第107回薬剤師国家試験

◆問272-275

65歳男性。身長160cm、体重58kg。開胸心血管バイパス術施行後4日目に38.5°Cの発熱を来し、喀痰、血液培養、尿、鼻汁を用いたグラム染色の結果、陽性であった。細菌培養の結果が得られるまで48時間程度を要することから、院内感染制御チームへのコンサルトの結果、MRSA感染症を疑い、当日夜よりバンコマイシン点滴静注用の14日間投与が決定された。バンコマイシン投与前の検査値を以下に示す。
(検査値)
白血球数13,000/μL、CRP7.5mg/dL、血清クレアチニン値1.2mg/dL、BUN17.6mg/dL、
クレアチニンクリアランスCcr)50mL/min
バンコマイシンの投与量決定には母集団薬物動態解析により得られた以下のパラメータを用いた。
CL(L/hr)=0.05×Ccr(mL/min)[Ccrが85mL/min以下の場合]
CL(L/hr)=3.5[Ccrが85mL/minより大きい場合]
Vd(L)=60.7

◆ 問272


◆ 問273


◆ 問274

 バンコマイシン投与後の副作用確認のために薬剤師が行うモニタリングとして、適切なのはどれか。2つ選べ。
  • 投与直後はアナフィラキシーショックが発現することがあるので、皮疹や呼吸困難の有無を確認する。
  • 高血圧が発現しやすいので、朝晩の血圧を確認する。
  • 第8脳神経障害の副作用が発現することがあるので、視力を確認する。
  • 低アルブミン血症の発現頻度が高いので、面談時に全身のむくみを確認する。
  • 腎障害が発現することがあるので、血清クレアチニン値や尿量を確認する。

◆ 問275


◆ 問272

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:3、4


1 誤
母集団薬物動態解析において、患者集団の平均的な薬物動態パラメータは、多数の患者の血中濃度データをまとめて解析するため、年齢、体重、Vdが同じ患者群を母集団として解析する必要はない。

2 誤
クリアランスは、体内の薬物を除去する能力を表すパラメーターであり、最小発育阻止濃度(菌の増殖を抑制することができる抗菌薬の最小濃度)とは無関係である。

3 正
この患者のクレアチニンクリアランスは85mL/min以下であることからCL(L/hr)=0.05×50=2.5L /hrとなる。

4 正
ベイジアン法は母集団パラメーターとその変動要因などを用いて患者の1点の血中濃度より患者個々の薬物動態パラメーターを推定する方法である。

5 誤
母集団パラメーターは多数の患者の血中濃度をまとめて解析することで得られるが、集団ごとに血液採取時間を一定にする必要はない。

◆ 問273

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:1、4


 バンコマイシンはグリコペプチド系抗菌薬であり、細胞壁の前駆体であるペンタペプチドのD-Ala-D–Alaに結合し、細胞壁合成を阻害することで抗菌作用を示す。バンコマイシンは急激に投与するとヒスタミン遊離によるレッドネック症候群(顔、頸、躯幹の紅斑性充血、掻痒等)を起こすことがあるため、60分以上かけて点滴静注する。

◆ 問274

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:1、5


1 正
本剤(バンコマイシン点滴静注用)は、アナフィラキシー(呼吸困難、全身紅潮、浮腫等)を起こすことがあるため、投与後、観察を十分に行い症状が現れた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこととされている。

2 誤
本剤は、副作用として高血圧が起こるとの報告はない。

3 誤
本剤は、副作用として第8脳神経障害を発現することがあるため、聴覚障害、めまいの有無を確認する必要がある。

4 誤
本剤は、低アルブミン血症の発現頻度が高いとの報告はない。

5 正
本剤は、副作用として急性腎不全などの腎障害を起こすことがあるため、血清クレアチニン値や尿量を確認する必要がある。

◆ 問275

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:5


本剤(バンコマイシン点滴静注用)投与後10日目に体温が36.2℃、CRPも低下しており、新たに感染症を起こしていないと推察されるため、再度、喀痰、血液、尿、鼻汁の細菌検査を依頼する必要性は低い。通常、菌血症に対して本剤を2週間程度投与するが、白血球数が低下しているため投与中止を提案することが適切である。