第109回薬剤師国家試験

◆問167-168

35歳男性。献血時の検査でヒト免疫不全ウイルス(HIV)抗体陽性となり、HIV感染症と診断された。

◆ 問167


◆ 問168

HIV感染症治療薬に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
  • エムトリシタビンは、HIV感染細胞内でリン酸化されて活性体となり、HIVのRNA依存性DNAポリメラーゼを阻害する。
  • マラビロクは、RNA依存性DNAポリメラーゼの活性中心近傍に結合して、酵素活性を阻害する。
  • ラルテグラビルは、HIVインテグラーゼを阻害して、ウイルスDNAの宿主DNAへの組込みを抑制する。
  • アバカビルは、HIVプロテアーゼを阻害して、ウイルスタンパク質の産生を抑制する。
  • エファビレンツは、宿主の細胞膜上のC-Cケモカイン受容体5(CCR5)に結合して、HIVの細胞内への侵入を抑制する。

◆ 問167

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:1、4


正解は[CD4陽性リンパ球数が基準範囲内であっても、抗レトロウイルス療法が必要である。]と[免疫再構築症候群は、後天性免疫不全症候群(AIDS)やHIV感染症の治療中にみられる炎症を主体とする病態である。]です。

それぞれの選択肢について解説します。

[CD4陽性リンパ球数が基準範囲内であっても、抗レトロウイルス療法が必要である。]
正解です。HIV感染症の治療では、CD4陽性リンパ球数が基準範囲内であっても、抗レトロウイルス療法(ART)を開始することが推奨されています。これは、無治療の患者ではCD4陽性細胞数が高くても合併症が発生する可能性があるためです。また、毒性の低い薬剤が開発されたことから、ほぼ全ての患者にARTが推奨されています。

[抗レトロウイルス療法では、抗HIV薬の単剤で治療を開始する。]
誤りです。HIV感染症の治療には、複数の抗HIV薬を組み合わせて使用する多剤併用療法が標準です。単剤療法では、HIVが薬剤に対して耐性を持つ可能性が高まります。

[HIV-RNA量が減少した場合には、抗HIV薬を休薬する。]
誤りです。HIV-RNA量が減少しても、抗HIV薬を休薬することは推奨されていません。治療の中断は、ウイルスの再増殖や耐性の発生につながる可能性があります。

[免疫再構築症候群は、後天性免疫不全症候群(AIDS)やHIV感染症の治療中にみられる炎症を主体とする病態である。]
正解です。免疫再構築症候群(IRIS)は、抗HIV治療を開始した後に免疫機能が回復する過程で、潜在的な感染症やがんなどに対する過剰な免疫反応が引き起こされる状態を指します。治療によって免疫力が回復すると、体内に潜んでいた感染症などが活性化し、炎症反応が起こることがあります。

[抗レトロウイルス療法を行っても、生命予後は改善しない。]
誤りです。適切な抗レトロウイルス療法は、HIVの増殖を抑制し、免疫力を回復させることで、生命予後を大幅に改善します。

覚えておくべき用語:
抗レトロウイルス療法(ART): HIV感染症の治療に用いられる、複数の抗HIV薬を組み合わせた治療法。
CD4陽性リンパ球: 免疫系の重要な細胞で、HIVによって破壊される主要なターゲット。
免疫再構築症候群(IRIS): ART開始後に見られる、過剰な免疫反応による病態。

◆ 問168

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:1、3


正解は
[エムトリシタビンは、HIV感染細胞内でリン酸化されて活性体となり、HIVのRNA依存性DNAポリメラーゼを阻害する。]
[ラルテグラビルは、HIVインテグラーゼを阻害して、ウイルスDNAの宿主DNAへの組込みを抑制する。]
です。

それぞれの選択肢について解説します。
[エムトリシタビンは、HIV感染細胞内でリン酸化されて活性体となり、HIVのRNA依存性DNAポリメラーゼを阻害する。]
正解です。エムトリシタビンは、HIV感染細胞内で三リン酸化体となり、逆転写酵素(RNA依存性DNAポリメラーゼ)を阻害します。これにより、HIVのRNAから新しいウイルスDNAへのコピーが阻止されます。

[マラビロクは、RNA依存性DNAポリメラーゼの活性中心近傍に結合して、酵素活性を阻害する。]
誤りです。マラビロクは、RNA依存性DNAポリメラーゼを阻害する薬剤ではありません。マラビロクはCCR5拮抗薬であり、HIVが宿主細胞に侵入するのを阻害します。

[ラルテグラビルは、HIVインテグラーゼを阻害して、ウイルスDNAの宿主DNAへの組込みを抑制する。]
正解です。ラルテグラビルは、HIVインテグラーゼを阻害することで、逆転写されたウイルスDNAの宿主細胞DNAへの組み込みを抑制します。これにより、ウイルスの複製が防がれます。

[アバカビルは、HIVプロテアーゼを阻害して、ウイルスタンパク質の産生を抑制する。]
誤りです。アバカビルは、HIVプロテアーゼを阻害する薬剤ではありません。アバカビルはヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NRTI)であり、逆転写酵素を阻害してウイルスDNAの伸長を阻止します。

[エファビレンツは、宿主の細胞膜上のC-Cケモカイン受容体5(CCR5)に結合して、HIVの細胞内への侵入を抑制する。]
誤りです。エファビレンツは、CCR5に結合してHIVの細胞内への侵入を抑制する薬剤ではありません。エファビレンツは非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)であり、逆転写酵素の活性中心の近傍に結合して酵素活性を阻害します。

覚えておくべき用語:
逆転写酵素:HIVのRNAをDNAに変換する酵素。
HIVインテグラーゼ:逆転写されたウイルスDNAを宿主細胞のDNAに組み込む酵素。
CCR5拮抗薬:HIVが宿主細胞に侵入するのを阻害する薬剤。
ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NRTI):ウイルスDNAの伸長を阻止する薬剤。
非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI):逆転写酵素の活性を阻害する薬剤。