第109回薬剤師国家試験

◆問264-267

39歳、閉経前女性。身長155cm、体重43kg、体表面積1.38m2右乳房に腫瘤を触知し、乳腺外科を受診、針生検の結果、T1N1M0のStageⅡAの右乳がんと診断され、入院した。右乳房部分切除術、センチネルリンパ節生検及び腋窩リンパ節郭清を実施した。術後の検査所見は以下のとおりであった。
109回問264-267画像1

◆ 問264


◆ 問265


◆ 問266


◆ 問267

処方2の製剤に関する記述として、正しいのはどれか。2つ選べ。
  • 乳酸・グリコール酸共重合体が使用されている。
  • 高分子で薬物結晶をコーティングしている。
  • マトリックスを形成している高分子が分解することにより薬物を放出する。
  • 自己乳化型マイクロエマルション製剤である。
  • 粉末部の薬剤を液体部の溶液で溶解して使用する製剤である。

◆ 問264

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:4


この患者の場合、適切な術後薬物療法は[タモキシフェン]です。
[タモキシフェン]は、エストロゲン受容体(ER)陽性の乳がん患者に対して、エストロゲンの作用を阻害することで、がん細胞の成長を抑える効果があります。この患者はER陽性であり、閉経前であるため、[タモキシフェン]が適しています。


他の選択肢については、以下の理由で不適切です。
[アナストロゾール]は、閉経後のER陽性乳がん患者に使用されるアロマターゼ阻害剤です。閉経前の患者には推奨されません。

[エキセメスタン]もアロマターゼ阻害剤の一つで、同様に閉経後の患者に使用されます。

[エンザルタミド]は、主に前立腺がんの治療に用いられる薬剤で、乳がん治療には適していません。

[ラパチニブ]は、HER2陽性の乳がん患者に使用される薬剤ですが、この患者はHER2陰性であるため不適切です。

◆ 問265

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:2、4


正解の選択肢についての解説は以下の通りです。
[下垂体のGnRH受容体のダウンレギュレーションを起こすことで、ゴナドトロピンの分泌を抑制する。]
正解です。リュープロレリン酢酸塩はGnRHアゴニストであり、初期には下垂体に対してGnRHのように作用してLHとFSHの放出を促しますが、持続的に作用することでGnRH受容体をダウンレギュレーションし、結果的にゴナドトロピンの分泌を抑制します。これにより、エストロゲンの生成が減少し、ER陽性の乳がん細胞の増殖が抑制されます。

[乳がん組織のERにおいて、エストロゲンに拮抗する。]
正解です。処方1の薬剤は、おそらくタモキシフェンまたは類似の選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)であると推測されます。これらの薬剤はER陽性の乳がん細胞においてエストロゲンの作用を阻害し、乳がん細胞の増殖を抑制します。



誤りの選択肢についての解説は以下の通りです。
[視床下部のERを刺激して、GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)の分泌を抑制する。]
誤りです。視床下部のERを刺激することはGnRHの分泌を抑制しません。実際には、エストロゲンは視床下部にフィードバックしてGnRHの分泌を促進することがあります。

[脂肪組織において、アロマターゼを阻害して、エストロゲンの生成を抑制する。]
誤りです。この選択肢はアロマターゼ阻害剤に関連していますが、処方1と処方2のいずれもアロマターゼ阻害剤ではありません。

[HER2に結合して、乳がん細胞の増殖を抑制する。]
誤りです。この選択肢はHER2陽性の乳がんに対する治療に関連していますが、患者はHER2陰性であるため、この機序は適用されません。また、処方1と処方2のいずれもHER2に結合する薬剤ではありません。

◆ 問266

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:1、5


正解の選択肢1と5についての説明は以下の通りです:
[処方1の薬剤の服用により子宮体がん(子宮内膜がん)のリスクが高まることがあり、本剤投与中及び投与終了後の患者は定期的に検査を行うことが望ましい。]
タモキシフェンなどのSERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)は、乳がん細胞においてエストロゲンの作用を阻害する一方で、子宮内膜にはエストロゲン様の作用を示すことがあります。これにより、子宮体がんのリスクが高まる可能性があるため、定期的な検査が推奨されます。

[今回の薬物治療により骨密度の低下がみられることがあるので、長期にわたり投与する場合は骨密度の検査を実施する。]
リュープロレリン酢酸塩などのGnRHアゴニストは、エストロゲンの生成を抑制することで骨密度の低下を引き起こす可能性があります。そのため、長期にわたる治療では骨密度のモニタリングが必要です。


誤りの選択肢2、3、4についての説明は以下の通りです:
[処方2の薬剤の投与により、うつ状態が現れることがあり、症状悪化時にはSSRI等の抗うつ薬の追加処方を検討する。]
GnRHアゴニストの副作用としてうつ状態が現れることはありますが、これは一般的な副作用ではなく、またSSRIの追加処方は個々の症状に基づいて検討されるべきであり、カンファレンスでの一般的な発表内容としては不適切です。

[処方2の薬剤の投与により、骨疼痛の一過性増悪がみられることがあり、このような症状が現れた場合には、ビスホスホネート製剤の投与を行う。]
GnRHアゴニストの初期投与による骨疼痛の増悪は報告されていますが、ビスホスホネート製剤の投与は骨密度の低下を予防するためのものであり、一過性の骨疼痛に対する一般的な治療ではありません。

[今回の薬物治療に際して患者が妊娠していないことを確認し、また治療期間中は低用量経口避妊薬による避妊法を用いる。]
GnRHアゴニストを含むホルモン治療中は、妊娠の可能性を排除する必要がありますが、低用量経口避妊薬はエストロゲンを含むため、この患者には適していません。避妊のためには非ホルモン性の方法が推奨されます。

◆ 問267

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:1、3


正解の選択肢についての解説は以下の通りです。
[乳酸・グリコール酸共重合体が使用されている。]
正解です。リュープロレリン酢酸塩注射用キットには、薬剤が徐々に放出されるように設計された生分解性のマイクロスフィアが含まれています。これらのマイクロスフィアは、乳酸とグリコール酸の共重合体で作られており、体内で分解されることにより、薬剤を一定期間にわたって持続的に放出します。

[マトリックスを形成している高分子が分解することにより薬物を放出する。]
正解です。上記の乳酸・グリコール酸共重合体は、マトリックスを形成する高分子として機能します。体内でこの高分子が分解される過程で、リュープロレリン酢酸塩が徐々に放出され、その薬理作用を発揮します。


誤りの選択肢についての解説は以下の通りです。
[高分子で薬物結晶をコーティングしている。]
誤りです。リュープロレリン酢酸塩注射用キットのマイクロスフィアは、薬物結晶を高分子でコーティングしているわけではなく、薬物がマトリックス内に埋め込まれている形状です。

[自己乳化型マイクロエマルション製剤である。]
誤りです。リュープロレリン酢酸塩注射用キットは、自己乳化型マイクロエマルション製剤ではなく、生分解性マイクロスフィアを使用した製剤です。

[粉末部の薬剤を液体部の溶液で溶解して使用する製剤である。]
誤りです。リュープロレリン酢酸塩注射用キットの使用方法を誤って表現しています。実際には、粉末状のマイクロスフィアを液体で懸濁させて使用しますが、溶解させるのではありません。懸濁液を皮下注射することで、薬剤が体内で徐々に放出されます。