第111回薬剤師国家試験
◆問206-207
74 歳男性。紅葉狩りのため、夫婦で3泊4日の温泉旅行に行った。帰宅後から発熱症状があり、体温 38.9 ℃(腋窩)、咳と呼吸が困難となる状態のため、総合病院を受診した。胸部レントゲン画像所見等から肺炎と診断され、入院加療となった。入院後、採血、血液培養、尿中抗原検査が実施され、以下の処方の薬剤の投与が開始された。(検査結果:入院直後)
体温 39.1 ℃、CRP 10.2 mg/dL、CCr 52 mL/min、AST 19 IU/L、
ALT 18 IU/L、SpO2 92%
(処方)
点滴静注 レボフロキサシン注射液
(500 mg/生理食塩液 100 mL) 1 バッグ(500 mg)
1日1回 午前 10 時~11 時 本日から7日間投与
投与開始3日目に血液培養検査の結果が出て、レジオネラ菌が原因であることがわかった。咳、呼吸困難の症状は軽快しており、食事も摂れるようになり、解熱傾向となった。そこで、退院に向けて、主治医から処方の薬剤を内服に切り替えたいとの相談が病棟担当薬剤師にあった。
(検査結果:点滴開始3 日後)
体温 37.2 ℃、CRP 2.3 mg/dL、CCr 48 mL/min、AST 19 IU/L、
ALT 18 IU/L、SpO2 97%
◆ 問206
処方されたレボフロキサシンは、ナリジクス酸からの構造変換により開発された抗菌薬である。レボフロキサシンに関する記述として、正しいのはどれか。2つ選べ。
-
イソキノリン構造を持つ。
-
ナリジクス酸の6 位へフッ素原子を導入したことにより、抗菌作用が増強した。
-
不斉炭素の立体配置は R 配置である。
-
抗菌作用の発現には、1 位の窒素原子と3 位のカルボキシ基によるキレート形成が必須である。
-
キラルスイッチにより副作用が軽減した医薬品である。
◆ 問207
◆ 問206
◆領域・タグ
◆正解・解説
正解:2、5
この問題は、ニューキノロン系抗菌薬であるレボフロキサシンの構造式から、その化学的な特徴や立体配置、そして抗菌作用のメカニズムを正確に読み取れるかを問う内容です。特に、フッ素置換による活性増強や、キラルスイッチの概念を整理しておきましょう。
誤り:1
「イソキノリン構造を有する」は、誤りです。
構造式を確認しますと、窒素原子(N)は1位に位置しています。これは「キノリン」骨格であり、2位に窒素があるイソキノリン構造ではありません。基本となる骨格の名前を正確に把握することが大切です。
正解:2
「6位にフッ素を導入することで、抗菌作用が強められている」は、正しい記述です。
キノリン骨格の6位にフッ素原子(F)を導入することは、ニューキノロン系抗菌薬の共通した大きな特徴です。この修飾により、グラム陰性菌だけでなくグラム陽性菌に対する活性も著しく向上し、抗菌スペクトルが拡大しました。
誤り:3
「不斉炭素の立体配置は R 配置である」は、誤りです。
レボフロキサシン(levofloxacin)は、その名称(levo:左旋性)の通り、S 配置の光学異性体です。この S 体が抗菌活性の主体であり、 R 体に比べて非常に高い活性を持っています。
誤り:4
「1位の窒素原子と3位のカルボキシ基によるキレート形成が必須である」は、誤りです。
キレート形成に関与するのは、1位の窒素ではなく、4位のオキソ基(=O)と3位のカルボキシ基(−COOH)です。この部分で、標的となるDNAジャイレースが保持するマグネシウムイオン(Mg2+)とキレートを形成し、酵素活性を強力に阻害します。
正解:5
「キラルスイッチによって副作用が軽減されている」は、正しい記述です。
もともとラセミ体(S 体と R 体の混合物)として販売されていたオフロキサシンから、抗菌活性の主体である S 体のみを取り出して製品化したものがレボフロキサシンです。このように活性体のみを用いる「キラルスイッチ」を行うことで、不要な異性体による副作用のリスクを減らし、より安全かつ効率的な治療が可能となりました。
【試験対策のポイント:ニューキノロン系の構造】
- 6位: フッ素(F)の導入で抗菌活性がアップします。
- 7位: ピペラジン環などの導入により、抗菌スペクトルの拡大や組織移行性が改善されます。
- 3位・4位: カルボキシ基とオキソ基で Mg2+ とキレートを形成します(DNAジャイレース阻害に必須です)。
- キラルスイッチ: オフロキサシン(ラセミ体)から、より活性の強いレボフロキサシン(S 体のみ)への切り替えを指します。
◆ 問207
◆領域・タグ
◆正解・解説
正解:2、3
この問題の核心は、患者さんの臨床状態が安定した際に、点滴から内服へ切り替える「IV-to-POスイッチ」を適切に提案できるかにあります。特にレボフロキサシンのような生体利用率(バイオアベイラビリティ)が高い薬剤の特性や、腎機能に応じた管理方法を理解しておくことが重要です。
誤り:1
「CRPが基準値以下になってから切り替える」は、誤りです。
点滴から内服への切り替えの主な指標は、解熱や呼吸状態の改善、経口摂取が可能であることなどの「臨床症状の改善」です。CRP(C反応性タンパク)は炎症の指標になりますが、値が正常化するまで待つ必要はありません。
正解:2
「腎機能は低下しているが、内服への切り替えは可能である」は、正しい記述です。
本症例の患者さんはクレアチニンクリアランス(CCr)が 48 mL/min であり、中等度の腎機能低下が認められます。レボフロキサシンは腎排泄型の薬剤であるため、腎機能に応じた「用量の調節(減量や投与間隔の延長)」は必要ですが、内服に切り替えること自体に問題はありません。
正解:3
「内服への切り替え時の初回投与量は、点滴静注時と同量とする」は、正しい記述です。
レボフロキサシンは経口服用時のバイオアベイラビリティが約 99% と非常に高く、点滴と内服で血中濃度にほとんど差が出ないため、同量換算での切り替えが基本となります。ただし、前述の通り CCr 48 mL/min であるため、その後の維持量については腎機能に合わせて再評価する必要があります。
誤り:4
「セファクロルを併用して治療を継続する」は、誤りです。
レジオネラ菌は細胞内に寄生する細菌(細胞内寄生菌)であるため、細胞内移行性の悪いセフェム系抗菌薬(セファクロル等)などの β-ラクタム系薬は基本的に無効です。レジオネラ肺炎には、細胞内移行性の良いキノロン系やマクロライド系が適しています。
誤り:5
「アルミニウム製剤を同時に服用すると、レボフロキサシンの吸収が良くなる」は、誤り(逆)です。
レボフロキサシンなどのキノロン系抗菌薬は、アルミニウムやマグネシウムなどの多価陽イオンと結合して「キレート」を形成します。このキレートは水に溶けにくく、腸管からの吸収が著しく低下するため、同時に服用してはいけません。
【試験対策のポイント:IV-to-POスイッチとキレート】
- IV-to-POの利点: 感染リスクの低減、早期退院の促進、医療コストの削減。
- バイオアベイラビリティ: レボフロキサシンやリネゾリドは「内服 ≒ 点滴」のため、スイッチの代表薬です。
- キレート形成: キノロン系・テトラサイクリン系 + 金属イオン(Al, Mg, Ca, Fe) = 吸収低下。
