第111回薬剤師国家試験

◆問160-161

62 歳女性。10 年前から高血圧症と脂質異常症の治療を受けていたが、それ以外は心疾患を含めて既往歴はない。半年前より坂道や階段を昇るときに胸部圧迫感を自覚するようになったが、3 ~4 分程度安静にすると症状は消失していた。
現在も労作時に同様の胸部症状が現れるが、その強さや頻度、持続時間は半年前と比較して変わらないという。運動負荷心電図で ST の低下が認められ、さらに冠動脈造影検査などの諸検査の結果、労作性狭心症と診断された。その他の検査結果は以下のとおりであった。
(検査値)
血圧 140/92 mmHg、心拍 68 拍/分、LDL-C 132 mg/dL、HDL-C 43 mg/dL、TG(トリグリセリド)115 mg/dL、HbA1c 5.8%

◆ 問160


◆ 問161

狭心症治療薬の作用機序に関する記述として、正しいのはどれか。2つ選べ。
  • ニトログリセリンは、アデニル酸シクラーゼの活性化を介して、血管を拡張さ せる。
  • アテノロールは、アドレナリン β1 受容体を遮断して、心筋の酸素需要を減少 させる。
  • ニフェジピンは、電位依存性 L 型 Ca2+ チャネルを遮断して、冠動脈を拡張さ せる。
  • ジルチアゼムは、電位依存性 Na チャネルを遮断して、陰性の変時作用を示す。
  • ニコランジルは、ATP 感受性 K チャネルを遮断して、細動脈を拡張させる。

◆ 問160

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:2、4


この問題の核心は、患者さんの訴えから「安定型労作性狭心症」と「急性冠症候群(ACS)」を的確に鑑別できるか、そして冠動脈疾患合併時の厳格な管理目標値(血圧・脂質)を把握しているかという点にあります。症例において「半年間、胸痛の強さも頻度も変わっていない」という記述は、病態が安定していることを示す極めて重要な情報です。

「急性冠症候群(ACS)」は、誤りです。
ACS(不安定狭心症や心筋梗塞)は、症状が急変したり、安静時にも発作が起きたり、発作の頻度や持続時間が増悪するケースを指します。本症例の患者さんは「半年間、強さも頻度も変わらない」と明記されているため、安定型労作性狭心症と判断されます。

「冠動脈硬化による器質的狭窄」は、正しい記述です。
半年前から続く労作時の症状、安静による消失、運動負荷試験でのST低下、そして冠動脈造影の結果は、動脈硬化によって冠動脈が物理的に狭くなっている(器質的狭窄)典型的な像を示しています。安静時(夜間や早朝)に発作が起きる冠攣縮性狭心症とは病態が異なります。

「心筋トロポニン・CK値が上昇している」は、誤りです。
これらのバイオマーカーは心筋細胞が死滅(壊死)した際に血液中に漏れ出すサインであり、心筋梗塞で上昇します。安定狭心症では一時的な酸素不足(虚血)は起きますが、心筋の壊死までは至っていないため、これらの値は上昇しません。

「降圧目標は診察室血圧で130/80 mmHg未満」は、正しい記述です。
冠動脈疾患を合併した高血圧患者さんの場合、さらなるイベントを抑制するために目標値が厳格に設定されています。日本高血圧学会のガイドライン(JSH2019)においても、130/80 mmHg未満が推奨されています。本症例の140/92 mmHgは、まだ目標に達していない状態です。

「LDL-Cは管理目標値に達している」は、誤りです。
冠動脈疾患の既往がある患者さん(二次予防)において、LDL-Cの管理目標値は非常に厳しく、70 mg/dL未満とされています。本症例の132 mg/dLは目標値を大幅に超えており、脂質管理の改善が必要な状態です。

【試験対策のポイント:狭心症の「安定」と「不安定」】
診断の分かれ目は「変化」の有無です。
  • 安定: 数ヶ月間、発作の条件(階段を上るなど)や痛みの強さが変わらない状態です。
  • 不安定(ACS): 最近になって発作が増えた、軽い動きでも痛むようになった、あるいは安静にしていても痛むような急変した状態を指します。
また、バイオマーカー(トロポニン等)は「壊死(心筋梗塞)」の指標であり、「虚血(狭心症)」では上昇しないという区別を明確にしておきましょう。

◆ 問161

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:2、3


この問題の核心は、狭心症治療薬の代表的な3つの機序(①NO→cGMP経路による血管拡張、②β遮断による心筋酸素需要の抑制、③Ca2+拮抗による供給増加と負荷軽減)を、細胞内のシグナル伝達物質(cAMPかcGMPか等)を含めて正確に理解しているかにあります。

「ニトログリセリン → アデニル酸シラーゼの活性化」は、誤りです。
ニトログリセリンは、体内で一酸化窒素(NO)を遊離し、それが「可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)」を活性化することで、cGMP(サイクリックGMP)を増加させます。これにより平滑筋が弛緩し、血管が拡張します。アデニル酸シクラーゼを介したcAMP経路ではない点に注意してください。

「アテノロール → β1遮断 → 心筋酸素需要減少」は、正しい記述です。
アテノロールは心臓のβ1受容体を選択的に遮断します。これにより「心拍数の低下」「心筋収縮力の低下」「血圧の低下」が起こり、心臓の仕事量が減るため、心筋が必要とする酸素の量(需要)を抑えることができます。特に労作性狭心症の治療に極めて有効です。

「ニフェジピン → L型Ca2+チャネル遮断 → 冠動脈拡張」は、正しい記述です。
ニフェジピンはジヒドロピリジン(DHP)系Ca拮抗薬です。血管平滑筋のL型Ca2+チャネルを遮断することで、冠動脈を拡張させて心筋への酸素供給を増やします。同時に末梢血管も拡張させるため、後負荷を軽減して酸素需要を減らす効果も併せ持っています。

「ジルチアゼム → 電位依存性Na+チャネル遮断」は、誤りです。
ジルチアゼムは、ベンゾチアゼピン系のCa2+拮抗薬です。心筋や血管のCa2+チャネルを遮断することで作用を発揮します。Na+チャネル遮断は、抗不整脈薬(クラスI群)などの機序です。

「ニコランジル → KATPチャネルを『遮断』」は、誤りです。
ニコランジルは、KATPチャネルを開口(活性化)させる薬です。チャネルが開いてK+が細胞外へ流出すると、膜電位が過分極状態となり、結果としてCa2+の流入が抑えられて血管が拡張します。また、この薬は「NO様作用」も持っており、cGMPを増やすという二刀流の機序を持っています。

【試験対策のポイント:需要↓ vs 供給↑】
狭心症の治療戦略を2つの方向で整理しましょう。
  • 酸素の「需要」を減らす(心臓を休ませる): β遮断薬(アテノロール等)、硝酸薬(前負荷軽減)、Ca拮抗薬(後負荷軽減)
  • 酸素の「供給」を増やす(通り道を広げる): 硝酸薬(冠動脈拡張)、Ca拮抗薬(冠動脈拡張)
特にニトログリセリンの経路は「ニトロ→NO→sGC→cGMP」と一気に言えるようにしておくと、ひっかけ問題に強くなります。