第111回薬剤師国家試験

◆問224-225

72歳女性。嗄声が継続していたため近医を受診した。胸部X線検査で右肺腫瘤を指摘され、総合病院呼吸器内科を紹介受診した。精査の結果、cT2N3M1b、Stage ⅣA の非小細胞肺がん(腺がん)と診断された。パフォーマンスステータス(PS)0。EGFR 遺伝子変異陰性、ALK 遺伝子転座陰性、ROS1 遺伝子転座陰性、BRAF 遺伝子変異陰性、PD-L1 ≧ 50%。一次治療としてペムブロリズマブが投与されることになった。

◆ 問224


◆ 問225

この患者へのぺムブロリズマブの投与にあたり、病棟担当薬剤師が留意することとして適切なのはどれか。2つ選べ。
  • 投与前における制吐剤の予防投与
  • 投与前における腎機能に応じた用量の調節
  • 治療中の咳、息苦しさなどの症状
  • 治療中の甲状腺機能の異常
  • 治療中の EGFR 遺伝子変異陰性に伴う副作用の増悪

◆ 問224

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:1、5


この問題の核心は、免疫システムががん細胞を認識して攻撃するプロセスと、がん細胞がその攻撃を回避する「免疫チェックポイント」の仕組みを正確に区別することにあります。

正解:1
「樹状細胞は腫瘍抗原をMHCクラスII分子で提示し、ヘルパーT細胞を活性化する」は、正しい記述です。
樹状細胞などの抗原提示細胞(APC)は、取り込んだ腫瘍抗原を断片化し、MHCクラスII分子を用いてヘルパーT細胞(CD4陽性T細胞)に提示することで、免疫応答を始動させます。また、同時にMHCクラスI分子を介してキラーT細胞(CD8陽性T細胞)を活性化させる「クロスプレゼンテーション」という働きも持っています。

誤り:2
「制御性T細胞(Treg)は免疫応答を増強する」は、誤りです。
制御性T細胞(Treg)は、過剰な免疫反応を抑え、自己免疫疾患を防ぐなどの「免疫抑制」の役割を担っています。がん組織においては、がん細胞を攻撃する免疫を邪魔してしまう(抑制する)方向に働きます。

誤り:3
「CD80/86はCTLA-4に結合してT細胞を活性化する」は、誤りです。
CD80(B7-1)やCD86(B7-2)がT細胞上のCD28に結合すると活性化シグナルが入ります。一方で、CTLA-4に結合した場合は、逆に免疫応答を「抑制」するシグナルが入ります。

誤り:4
「がん細胞上のPD-L1はT細胞のCD28に結合する」は、誤りです。
がん細胞の表面に発現しているPD-L1が結合する相手は、T細胞上のPD-1受容体です。

正解:5
「PD-L1はT細胞のPD-1に結合し、免疫応答を抑制する」は、正しい記述です。
がん細胞がPD-L1を出すことで、T細胞のPD-1に抑制シグナルを送り、キラーT細胞による殺傷能力を弱めてしまいます。これが免疫チェックポイントと呼ばれる「ブレーキ」の仕組みです。ペムブロリズマブ(問225)などの抗体薬は、この結合をブロックすることで免疫のブレーキを外し、攻撃を再開させます。

【試験対策のポイント:免疫チェックポイントの組み合わせ】
  • アクセル(活性化): CD80/86 + CD28
  • ブレーキ(抑制): CD80/86 + CTLA-4(抗体薬:イピリムマブ)
  • ブレーキ(抑制): PD-L1 + PD-1(抗体薬:ニボルマブ、ペムブロリズマブ)

◆ 問225

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:3、4


本問は、非小細胞肺がんの治療に用いられる免疫チェックポイント阻害薬(ICI)であるペムブロリズマブの副作用管理に関する実践的な知識を問う問題です。ICI特有の副作用であるirAE(免疫関連有害事象)は、全身のあらゆる臓器に発現する可能性があり、その早期発見と適切な対処が患者の予後を大きく左右します。

選択肢3:正解
投与中に「咳」や「息苦しさ」といった症状が現れた場合、免疫関連肺障害である間質性肺炎の重要な兆候(臨床的なトリガー)と捉える必要があります。これは実務上、最も警戒すべき重篤なirAEの一つであり、速やかに画像診断や呼吸器専門医へのコンサルテーションを行うなどの早期対応が不可欠です。

選択肢4:正解
ペムブロリズマブの投与により、内分泌障害として甲状腺機能障害(機能低下症や機能亢進症、甲状腺炎など)が高頻度に認められます。自覚症状が乏しい場合もあるため、TSH(甲状腺刺激ホルモン)やFT4(遊離サイロキシン)などの検査値を定期的にモニタリングし、機能の変化を監視することが推奨されます。

選択肢1:誤り
本剤は、シスプラチンなどの細胞毒性抗がん剤と比較して催吐性リスクは高くありません。そのため、ガイドライン上も原則として予防的な制吐薬の投与は必須ではなく、必要に応じて適宜対応する薬剤に分類されます。

選択肢2:誤り
ペムブロリズマブは、原則として腎機能の低下に応じた用量調節を必要としません。腎機能よりも、前述したirAEとしての腎障害の有無を監視することの方が臨床的には重要です。

選択肢5:誤り
EGFR遺伝子変異の有無やPD-L1の発現状況などは、治療薬を選択する際の重要な「治療選択の背景(背景因子)」となりますが、それ自体がペムブロリズマブによる副作用を直接的に増悪させる因子とは言えません。