第109回薬剤師国家試験

◆ 問330

 28歳女性。体重50kg。5年前に双極性障害と診断され、近隣の精神科通院加療中であった。炭酸リチウム800mg(21.6mEq)/日の内服でコントロール良好であった(血清リチウム濃度:0.8~1.0mEq/L)が、夫と口論になりその後希死念慮を認めた。翌朝午前5時ごろに炭酸リチウム錠200mgを100錠過量服用した。その後、夫からの通報で救急搬送され、直ちに経鼻胃管による胃洗浄等の処置を施したが心電図でQT延長を認めたことから、リチウム中毒を疑い、入院の上で同日16時より持続的血液透析(CHD)を開始した。来院時に1.6mEq/Lであった血清リチウム濃度はCHD開始時には3.6mEq/Lに上昇していた。その後、20時、22時、翌日12時に採血と心電図検査を実施した。患者の経過を図に示す。
109回問330画像1
 CHDは第2病日12時に離脱、経過観察とした。第3病日12時の心電図ではQTcは0.431秒にまで改善し、患者の容態も安定した。
 担当薬剤師のこの患者に対するアセスメント等として適切なのはどれか。2つ選べ。ただし、CHD離脱によって炭酸リチウムの全身クリアランスは半分になること、炭酸リチウムの分布容積はCHDによらず0.84L/kgとする。
  • 服用した炭酸リチウムの半分に相当する量が吸収されていた。
  • 腸に達した炭酸リチウム除去のための薬用炭投与は無効である。
  • CHDの離脱時には心電図は正常化している。
  • リチウムの体内動態は非線形性を特徴とする。
  • 第3病日12時の血清リチウム濃度は0.5mEq/L未満と推定される。

◆ 問330

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:1、2、3、4、5


この問題は、国家試験当日に配布されたグラフの左縦軸のラベルの単位が誤っていたため、解なしです。



[服用した炭酸リチウムの半分に相当する量が吸収されていた。]
誤りです。
患者が服用した炭酸リチウムの量は200mg/錠×100錠=20,000 mgで、炭酸リチウム800mgはリチウムとして21.6mEqであるため、炭酸リチウム20,000mgはリチウムとして540 mEqに相当します。(800mg:21.6mEq=20,000mg:ⅩmEqよりⅩ=540mEq)全て吸収された場合、炭酸リチウムの分布容積が0.84L/kg×50kg=42Lであることから、血中濃度は540mEq÷42L≒12.86 mEq/L上昇し、半分が吸収された場合は6.43 mEq/L上昇します。CHD開始時の血中濃度は3.6 mEq/Lで、上昇した血中濃度は2.6〜2.8 mEq/Lです。したがって、服用した炭酸リチウムの半分に相当する量は吸収されていないと考えられます。



[腸に達した炭酸リチウム除去のための薬用炭投与は無効である。]
正解です。
薬用炭はリチウムを吸着できないため、腸に達した炭酸リチウム除去のための薬用炭投与は無効です。



[CHDの離脱時には心電図は正常化している。]
誤りです。
CHDの離脱時のQTc時間は0.444秒で、基準値(0.36秒以上0.44秒未満)から逸脱しているため、心電図が正常化しているとは言えません。



[リチウムの体内動態は非線形性を特徴とする。]
誤りです。
リチウムの体内動態は線形性を特徴とします。



[第3病日12時の血清リチウム濃度は0.5mEq/L未満と推定される。]
正解です。
CHDを開始した第1病日16時のリチウム濃度は3.6 mEq/Lで、CHDを離脱した第2病日12時のリチウム濃度は0.96 mEq/Lです。20時間で約4分の1になっていることから、CHD実施中の半減期は約10時間と考えられます。
ここで、半減期t1/2と消失速度定数keの関係式(1)と全身クリアランスCLtotと分布容積Vdの関係式(2)、及び、CHD離脱によって炭酸リチウムの全身クリアランスが半分になることと炭酸リチウムの分布容積はCHDによらず0.84 L/kgで一定であることから、CHD離脱によって消失速度定数keが半分になるため、半減期t1/2が2倍の約20時間になると考えられます。


109回問330画像1

よって、CHDを離脱した第2病日12時のリチウム濃度が0.96 mEq/Lでその20時間後の第3病日8時の時点で半分の0.48 mEq/Lになると予測されるため、第3病日12時には0.5 mEq/L未満になっていると推定されます。