第104回薬剤師国家試験

◆問228-229

15歳女性。身長150 cm、体重29 kg。精神的ストレスから最近6ヶ月で10 kgの体重減少があり、月経もない。診察の結果、神経性無食欲症(拒食症)と診断された。特に最近3週間はほとんど食事を摂っておらず意識障害を生じたため、両親に伴われ来院し、緊急入院となった。入院後も食事に強い拒否を示したため、NST(栄養サポートチーム)の管理下で中心静脈栄養法を行うこととなった。

◆ 問228

 入院直前のこの患者の栄養状態に関する記述のうち、適切なのはどれか。2つ選べ。15歳女性の基礎代謝基準値(kcal/kg 体重/日)を25とする。
  • 基礎代謝量は、同性、同年代の健常人に比べ高い値を示している。
  • 身体を構成するタンパク質の分解により生成した糖原性アミノ酸からの糖新生が亢進している。
  • 脂肪酸の分解により生成したアセチル CoA からのケトン体の合成が亢進している。
  • コレステロールもエネルギー産生に利用されている。
  • 体重が40 kgに回復した場合、身体活動度を1.5とすると、推定エネルギー必要量は2,000 kcal/日となる。

◆ 問229


◆ 問228

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:2、3


1 誤
基礎代謝量(kcal/日)は、下記の式で求めることができる。
基礎代謝量(kcal/日)=基礎代謝基準値×体重
本患者は、体重が29 kgと同年代の女性に比べ非常に軽いため、本患者の基礎代謝量は、同性、同年代の健常人に比べ低い値を示す。

2 正
本患者はほとんど食事を摂っておらず、飢餓状態にあるため、体内では以下のことが起こっていると考えられる。
・身体を構成するタンパク質が分解され、それにより生成した糖原性アミノ酸が糖新生に利用される。
・肝臓において脂肪酸分解(β酸化)が亢進し、アセチルCoA生成される。生成されたアセチルCoAのうち、クエン酸回路で利用できなかったものは、ケトン体(アセト酢酸、β−ヒドロキシ酪酸、アセトン)となる。
・肝臓で生成されたケトン体のうち、アセトンは呼気中に排泄され、アセト酢酸、β−ヒドロキシ酪酸の一部は脳などでエネルギー源として利用される。

3 正
解説2参照

4 誤
飢餓状態になっても、コレステロールはエネルギー源として利用されることはない。なお、コレステロールは、ステロイドホルモンや胆汁酸を生成する際に用いられる。

5 誤
推定エネルギー必要量(kcal/日)は、下記の式より求めることができる。
推定エネルギー必要量(kcal/日)=基礎代謝基準値×体重×身体活動度
本患者の体重が40 kgに回復した場合の推定エネルギー必要量は、下記のように計算することができる。
推定エネルギー必要量(kcal/日)=25×40×1.5=1,500 kcal /日

◆ 問229

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:1


 本患者は長い間、低エネルギー状態にあったことから、リフィーディング症候群を起こさないように栄養補給を行う必要がある。リフィーディング症候群とは、慢性的な栄養不良状態が続き高度の低栄養状態にある患者に突然充分量の栄養を補給することにより発症する一連の代謝合併症のことである。
リフィーディング症候群の発症を予防するためには、BMIが16未満の患者、体重が急激に低下した患者、10日以上絶食状態の患者に対しては、投与エネルギーとして、現体重×10 kcal/kg/日(重症例では5 kcal/kg/日)程度から開始し、モニターしながら100〜200 kcal /日ずつ増量していき、1週間以上かけて目標量(25〜30 kcal /kg)まで増やすとともに必要なリン、電解質、ビタミンを投与する。
【参考:リフィーディング症候群の発症機序】
低栄養状態に突然充分量の栄養を補給すると、インスリン分泌が刺激され、細胞内にグルコースが流れ込むことによりATP産生が亢進し、リンの消費量が増大するとともに電解質(カリウム、マグネシウム、亜鉛など)、ビタミンB1の消費も増大し、リン、電解質、ビタミンB1欠乏症が誘発されことで様々な症状が認められる。また、腎尿細管におけるNaの再吸収が促進され、体内への水分貯留を引き起こして浮腫の出現を認めることがある。
1 誤
本患者のBMIは、29÷(1.5)2 ≒12.9であることから、中心静脈栄養による投与エネルギー量を「29 kg×5〜10 kcal/kg/日=145〜290 kcal/日」から開始する必要がある。

2 正しい

3 正しい

4 正しい

5 正しい