第111回薬剤師国家試験
◆ 問194
遺伝子治療に関する記述として、正しいのはどれか。2つ選べ。-
対象となるのは、先天的疾患に限定されない。
-
ベクターとしてウイルスを用いることは、禁止されている。
-
治療のために導入する遺伝子から、患者のゲノム情報が分かる。
-
CAR-T 療法では、T 細胞にキメラ抗原受容体(CAR)を導入する。
-
治療のためであれば、生殖細胞への遺伝子導入は許容される。
◆ 問194
◆領域・タグ
◆正解・解説
正解:1、4
この問題の核心は、遺伝子治療がもはや一部の先天的疾患だけのものではなく、がんや感染症、加齢に伴う疾患など幅広く応用されている実態を理解することにあります。また、最先端のCAR-T療法の仕組みや、次世代に影響を及ぼす生殖細胞への介入禁止といった基本的ルールについても確認しましょう。
正解:1
「対象となるのは先天的疾患に限定されない」は、正しい記述です。
遺伝子治療は、かつてはADA欠損症などの遺伝性疾患が中心でしたが、現在はがんに対するCAR-T療法や腫瘍溶解性ウイルス、後天性感染症(HIV)、加齢黄斑変性など、さまざまな後天性疾患にも広く臨床応用されています。日本では2019年にキムリア®が承認されたことで、実用化時代が加速しました。
誤り:2
「ウイルスベクターの使用は禁止されている」は、誤りです。
むしろウイルスベクターは遺伝子導入効率が高いため、現在の遺伝子治療において主役のツールとなっています。レンチウイルスやアデノ随伴ウイルス(AAV)などが広く使用されており、例えばAAV9ベクターを用いたゾルゲンスマ®(脊髄性筋萎縮症治療薬)などが実用化されています。
誤り:3
「導入する遺伝子から患者のゲノム情報がわかる」は、誤りです。
治療のために導入されるのは「正常な機能を持つ外来遺伝子のコード配列」であり、患者自身がもともと持っている固有のゲノム配列(SNPや個人を特定する情報など)とは無関係です。したがって、導入された遺伝子から患者の個人情報を特定することはできません。
正解:4
「CAR-T療法では、T細胞にキメラ抗原受容体(CAR)を導入する遺伝子治療が行われる」は、正しい記述です。
これは「ex vivo(体外)」遺伝子治療の一種です。以下のプロセスで行われます。
- 1. 患者さんのT細胞を採取します。
- 2. 体外でウイルスベクター等を用いてCAR(キメラ抗原受容体)遺伝子を導入します。
- 3. CARを発現したT細胞を大量に培養して増やします。
- 4. その細胞を再び患者さんの体内に戻し、がん細胞(CD19陽性細胞など)を直接攻撃させます。
誤り:5
「治療のためであれば生殖細胞への遺伝子導入は許容される」は、誤り(絶対禁止)です。
生殖細胞(精子、卵子、受精卵)への遺伝子操作は、その影響が次世代以降に永久に引き継がれ、予測不能なリスクをもたらす恐れがあるため、国際的なコンセンサスによって厳格に禁止されています。現在許容されているのは、その患者さん個人の一代限りで完結する「体細胞」への治療のみです。
【試験対策のポイント:ベクターの分類】
- レトロウイルス・レンチウイルス: 宿主のゲノムに遺伝子を組み込むため、効果が持続しやすいのが特徴です(CAR-T療法などで使用)。
- アデノ随伴ウイルス(AAV): ゲノムに組み込まれにくく、分裂しない細胞(神経や筋肉など)への導入に適しており、安全性が高いとされています。
