第109回薬剤師国家試験

◆問220-221

89歳女性。体重40kg。高血圧症及び慢性心不全に対して処方1で薬物治療を行っている。独居で入院拒否があるため、医師と薬剤師、看護師が訪問している。最近、下腿浮腫が出現し、労作時の息苦しさや疲労感が強くなってきたため、血液検査を実施したところ、脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)値が3ヶ月前の450pg/mLから下記の検査値になっていた。
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その後、訪問医は継続中だった処方1のうち、エナラプリルのみを中止して、新たに処方2を追加した。
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◆ 問220

下図は、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の生成と代謝の過程を示している。BNPは、mRNAからBNP前駆体タンパク質として翻訳された後、切断されて血中に分泌される。サクビトリルが阻害する酵素ネプリライシンの作用部位は、切断1~3のいずれかである。以下の記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
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  • BNPとNT-proBNPは、主に心室から分泌される。
  • NT-proBNPは、図のペプチドAである。
  • BNPは、NT-proBNPよりも血液中での安定性が高い。
  • ネプリライシンの作用部位は、切断3である。
  • NT-proBNPは、BNPと同様に腎臓に作用してNa+の尿中への排出を促進する。

◆ 問221


◆ 問220

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:1、4


正しい選択肢について解説します。
[BNPとNT-proBNPは、主に心室から分泌される。]
正しいです。BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)とその前駆体であるNT-proBNPは、心臓の心室が拡張する際にストレスを感じたときに分泌されます。これらのペプチドは、血圧を下げ、体液量を減少させることによって心臓の負担を軽減する作用があります。

[ネプリライシンの作用部位は、切断3である。]
正しいです。ネプリライシンは、BNPの分解を担う酵素であり、BNP前駆体タンパク質からBNPが生成される過程での切断3の部位で作用します。サクビトリルはネプリライシンを阻害することで、BNPの分解を抑制し、その効果を長持ちさせることができます。


誤りの選択肢について解説します。
[NT-proBNPは、図のペプチドAである。]
誤りです。NT-proBNPは、BNP前駆体タンパク質から切断1と切断2を経て生成されるペプチドBです。ペプチドAは、BNP前駆体タンパク質から切断1によって生成されるもので、NT-proBNPではありません。

[BNPは、NT-proBNPよりも血液中での安定性が高い。]
誤りです。実際には、NT-proBNPの方がBNPよりも血液中での安定性が高く、そのため診断マーカーとしてより広く使用されています。

[NT-proBNPは、BNPと同様に腎臓に作用してNa+の尿中への排出を促進する。]
誤りです。NT-proBNP自体には、BNPのような生理活性はありません。BNPが腎臓に作用してナトリウムの排出を促進するのに対し、NT-proBNPは主に診断マーカーとしての役割を果たします。

◆ 問221

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:2、5


処方2に含まれるサクビトリルバルサルタンNa水和物錠(一般にはエンレストとして知られています)の服用によって生じる可能性が高い副作用について、選択肢2と5が正解とされています。以下にその理由を説明します。
正しい選択肢についても解説します。
[高カリウム血症]
正解です。サクビトリルバルサルタンはアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害剤(ARNI)であり、血圧を下げる効果がありますが、同時にカリウムの排泄を減少させる可能性があります。これにより、特に既にカリウム値が高めの患者さん(この場合は4.8 mEq/L)では、高カリウム血症のリスクが増加します。

[脱水症状]
正解です。ARNIは利尿作用も持っており、体内のナトリウムと水分の排泄を促進します。これにより、特に高齢者や腎機能が低下している患者さんでは、脱水症状を引き起こす可能性があります。



誤りの選択肢についても解説します。
[血中TSH値の上昇]
誤りです。サクビトリルバルサルタンは甲状腺機能に直接影響を与える薬剤ではないため、TSH値の上昇とは関連がありません。

[血圧上昇]
誤りです。サクビトリルバルサルタンは血圧を下げる効果があるため、血圧上昇は期待される副作用ではありません。

[血中NT-proBNP値の上昇]
誤りです。サクビトリルバルサルタンは心不全治療においてBNPの効果を増強するために使用されるため、NT-proBNP値の上昇を引き起こすことはありません。むしろ、心不全の症状の改善に伴い、NT-proBNP値は低下することが期待されます。