第109回薬剤師国家試験

◆ 問136

 図1~4は、化学物質A、B、Cの発がん作用を調べるために、マウスを用いて皮膚腫瘍(皮膚がん)の発生割合について検討した論文に示されている結果である。図1は、あらかじめ毛を剃ったマウスの背部皮膚に化学物質A又は化学物質Bを1回だけ塗布し、その後、同一部位に化学物質Cを1週間に2回ずつ塗布し続けた時の結果である。図2、3、4は、化学物質A、B、Cを図1と同じ用量でそれぞれ単独で、毛を剃ったマウスの背部皮膚に1週間に2回ずつ塗布し続けた時の結果である。これらの結果からわかる化学物質A、B、Cの発がん作用に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
109回問136画像1
  • 化学物質Aには、発がんプロセスにおいてイニシエーターとしての作用はない。
  • 化学物質Bには、発がんプロセスにおいてイニシエーターとしての作用はない。
  • 化学物質Cには、発がんプロセスにおいてイニシエーターとしての作用はない。
  • 化学物質Aには、発がんプロモーターとしての作用がある。
  • 化学物質Bには、発がんプロモーターとしての作用がある。

◆ 問136

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:3、4


発がんの二段階説によると、がんは「イニシエーション→プロモーション」という順番で発生します。
イニシエーターは、DNAに傷をつける作用を持つ物質で、この作用によって遺伝子に変異が起こります。この変異はがんの発生の最初の段階であり、通常は可逆的ではありません。
プロモーターは、細胞増殖の制御システムを乱す作用を持つ物質で、イニシエーターによって傷つけられたDNAを持つ細胞の増殖を促進します。プロモーターの作用は、イニシエーターによるDNAの損傷があった後にのみ発がんに寄与するとされています。
「プロモーション→イニシエーション」の順番では発がんは起こらず、プロモーターに曝露されても、それ以前にイニシエーターによってDNAに傷をつけられていなければがんは発生しないとされています。
この二段階説は、がんが発生するためには複数の遺伝子の変異が必要であるというマルチヒット仮説とも関連しています。がん抑制遺伝子が失活したり、がん発生を誘発する遺伝子が活性化することによってがんが発生しやすくなるとされています。

正解は
[化学物質Cには、発がんプロセスにおいてイニシエーターとしての作用はない。]
[化学物質Bには、発がんプロモーターとしての作用がある。]
です。

正解の選択肢についての解説は以下の通りです。
[化学物質Cには、発がんプロセスにおいてイニシエーターとしての作用はない。]
図4に示されたように、化学物質C単独での使用では腫瘍の発生は見られないためです。しかし、図1では化学物質AまたはBを塗布した後に化学物質Cを塗布すると腫瘍の発生が顕著に増加しており、これは化学物質Cがプロモーターとしての作用を持っていることを示しています。

[化学物質Bには、発がんプロモーターとしての作用がある。]
化学物質Bには、発がんプロセスにおいてイニシエーターとしての作用はありませんが、プロモーターとしての作用があります。図3では化学物質B単独での使用では腫瘍の発生は見られませんが、図1では化学物質Aを塗布した後に化学物質Cを塗布すると腫瘍の発生が増加しており、これは化学物質Bがプロモーターとして機能することを示しています。

間違った選択肢についての解説は以下の通りです。
[化学物質Aには、発がんプロセスにおいてイニシエーターとしての作用はない。]
化学物質Aにはイニシエーターとしての作用があります。図2に示されたように、化学物質A単独での使用では腫瘍の発生が見られるためです。

[化学物質Bには、発がんプロセスにおいてイニシエーターとしての作用はない。]
化学物質Bにはイニシエーターとしての作用はありません。図3に示されたように、化学物質B単独での使用では腫瘍の発生は見られないためです。

[化学物質Aには、発がんプロモーターとしての作用がある。]
化学物質Aにはプロモーターとしての作用はありません。図2では化学物質A単独での使用では腫瘍の発生が見られますが、これはイニシエーターとしての作用によるものであり、プロモーターとしての作用を示すものではありません。