第108回薬剤師国家試験

◆ 問178

医薬品の水溶液中における安定性に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
  • 加水分解を受けやすい医薬品は、難溶性の塩として溶解度を低下させることで安定性が改善する。
  • EDTAは、包接化により医薬品の安定性を改善する。
  • 特殊酸触媒のみで分解する医薬品は、保存するpHを低くすることで安定性が改善する。
  • 異符号のイオン間の反応で分解する医薬品は、塩を添加することで溶液のイオン強度を増大させると安定性が改善する。
  • 同符号のイオン間の反応で分解する医薬品は、アルコールを添加することで溶媒の誘電率を低下させると安定性が低下する。

◆ 問178

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:1、4


正:[加水分解を受けやすい医薬品は、難溶性の塩として溶解度を低下させることで安定性が改善する。]
難溶性の塩とすることで、加水分解を受けづらくなると考えられます。


誤:[EDTAは、包接化により医薬品の安定性を改善する。]
包接化とは、かごのような中空構造をもつ分子が,他の分子や原子を内側に包み込むことです。EDTAは配位子の1つであり、医薬品の安定性改善に関わるのは「キレート化」です。キレートとは、複数の配位子が金属イオンへ結合することによりできる錯体のことです。


誤:[特殊酸触媒のみで分解する医薬品は、保存するpHを低くすることで安定性が改善する。]
酸触媒のみで分解するのであれば、非酸性にすることで安定すると考えられます。pHでいえば、pHを「大きく」することで安定性が改善します。低くではありません。


正:[異符号のイオン間の反応で分解する医薬品は、塩を添加することで溶液のイオン強度を増大させると安定性が改善する。]
誤:[同符号のイオン間の反応で分解する医薬品は、アルコールを添加することで溶媒の誘電率を低下させると安定性が低下する。]
異符号のイオン間の反応とは A++B-⇄C
同符号のイオン間の反応とは A++B+⇄C2+
といった形で表される反応です。

塩を添加した場合において、イオン強度Iを用いて、log k=log k0+2A ZAZBI1/2・・・(1)がなりたちます。速度論的塩効果と呼ばれたりします。
※k0は、塩を添加する前の速度定数です。
※25℃の水では、A=0.509です。

式(1)の内容を文章で表現すると
・A,Bの電荷が異符号→イオン強度が増加すると、分解速度が減少
・A,Bの電荷が同符号→イオン強度が増加すると、分解速度が増加 です。
よって、[異符号のイオン間の反応で分解する医薬品は、塩を添加することで溶液のイオン強度を増大させると安定性が改善する。]は正しいと言えます。

一方、溶媒の誘電率との関係ですが
誘電率増加は、塩添加してイオン強度大、誘電率減少は、イオン強度小と同様の効果が見られると考えれば、式(1)から推測できます。

[同符号のイオン間の反応で分解する医薬品は、アルコールを添加することで溶媒の誘電率を低下させると安定性が低下する。]においては
同符号の反応なので「塩添加し、イオン強度増加すれば、分解速度増加」するタイプの反応です。そして、誘電率低下させたのだから、イオン強度減少とみなします。すると、分解速度減少です。言い換えれば「安定性増加」なので誤りです。