第111回薬剤師国家試験

◆ 問171

静脈内投与された薬物の血液と脳の間の移行に関する記述として、正しいのはどれか。2つ選べ。ただし、血漿と脳組織間で薬物分布は平衡状態にあるものとする。
  • 血漿中の非結合形薬物は、主として脳毛細血管内皮細胞の間隙を通過して移行 する。
  • 同じ分子量の低分子薬物では、脂溶性が高いほど単純拡散による透過性が高い。
  • 単純拡散のみで移行する中枢作用薬では、血漿中非結合形濃度と脳内非結合形 濃度はほぼ等しい。
  • P-糖タンパク質の基質となる薬物では、血漿中非結合形濃度は脳内非結合形濃 度より低い。
  • 脳内へ能動輸送される薬物であっても、脳内非結合形濃度は血漿中非結合形濃 度を超えない。

◆ 問171

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:2、3


この問題の核心は、血液脳関門(BBB)の物理的なバリア構造(タイトジャンクション)と、トランスポーター(P-gpなど)が薬物の脳内移行にどのような方向で影響を与えるかを理解しているかにあります。

「非結合形薬物は脳毛細血管内皮細胞の『間隙』を通過する」は、誤りです。
BBBを構成する脳毛細血管の内皮細胞は、タイトジャンクション(密着結合)によって細胞同士の隙間がほぼ密閉されています。肝臓の類洞や腎糸球体などの末梢血管には物質が通り抜ける「窓(間隙)」がありますが、脳ではこのバリア機能により、薬物は細胞の間隙を自由に通り抜けることができません。これがBBBのバリア機能の本質です。

「脂溶性が高いほど単純拡散による透過性が高い」は、正しい記述です。
薬物が細胞内を通り抜けて脳へ移行する場合、細胞膜(リン脂質二重層)を通過する必要があります。そのため、一般的に脂溶性が高い薬物ほど単純拡散によってBBBを透過しやすくなります。

「単純拡散のみで移動する薬物の場合、平衡状態では血漿中非結合形濃度 ≒ 脳内非結合形濃度となる」は、正しい記述です。
受動拡散(単純拡散)は濃度勾配に従う双方向の移動であるため、十分な時間が経過して平衡状態に達すると、両側の非結合形濃度は等しくなります。式で表すと以下のようになります。
Cu, brainCu, plasma (平衡時、受動拡散のみの場合)

「P-gp基質の場合、血漿中非結合形濃度 < 脳内非結合形濃度となる」は、誤りです。
P-gp(P糖タンパク質)は、脳から血液の方向へと薬物を汲み出す「排出ポンプ」として働きます。そのため、P-gpの基質となる薬物は脳から積極的に追い出されてしまうため、脳内非結合形濃度 < 血漿中非結合形濃度となります。例えば、ロペラミドはオピオイド受容体刺激薬ですが、P-gpで脳から排出されるため、通常は中枢作用を示さず止瀉薬として安全に使用できます。

「能動輸送であっても、脳内非結合形濃度は血漿中非結合形濃度を超えない」は、誤りです。
OATP(有機アニオン輸送体)などの取り込み型トランスポーターによる能動輸送が行われる場合、ATPのエネルギーを利用して濃度勾配に逆らって薬物を運ぶことができます。この場合、脳内非結合形濃度が血漿中の濃度を超えることも十分にあり得ます。

【試験対策のポイント:脳内濃度を決める要因】
脳内への入りやすさは以下のバランスで決まります。
  • 入る力を強める: 脂溶性の高さ、取り込み型トランスポーター(能動輸送)。
  • 入る力を弱める(出す力を強める): P-gpなどの排出トランスポーター。
特にP-gp基質は「脳内濃度が血漿中より低くなる」という点は、臨床的な副作用や薬効を考える上でも非常に重要です。