第111回薬剤師国家試験
◆問154-155
30 歳女性。高校3 年生のときにきっかけもなく元気がなくなり、3 ケ月間学校を休んだことがあったが、特に治療を受けずに回復した。その後は順調であったが、1 ケ月前に急に元気がなくなり、会社を休んだりしていた。ここ数日は「偉大な発見をしたので、自分には特別な才能がある」と言ったり、誰彼構わず夜中に電話をするといった状態が持続するため、母親に連れられて来院した。母親によると2 週間前から母親と話していても、話の内容が次々と脱線し、話している内容がまとまらない、些細なことを契機に怒り出すなど、普段とは異なる行動がみられた。睡眠をほとんどとっていないが、本人は疲れを感じていない。親戚や友人への電話で家や車の購入計画などを話し、相手が反対すると激怒するようになった。血液生化学検査、脳画像検査、脳波検査、脳脊髄液検査で異常はない。飲酒・喫煙歴なし。違法薬物の使用歴もない。診察の結果、患者は双極性障害と診断された。◆ 問154
◆ 問155
双極性障害に用いられる薬物の薬理作用に関する記述として、正しいのはどれか。2つ選べ。-
炭酸リチウムは、イノシトール 1-リン酸分解酵素を阻害し、ホスファチジルイ ノシトール(PI)代謝回転を亢進させる。
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オランザピンは、電位依存性 Ca2+チャネルの α2δ サブユニットに結合し、興奮性神経伝達物質の遊離を抑制する。
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アリピプラゾールは、ドパミン D2 受容体及びセロトニン 5-HT1A 受容体に対して部分刺激薬として作用する。
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カルバマゼピンは、γ-アミノ酪酸(GABA)トランスアミナーゼを阻害し、脳内GABA量を増加させる。
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ラモトリギンは、電位依存性 Na+チャネルを遮断し、神経細胞の過剰興奮を抑制する。
◆ 問154
◆領域・タグ
◆正解・解説
正解:1、2
この問題の核心は、症例文から「躁状態」の3大症状(気分高揚・思考促迫・活動性亢進)を的確に抽出できるか、そして「躁の妄想」と「うつの妄想」を正しく鑑別できるかにあります。
症例のポイント:「話が次々と脱線してまとまらない」「偉大な発見をした」「自分には特別な才能がある」「夜中に電話」「睡眠不要」「大量購入計画」「激怒」などは、すべて躁状態の典型的なエピソードです。
「観念奔逸(かんねんほんいつ)」は、正しい記述です。
症例にある「話の内容が次々と脱線し、まとまらない」状態を指します。思考が次から次へと奔放に湧き上がり、目的からそれて飛んでしまう状態です。統合失調症で見られる「連合弛緩(れんごうしかん)」との違いは、躁状態の観念奔逸には一応の「連想のつながり」がある点ですが、勢いが強すぎて論理がまとまりません。
「誇大妄想」は、正しい記述です。
「偉大な発見をした」「自分には特別な才能がある」といった、自分の能力・地位・財産などを過大に確信する妄想です。これは自己評価が極端に高まる躁状態に特徴的な症状です。
「罪業(ざいぎょう)妄想」は、誤りです。
これはうつ状態で見られる妄想であり、「自分は取り返しのつかない罪を犯した」「周りに迷惑をかけて申し訳ない」と思い込むものです。自分を過小評価する方向に向かいます。
「貧困妄想」は、誤りです。
これもうつ状態に特徴的で、「お金がなくなった」「破産して生活が成り立たない」と、事実とは異なり深刻に思い悩むものです。
「心気(しんき)妄想」は、誤りです。
うつ状態や統合失調症で見られ、「自分は重い病気(癌など)にかかっていてもう助からない」と思い込むものです。
【覚え方のコツ:ベクトルの方向を意識する】
うつの3大妄想は「ざい・ひん・しん(罪業・貧困・心気)」と覚えましょう。これらはすべて「自分を過小評価する方向」に向かいます。対照的に、躁状態の誇大妄想は「自分を過大評価する方向」へ向かいます。このベクトルの違いを意識すると、症例問題でのミスを防げます。
◆ 問155
◆領域・タグ
◆正解・解説
正解:3、5
この問題の核心は、双極性障害に用いられる薬物の「作用方向」を正確に理解しているかにあります。特に、炭酸リチウム(PI代謝回転の抑制)、アリピプラゾール(部分刺激薬としての調整機能)、ラモトリギン(Na+チャネル遮断)の3点を確実に押さえることが重要です。
「炭酸リチウム → PI代謝回転を『亢進』させる」は、誤りです。
炭酸リチウムは、イノシトール1-リン酸分解酵素(IMPase)を阻害することで、イノシトールの再利用を妨げ、結果としてPIP2の再合成を低下させます。これにより、過剰な信号伝達を抑える方向、つまりPI代謝回転を抑制するように働きます。神経の過度な活性化を和らげることが目的ですので、「亢進」という記述は正反対になります。
「オランザピン → α2δサブユニットに結合」は、誤りです。
電位依存性Ca2+チャネルのα2δサブユニットに結合するのは、ガバペンチノイド(プレガバリンやガバペンチン)の機序です。オランザピンは多受容体遮断型の非定型抗精神病薬(MARTA)であり、D2、5-HT2A、H1、M1など多くの受容体を遮断することで作用します。副作用として体重増加や血糖上昇があるため、糖尿病患者には禁忌である点も重要です。
「アリピプラゾール → D2・5-HT1A受容体への部分刺激薬」は、正しい記述です。
アリピプラゾールは「ドパミン・システム・スタビライザー(DSS)」と呼ばれます。ドパミンが多すぎる(躁状態など)ときには受容体に対して抑制的に、少なすぎる(うつ状態など)ときには刺激するように振る舞い、神経伝達を安定させます。このように、環境に合わせて「いい塩梅」に調整できるのが部分刺激薬(パシャルアゴニスト)の大きな特徴です。
「カルバマゼピン → GABAトランスアミナーゼ阻害」は、誤りです。
カルバマゼピンの主な機序は、電位依存性Na+チャネルの遮断による神経の過剰興奮抑制です。GABAトランスアミナーゼ(GABAの分解酵素)を阻害するのはビガバトリンという別の薬物です。カルバマゼピンは自己代謝誘導(CYP3A4を強く誘導する)の性質を持つため、血中濃度が低下しやすく、TDM(薬物血中濃度モニタリング)が必要な薬剤です。
「ラモトリギン → 電位依存性Na+チャネル遮断」は、正しい記述です。
ラモトリギンは、特に双極性障害の「うつ状態」の再発予防に用いられます。Na+チャネルを遮断して過剰な神経活動を抑えるとともに、興奮性伝達物質であるグルタミン酸の遊離を抑制する効果も持っています。
【実務・試験対策の注意点】
ラモトリギンは、非常に優れた薬ですが、スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)などの重篤な皮膚症状に注意が必要です。特に使い始めや増量時にリスクが高まるため、ゆっくりと慎重に投与量を増やす必要があります。また、バルプロ酸と併用するとラモトリギンの代謝が遅れ、副作用のリスクが跳ね上がるため、より慎重な管理が求められます。
