第111回薬剤師国家試験

◆問220-221

58歳男性。身長168cm、体重70kg。3年前に2型糖尿病と診断され、食事療法と運動療法に加え、処方1の薬剤で治療を受けていた。足に痛みやしびれが生じたため、本日、処方2及び処方3の薬剤が追加になり、検査値が併記された処方箋を持って薬局を訪れた。薬剤師による聞き取りにより、半年前から他の医療機関で処方されたパロキセチン錠20mgを服用していることが分かった。

(処方1)
テネリグリプチン臭化水素酸塩水和物・カナグリフロジン水和物配合錠(注)
              1回1錠 (1日1錠)
              1日1回 朝食前 30日分

(処方2)
エパルレスタット錠50mg  1回1錠 (1日3錠)
             1日3回 朝昼夕食前 30日分

(処方3)
デュロキセチン塩酸塩カプセル20mg  1回1錠 (1日2錠)
                  1日2回 朝夕食後 30日分

[注:テネリグリプチンとして20mg、カナグリフロジンとして100mgを含有する。]


(本日の処方箋に記載されていた検査値)
血圧 115/65 mmHg、HbA1c 7.0%、CCr 90 mL/min、AST 14 IU/L、
ALT 16 IU/L、LDL-C 95 mg/dL、TG(トリグリセリド)155 mg/dL、
空腹時血糖 114 mg/dL

◆ 問220

処方2の薬剤は、アルドース還元酵素を阻害する。以下の反応のうち、アルドース還元酵素が触媒するのはどれか。1つ選べ。111回問220-221画像1

◆ 問221


◆ 問220

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:5


この問題の核心は、糖尿病の合併症である神経障害の機序(ポリオール経路)を理解し、アルドース還元酵素がグルコースの「アルデヒド基」を「水酸基(アルコール)」へと還元する化学的変化を、構造式から正しく見極めることにあります。

正解:5
「グルコースのアルデヒド基が還元され、ソルビトールが生成される反応」を示す選択肢5が正解です。
中心に描かれたグルコースの構造式を見ると、一番上の炭素がアルデヒド基(−CHO)になっています。アルドース還元酵素はこの部分を還元し、−CH2OH(ヒドロキシメチル基)へと変化させます。選択肢5の構造は、この還元反応後の姿であるソルビトールを正しく表しています。
反応式としては以下の通りです:
Glucose (−CHO) + NADPH + H+ → Sorbitol (−CH2OH) + NADP+

誤り:1, 2, 3, 4
他の選択肢は、還元反応ではない別の変化を示しています。
  • 選択肢1(誤り): アルドース(グルコース)からケトース(フルクトース)への異性化反応であり、還元ではありません。
  • 選択肢2(誤り): 糖のリン酸化反応であり、エネルギー代謝などの初期段階で見られる変化です。
  • 選択肢3・4(誤り): アルデヒド基がさらに酸化されてカルボキシ基(−COOH)が生成される方向の変化であり、今回の「還元酵素」による反応とは真逆のプロセスです。
【試験対策のポイント:糖尿病性神経障害の機序】
高血糖状態が続くと、体内で以下のプロセスが進み、神経がダメージを受けます。
  • ポリオール経路の活性化: 余剰なグルコースがアルドース還元酵素によってソルビトールに変えられます。
  • 障害の発生: 細胞内に蓄積したソルビトールが浸透圧障害を引き起こし、さらにミオイノシトールが枯渇することで神経機能が低下します。
  • 治療薬との関連: 本症例の処方2にあるエパルレスタットは、このアルドース還元酵素を阻害することでソルビトールの蓄積を抑え、神経障害の進行を遅らせる薬剤です。

◆ 問221

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:5


この問題の核心は、併用薬であるパロキセチン(SSRI)と、新規に処方されたデュロキセチン(SNRI)との間に存在する「薬物代謝酵素を介した相互作用」および「セロトニン作用の重複」によるリスクを正しく評価し、より安全な薬剤への変更を提案できるかにあります。

正解:5(処方3の薬剤をミロガバリンベシル酸塩錠へ変更する)
患者さんは以前から他科でパロキセチン錠20 mgを服用しています。パロキセチンはCYP2D6を強力に阻害する性質を持っており、一方で新規処方のデュロキセチンは主にCYP2D6で代謝されます。このため、併用によってデュロキセチンの血中濃度が著しく上昇する恐れがあります。また、両剤ともにセロトニン再取り込み阻害作用を持つため、セロトニン作用が過剰となり、重篤なセロトニン症候群(悪心、ふらつき、発汗、振戦など)を引き起こすリスクが高まります。

これらのリスクを回避するためには、セロトニン系に作用せず、かつCYP2D6の影響を受けにくい神経障害性疼痛治療薬への変更が最も適切です。ミロガバリン(選択肢5)は、電位依存性カルシウムチャネルの α2δ サブユニットに結合することで痛みを抑える薬剤であり、セロトニン系薬剤との重複を避けられるため、適切な提案となります。

誤り:1・2・3・4
  • 選択肢1: 単なる増量の提案であり、相互作用による副作用のリスクをむしろ増大させるため不適切です。
  • 選択肢2: 血糖コントロールの改善は重要ですが、現在生じている神経障害性疼痛への直接的な薬物治療の是正にはなりません。
  • 選択肢3: 痛みが強いからといって、相互作用のある薬剤をそのまま増量することは非常に危険です。
  • 選択肢4: 減量することでリスクは多少軽減されますが、パロキセチンによる強力な酵素阻害がある状況下では、併用自体の回避を優先して検討すべきです。
【実務上の留意点:セロトニン症候群への警戒】
パロキセチンとデュロキセチンの併用は、添付文書上でも「相互作用」の項で注意喚起されています。薬剤師は、患者さんの他科受診状況を把握し、今回のような併用禁忌に近い組み合わせや、副作用増強のリスクがある場合には、速やかに医師へ代替薬の提案(疑義照会)を行う必要があります。
【補足:デュロキセチンの標準的な用法】
デュロキセチンは通常、1日1回朝食後に服用する薬剤です。本処方の「1日2回」という指示は標準的な用法と異なるため、相互作用の問題以外にも、用法自体の意図についても確認が必要です。