂肪酸トリグリセリドを構成成分とするミルクを使用することは適切である。

3 誤
図2よりCは、C8の数値のみ基準値を超えているため、MCAD欠損症であると判断できる。MCAD欠損症では、中鎖脂肪酸のβ酸化が抑制され、中鎖脂肪酸からのエネルギー産生が抑制されるため、中鎖脂肪酸トリグリセリドを構成成分とするミルクを使用してはならない。

4 正
図2よりDは、C0/(C16+C18)及びC0の数値が基準値を超えているため、CPT−1欠損症であると判断できる。CPT−1欠損症では、アシルCoAとカルニチンからのアシルカルニチンの生合成が抑制され、長鎖脂肪酸からのエネルギー産生が抑制されるため、中鎖脂肪酸トリグリセリドを構成成分とするミルクを使用することは適切である。

5 誤
図2よりEはどの測定項目も基準値以下の数値であることから、どの欠損症にも該当しない。