第109回薬剤師国家試験
◆問262-263
70歳男性。糖尿病と心不全で治療中。3年前に眼圧の上昇が指摘され、原発開放隅角緑内障との診断を受け、処方1による治療を開始した。なお、同時に白内障の診断も受けている。点眼液による治療開始後、目の周囲が黒ずむなど眼瞼色素沈着が観察されるようになったため、処方1から処方2へ変更になった。その後、眼圧低下が不十分と診断され、現在は処方2に加えて処方3が追加となっている。◆ 問262
◆ 問263
しばらくして白内障の手術(眼内レンズ挿入術)のため入院となり、処方2が中止となった。処方2に替えて、新たに異なる作用機序の薬物を追加することになった。追加する薬物の作用機序として、適切なのはどれか。2つ選べ。-
アドレナリンα2受容体を刺激して、毛様体における房水産生を抑制するとともに、ぶどう膜強膜流出経路からの房水流出を促進する。
-
アドレナリンβ1受容体を遮断して、毛様体における房水産生を抑制する。
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炭酸脱水素酵素を阻害して、毛様体における房水産生を抑制する。
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Rhoキナーゼを阻害して、線維柱帯-シュレム管経路からの房水流出を促進する。
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プロスタノイドEP2受容体を刺激して、線維柱帯-シュレム管経路及びぶどう膜強膜流出経路からの房水流出を促進する。
◆ 問262
◆領域・タグ
◆正解・解説
正解:5
正解は[処方3の薬剤は点眼後、全身作用を起こすことがあるので、過敏性の兆候に注意すること。]です。
問題で示される薬剤についての説明は以下の通りです。
ラタノプロスト点眼液…
プロスタグランジンF2α誘導体製剤で、眼圧を下げる効果があります。眼房水の排泄を促進させることで眼圧を低下させ、緑内障の治療に用いられます。1日1回の点眼で良好な眼圧コントロールが可能で、長期投与においても作用の減弱は認められませんが、1日に複数回の使用は避けるべきです。
オミデネパグ イソプロピル点眼液…
プロスタノイドEP2受容体作動薬で、従来のプロスタグランジンF2α誘導体製剤とは異なる作用機序を持ちます。EP2受容体を刺激することで、眼房水の流出を促進し、眼圧を下げる効果があります。色素沈着や眼瞼部多毛などの副作用が少ないことが特徴です。
ブリンゾラミド懸濁性点眼液…
炭酸脱水酵素阻害薬で、房水の産生を減らすことにより眼圧を下げる効果があります。緑内障や高眼圧症の治療に用いられ、通常は1日2回の点眼が推奨されます。
上記を踏まえてそれぞれの選択肢を見ていきましょう。
[処方2と処方3の薬剤については、朝の点眼時、時間をおかずに連続して点眼すること。]
誤りです。処方2と処方3の薬剤を朝の点眼時に連続して点眼することについて言及していますが、これは推奨されません。異なる点眼薬を使用する際には、少なくとも5分間の間隔を空けることが一般的です。これは薬剤が適切に吸収されるために必要です。
[処方3の薬剤は懸濁性点眼液なので、朝の点眼時には、処方3の薬剤を最初に使用すること。]
誤りです。懸濁性点眼液であるブリンゾラミドを最初に使用する必要はありません。通常、点眼薬は効果の強さや持続時間に応じて順序を決めます。
[処方2の薬剤は水分の排出を促すので、いつもより水分を多めに摂取すること。]
誤りです。処方2の薬剤が水分排出を促すと述べていますが、これはオミデネパグ イソプロピル点眼液には当てはまりません。眼房水の流出を促進させることで眼圧を下げますが、患者が通常より多くの水分を摂取する必要はありません。
[処方2の薬剤は保存剤が含まれているので、毎回よく振って使用すること。]
誤りです。点眼液に含まれる保存剤は、振ることで均一にする必要はありません。
[処方3の薬剤は点眼後、全身作用を起こすことがあるので、過敏性の兆候に注意すること。]
正解です。処方3の薬剤が点眼後に全身作用を起こす可能性があるため、過敏性の兆候に注意することを指示しており、これが正しい指導内容です。オミデネパグ イソプロピルは、全身作用を起こす可能性があるため、過敏性反応に注意する必要があります。
◆ 問263
◆領域・タグ
◆正解・解説
正解:1、4
[アドレナリンα2受容体を刺激して、毛様体における房水産生を抑制するとともに、ぶどう膜強膜流出経路からの房水流出を促進する。]
正解です。この薬物は毛様体での房水産生を抑制し、ぶどう膜強膜流出経路からの房水流出を促進します。これにより眼圧が下がり、緑内障の治療に有効です。特に、原発開放隅角緑内障においては、房水の流出を改善することが重要であり、この薬物はその目的に合致しています。
[アドレナリンβ1受容体を遮断して、毛様体における房水産生を抑制する。]
不適切です。β1受容体遮断剤は心臓のβ1受容体に作用し、心拍数を減少させる効果があります。この患者は心不全の既往があるため、適切ではありません。
[炭酸脱水素酵素を阻害して、毛様体における房水産生を抑制する。]
不適切です。炭酸脱水素酵素阻害剤は眼圧を下げる効果がありますが、腎臓病をはじめ、糖尿病患者には注意が必要な薬剤のため、適切ではありません。
[Rhoキナーゼを阻害して、線維柱帯-シュレム管経路からの房水流出を促進する。]
正解です。Rhoキナーゼ阻害剤は、線維柱帯-シュレム管経路からの房水流出を促進し、眼圧を下げる効果があります。この作用は、房水の流出障害が原因で眼圧が上昇する緑内障の患者に特に有効です。
[プロスタノイドEP2受容体を刺激して、線維柱帯-シュレム管経路及びぶどう膜強膜流出経路からの房水流出を促進する。]
不適切です。プロスタノイドEP2受容体刺激剤は眼圧を下げる効果がありますが、処方2と同じ種類の薬剤のため、適切ではありません。
覚えておくべき用語:
毛様体: 房水を産生する眼の構造で、眼圧の調節に重要な役割を果たします。
ぶどう膜強膜流出経路: 房水が眼球から流出する経路の一つで、眼圧の調節に関与します。
線維柱帯-シュレム管経路: 房水が眼球から流出する主要な経路で、緑内障の治療において重要なターゲットとなります。