第111回薬剤師国家試験
◆問216-217
69 歳男性。高血圧治療中。20 歳頃から喫煙していた。最近、平坦なところを歩いていても息切れすることがあり、痰が少し絡むようになった。病院を受診したところ、COPD と診断された。薬物治療が開始されていたが、症状の改善が不十分であったため、以下の処方1~3 に変更となり、患者が処方箋を持って来局した。患者からの聞き取りによると、医師からは、「心不全はなく、入院の必要もない。」と説明されたとのことだった。お薬手帳の情報から、併用薬はなく、健康食品の摂取もなかった。また、インフルエンザワクチン接種が推奨される時期であり、接種について患者から質問があった。(処方1)
アノーロエリプタ 30 吸入用(注) 1 個
1回1吸入 1日1回 朝吸入
(処方2)
アンブロキソール塩酸塩徐放性口腔内崩壊錠 45 mg
1回1錠 (1日1錠)
1日1回 夕食後 30日分
(処方3)
カルボシステイン錠 250 mg 1回1錠 (1日3錠)
1日3回 朝昼夕食後 30 日分
注:1吸入でウメクリジニウムとして 62.5 μg 及びビランテロール25 μg を吸入できるドライパウダー吸入剤
◆ 問216
この患者には息切れや痰の絡みが生じている。気管支に関する記述として正しいのはどれか。2つ選べ。-
気管支は分岐を繰り返しながら細くなり、細気管支、終末細気管支、呼吸細気 管支を経て、肺胞へとつながる。
-
終末細気管支は、ガス交換に関与する。
-
細気管支の細胞から肺表面活性物質が分泌される。
-
気管支の内面は粘膜で覆われており、粘液を分泌する壁細胞が存在している。
-
気管支内に侵入した異物は粘液にからめとられ、線毛の運動により肺胞側へと 輸送される。
◆ 問217
◆ 問216
◆領域・タグ
◆正解・解説
正解:1、3
この問題の核心は、肺に至る空気の通り道(気道)がどのように分岐し、それぞれの部位でどのような細胞がどのような役割を担っているのかを正確に区別することにあります。
正解:1
「細気管支は、終末細気管支、呼吸細気管支、肺胞へと分岐する」は、正しい記述です。
気管支は枝分かれを繰り返して細くなっていきます。その順序は、細気管支 ――→ 終末細気管支 ――→ 呼吸細気管支 ――→ 肺胞管 ――→ 肺胞となります。このうち、実際にガス交換が行われるのは「呼吸細気管支」以降の部位です。
誤り:2
「終末細気管支は、ガス交換に関与する」は、誤りです。
終末細気管支は、空気を運ぶための専用通路(導管部)の最後の部分であり、まだ肺胞が存在しないため、ガス交換を行うことはできません。ガス交換が始まるのは、その次の段階である「呼吸細気管支」からです。
正解:3
「細気管支には、表面活性物質などを分泌する細胞が存在する」は、正しい記述です。
細気管支には「クラブ細胞(旧称:クララ細胞)」と呼ばれる細胞が存在します。この細胞は、肺表面活性物質(サーファクタント)の成分の一部や、気道を保護するためのタンパク質などを分泌する役割を担っています。なお、サーファクタントの主要な産生源は、肺胞にある「II型肺胞上皮細胞」です。
誤り:4
「気道粘膜には、粘液を分泌する壁細胞が存在する」は、誤りです。
気道において粘液を分泌するのは「杯細胞(かいさいぼう)」や「粘液腺」です。「壁細胞」は胃の粘膜に存在し、胃酸を分泌する細胞ですので、混同しないように注意しましょう。
誤り:5
「粘液線毛輸送系は、付着した異物を肺胞側へ運ぶ」は、誤りです。
気道粘膜の線毛運動による輸送方向は、常に咽頭側(口側)に向かっています。これにより、吸い込んでしまった塵や細菌などの異物を、痰として体外へ排出したり、食道へ送り込んだりして肺を守っています。肺胞側へ運んでしまうと肺が汚染されてしまうため、逆方向の働きとなります。
【試験対策のポイント:気道の分類と役割】
- 導管部(ガス交換なし): 気管 〜 終末細気管支。空気の通り道。
- 呼吸部(ガス交換あり): 呼吸細気管支 〜 肺胞。酸素と二酸化炭素の交換場所。
- 防衛機構: 線毛運動は「下から上(口側)」への一方通行。
◆ 問217
◆領域・タグ
◆正解・解説
正解:2、4
この問題の核心は、COPDの管理において「症状が安定していても吸入を継続する意義」を理解し、吸入薬(LAMA/LABA)の心血管系への副作用を考慮した適切なモニタリングや生活指導ができるかにあります。
誤り:1
「運動は控えるよう説明する」は、不適切な指導です。
COPDの患者さんにとって、適切な運動(呼吸リハビリテーション)は、呼吸困難の軽減や運動耐容能の向上、ひいては生活の質(QOL)の改善に不可欠です。完全に安静にするのではなく、個々の体力に合わせた無理のない運動を継続することが推奨されます。
正解:2
「症状が安定している日でも毎日継続して吸入するよう説明する」は、正しい指導です。
処方されている長時間作用性抗コリン薬(LAMA)や長時間作用性 β2 刺激薬(LABA)は、気管支を広げた状態を保ち、息切れを軽減して「増悪(急激な悪化)」を防ぐための維持療法です。自覚症状が少ない日であっても、自己判断で中断せずに毎日規則正しく使用していただくことが重要です。
誤り:3
「動悸がしても、続けていれば治まるので心配ないと説明する」は、不適切な対応です。
吸入薬に含まれる β 刺激成分が心臓に影響し、動悸が現れることがあります。「慣れるまで待つ」と安易に断言するのではなく、動悸が生じた場合には医師や薬剤師に相談するよう伝え、必要に応じて副作用の評価や薬剤の変更を検討しなければなりません。
正解:4
「血圧上昇や動悸などの症状が現れる可能性があることを説明する」は、適切な指導です。
β2 刺激薬は、本来肺に作用することを目的としていますが、過量投与や個体差によって心臓の β1 受容体も刺激してしまうことがあり、その結果として脈拍の増加(動悸)や血圧の上昇を招く恐れがあります。特に高血圧の持病がある患者さんには、これらの変化に注意していただく必要があります。
誤り:5
「インフルエンザワクチンの接種は控えるよう説明する」は、誤りです。
COPDの患者さんがインフルエンザなどの呼吸器感染症にかかると、病状が急激に悪化する「増悪」を引き起こしやすく、命に関わることもあります。そのため、予防策としてインフルエンザワクチンの接種は強く推奨されています。
【試験対策のポイント:COPD管理の鉄則】
- 薬物療法: LAMA(抗コリン)やLABA(β2刺激)による「毎日継続」の維持療法が基本です。
- 副作用注意: 心血管系への影響(動悸・血圧変動)は、特に高齢者や合併症のある方で重要です。
- 非薬物療法: 適度な運動(リハビリ)と、増悪を防ぐためのワクチン接種(インフルエンザ・肺炎球菌)が推奨されます。
