第109回薬剤師国家試験

◆ 問115

 ペニシリン耐性黄色ブドウ球菌が発現するβ-ラクタマーゼを精製し、反応速度論的解析を行った。β-ラクタマーゼの反応は以下のミカエリスメンテン式に従うものとする。
109回問115画像1
 異なる濃度のペニシリンを含む10mLの反応液中に1ngのβ-ラクタマーゼを加え、反応生成物の量を測定したところ、ペニシリン濃度([S])と1分間に生じる反応生成物の量(ν)の関係は図1のようになった。また、ペニシリン濃度の逆数(1/[S])と1分間に生じた反応生成物量の逆数(1/ν)をプロットしたところ、図2のようになり、回帰直線の式は
109回問115画像2
であった。
109回問115画像3
 以下の記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。なお、測定中のペニシリン濃度の低下は無視できるものとする。
  • β-ラクタマーゼは、酸化還元酵素である。
  • 反応液中のβ-ラクタマーゼを2ngにしても、単位時間あたりの反応生成物量は変わらない。
  • この酵素のVmaxの値は0.067nmol/mL・min(有効数字2桁)である。
  • この反応系に競合阻害薬を加えて実験した場合、見かけ上のKmは5.0μmol/Lより大きくなる。
  • この反応系に非競合阻害薬を加えて実験した場合、図2の回帰直線の傾きは小さくなる。

◆ 問115

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:3、4


[β-ラクタマーゼは、酸化還元酵素である。]
誤りです。
β-ラクタマーゼは、β-ラクタムを加水分解する加水分解酵素(ヒドロラーゼ)です。これは、β-ラクタム環を切断することで抗生物質の効果を無効化する酵素です。



[反応液中のβ-ラクタマーゼを2ngにしても、単位時間あたりの反応生成物量は変わらない。]
誤りです。
反応液中のβ-ラクタマーゼの量を1 ngから2 ngに増やすと、酵素の量が増えるため、単位時間あたりの反応生成物量も増加します。これは、酵素が基質と反応する速度が増加するためです。



[この酵素のVmaxの値は0.067nmol/mL・min(有効数字2桁)である。]
正しいです。
ミカエリス・メンテン式の逆数をとると、ラインウィーバー・バーク式に変形できます。ラインウィーバー・バーク式は、酵素反応の速度論を直線的に表現する方法で、以下のような式になります。
109回問115画像1
ここで、νは反応速度、[S]は基質濃度、Kmはミカエリス定数、Vmaxは最大反応速度です。

ラインウィーバー・バーク式と与えられた回帰直線の式が対応しているため、以下の関係式が成り立つ。
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[この反応系に競合阻害薬を加えて実験した場合、見かけ上のKmは5.0μmol/Lより大きくなる。]
正しいです。
Kmはミカエリス定数といい、本問の場合、1分間に生じる反応生成物の量(v)が最大反応速度の半分となるときのペニシリン濃度を表し、Km = 5.0 μmol/Lです。競合阻害薬を加えた場合、Vmaxは変化しないですが、Kmは大きくなるため、この反応系に競合阻害薬を加えて実験した場合、見かけ上のKmは5.0μmol/Lより大きくなります。



[この反応系に非競合阻害薬を加えて実験した場合、図2の回帰直線の傾きは小さくなる。]
誤りです。
回帰曲線の傾きはKm/Vmaxです。非競合阻害薬を加えた場合、Kmは変化しませんが、Vmaxが小さくなるため、この反応系に非競合阻害薬を加えて実験した場合、図2の回帰直線の傾きは大きくなる。