第111回薬剤師国家試験

◆問210-211

 59歳男性。身長170cm、体重82kg。会社の健康診断で血糖値が高いことを毎年指摘されていたが放置していた。2年前に受診し、糖尿病治療薬が処方されたがほとんど服用せずに自己中断してしまった。最近になり、喉の渇き、頻尿、倦怠感が顕著となり、総合病院を受診した。空腹時血糖値が350mg/dL、HbA1cが10%を超過しており、主治医と相談の結果、7日間の糖尿病教育入院となった。
 入院後、処方1~3の薬剤が処方され、並行して食事・運動療法、インスリン自己注射、血糖自己測定法等の指導を受けた。

(処方1)
インスリンデグルデク(遺伝子組換え)ペン型注射液 1本
                  1回8単位 1日1回 就寝前
                  皮下注射(自己注射)

(処方2)
インスリンアスパルト(遺伝子組換え)ペン型注射液 1本
               1回3単位 1日3回 朝昼夕食直前
               皮下注射(自己注射)

(処方3)
ビルダグリプチン錠50mg 1回1錠(1日2錠)
                  1日2回 朝夕食後 7日分

◆ 問210

入院後、必要に応じて処方2のインスリン投与量を調節し、血糖コントロールが良好となってきた。退院時指導において、本患者へ伝える内容として、誤っているのはどれか。1つ選べ。
  • 使用後の針は、そのまま中身の見えるビニール袋に入れ、自治体の決まりに 従って廃棄すること。
  • 血糖測定の数値は、自ら記録すること。
  • 低血糖症状の発現に備えて、ブドウ糖などを手元におくこと。
  • 血糖コントロールが網膜症などの合併症予防に重要であること。
  • 風邪その他感染症などが原因で、血糖コントロールが不良となる可能性がある こと。

◆ 問211


◆ 問210

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:1


この問題の核心は、糖尿病治療でインスリン自己注射を行う患者さんに対し、針刺し事故を防ぐための「安全な廃棄方法」を正しく指導できるかにあります。選択肢の中から「誤っている指導」を見極める必要があります。

正解(誤った指導):1
「使用後の針をビニール袋に入れる」は、誤った指導です。
インスリンの注射針は非常に細く鋭利なため、ビニール袋に入れてしまうと簡単に袋を突き破って外に出てしまいます。これは、患者さんご本人はもちろん、ご家族やゴミを回収する担当者が誤って指を刺してしまう「針刺し事故」を招く極めて危険な行為です。

正しい対応:
使用済みの針は、「中身が見えない、突き刺しに強い硬い容器」(例:空のペットボトルや専用のプラスチック製廃棄容器など)に入れるよう指導します。容器がいっぱいになったら、各自治体や医療機関のルールに従い、受診時や薬局へ持参して適切に処分していただくのが正しい手順です。

【実務上のポイント:医療廃棄物の安全管理】
在宅医療で発生する注射針などは、感染症のリスクを考慮し、一般ゴミとして出さないことが原則です。
  • 指導の徹底: 「透明な袋」や「紙箱」では不十分であることを明確に伝えます。
  • 容器の例示: 患者さんが準備しやすいよう、「蓋の閉まる硬いプラスチックボトル」などの具体的な例を挙げるとスムーズです。
  • 廃棄場所の案内: 薬局で行っている「使用済み注射針回収事業」など、地域の回収ルールを併せて案内することが薬剤師の大切な役割です。

◆ 問211

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:1


この問題の核心は、ビルダグリプチンが持つ特定の官能基(ニトリル基)が、標的酵素であるDPP-4の活性中心とどのように反応して「共有結合」を形成するのか、その化学的プロセスを理解することにあります。

正解:1
「ビルダグリプチンのニトリル基とセリン残基が結合した構造」を示す選択肢1が正解です。
ビルダグリプチンは、構造中にニトリル基(−C≡N)を持つピロリジン誘導体です。この薬物がDPP-4の活性中心に入ると、酵素側のセリン残基(Ser−OH)の酸素原子が、ニトリル基の炭素原子に対して求核攻撃を行います。その結果、以下のような可逆的なイミデート様共有結合複合体を形成します。

Ser−OH + R−C≡N ⇌ R−C(=NH)−O−Ser
この特有の「可逆的な共有結合」によって、ビルダグリプチンはDPP-4を長時間にわたって阻害し続け、インクレチンの分解を抑えることができます。選択肢1の構造式は、このイミデート構造(−C(=NH)−O−)を正しく表しています。

誤り:2, 3, 4, 5
他の選択肢は、化学反応のプロセスや結合様式が誤っています。
  • 選択肢2(誤り): ニトリル基(−CN)が完全に加水分解されてカルボキシ基(−COOH)に変化した形であり、酵素との結合状態を正しく示していません。
  • 選択肢3(誤り): ニトリル基(−CN)が反応せずにそのまま残存しており、共有結合の形成が反映されていません。
  • 選択肢4(誤り): 結合の形がエステル型(−COO−)となっており、ニトリル基由来の窒素原子が含まれていないため誤りです。
  • 選択肢5(誤り): 窒素原子との結合様式などが不正確であり、正しいイミデート構造とは言えません。
【試験対策のポイント:ビルダグリプチンの特徴】
ビルダグリプチンやサキサグリプチンは、構造内に「ニトリル基」を持つことが最大の特徴です。
  • 反応部位: 酵素のセリン残基の水酸基。
  • 結合の性質: 可逆的な共有結合(強固だが、ゆっくりと離れる)。
  • 臨床的意義: この強固な結合により、血中から薬が消失した後も酵素の阻害効果が持続するため、1日1回〜2回の服用で十分な効果が得られます。