第111回薬剤師国家試験

◆ 問169

抗悪性腫瘍薬の作用機序に関する記述として、正しいのはどれか。2つ選べ。
  • メルカプトプリンは、チオイノシン酸に代謝され、イノシン酸からアデニル酸 及びグアニル酸への生成を阻害する。
  • イリノテカンは、生体内で SN-38 に代謝された後、DNA ポリメラーゼを選択 的に阻害する。
  • ゲムシタビンは、DNA をアルキル化し、がん細胞の S 期移行性を阻害する。
  • リュープロレリンは、持続的刺激により下垂体 GnRH(性腺刺激ホルモン放出 ホルモン)受容体のダウンレギュレーションを起こし、精巣からのテストステロ ン分泌を抑制する。
  • ニボルマブは、がん細胞上の PD-L1 に結合して、T 細胞を活性化する。

◆ 問169

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:1、4


この問題の核心は、抗がん剤の多様な作用機序を分子レベルで正確に区別できているかにあります。特に「標的分子がDNAそのものか、酵素か、受容体か」という点や、ホルモン療法における「刺激による抑制(パラドックス効果)」といった特殊なメカニズムを理解することが重要です。

「メルカプトプリン → チオイノシン酸(TIMP)に代謝 → プリン体合成阻害」は、正しい記述です。
メルカプトプリンはプリン拮抗薬に分類される代謝拮抗薬です。体内で活性代謝物であるチオイノシン酸(TIMP)となり、IMPからAMPやGMPへの変換を阻害します。これにより、DNA合成に必要なプリンヌクレオチドの供給を断ち、がん細胞の増殖を抑えます。なお、この薬はキサンチン酸化酵素(XO)で代謝されるため、XO阻害薬であるアロプリノールを併用すると血中濃度が上昇し、骨髄抑制などの副作用が強まります。併用時は投与量を1/3〜1/4に減量する必要がある点は実務上も非常に重要です。

「イリノテカン → SN-38に代謝 → DNAポリメラーゼ阻害」は、誤りです。
イリノテカンの活性代謝物であるSN-38が標的とするのは、トポイソメラーゼIです。DNA複製時に生じる「ねじれ(超らせん)」を解消するこの酵素を阻害することで、DNAの一本鎖切断を修復不能にし、細胞をアポトーシス(細胞死)へ導きます。DNAポリメラーゼを阻害するわけではありません。また、SN-38は肝臓の酵素UGT1A1で無毒化されますが、この酵素の遺伝子多型を持つ患者さんでは、重篤な下痢や骨髄抑制が起こりやすいことが知られています。

「ゲムシタビン → DNAアルキル化」は、誤りです。
ゲムシタビンはピリミジン系のヌクレオシドアナログであり、代謝拮抗薬に分類されます。DNA鎖に取り込まれることで鎖の伸長を停止させたり、リボヌクレオチドレダクターゼを阻害してDNAの材料を枯渇させたりすることで作用します。直接DNAをアルキル化(化学結合して構造を壊す)するのは、シクロホスファミドやシスプラチンなどの薬剤です。

「リュープロレリン → GnRH受容体を持続刺激 → テストステロン分泌抑制」は、正しい記述です。
これは「GnRHアゴニストのパラドックス効果」と呼ばれる現象を利用しています。本来、GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)は脈動的に分泌されて下垂体を刺激しますが、リュープロレリンで持続的に刺激し続けると受容体のダウンレギュレーションが起こります。その結果、LHやFSHの分泌が低下し、最終的にテストステロンの産生が強力に抑えられます。投与初期には一時的にテストステロンが上昇する「フレアアップ」が起こるため、症状悪化を防ぐために抗アンドロゲン薬を先行投与することが一般的です。

「ニボルマブ → がん細胞上のPD-L1に結合」は、誤りです。
ニボルマブは、T細胞の表面にあるPD-1に結合する抗体薬です。がん細胞がT細胞のPD-1に「ブレーキ」をかけるのを防ぎ、免疫細胞の攻撃力を再活性化させます。がん細胞側のPD-L1に結合する薬剤は、アテゾリズマブなどの別の抗体薬です。ターゲットが「T細胞側か、がん細胞側か」を正確に区別してください。

【試験対策のポイント:免疫チェックポイント阻害薬の覚え方】
  • PD-1抗体: ボルマブ、ンブロリズマブ(名前に数字の1に似た文字が含まれるイメージで「1に結合」)
  • PD-L1抗体: テゾリズマブ、ュルバルマブ、ベルマブ(L1 = Ligand:がん細胞側の「リガンド」に結合)
また、免疫が暴走して起こるirAE(免疫関連有害事象)は、全身のあらゆる臓器に起こる可能性があるため、薬剤師は初期症状を見逃さないゲートキーパーとしての役割が期待されています。