第111回薬剤師国家試験

◆問228-229

69歳女性。乳がん切除後6日目に悪寒と38.6℃の発熱を認め、タゾバクタム・ピペラシリンの投与が開始された。その3日後にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が創部から検出されたため、抗菌薬がバンコマイシンに変更された。バンコマイシン投与開始後7日目の抗菌薬適正使用支援チーム(AST)回診前の検査所見は以下のとおりであった。

(検査所見)
体温:36.2 ℃
血液検査:白血球 8,600/μL、赤血球 462 × 104/μL、血小板 18 × 104/μL、
  AST 24 IU/L、ALT 30 IU/L、LDH 212 IU/L、
  総ビリルビン 1.2 mg/dL、血清クレアチニン 0.6 mg/dL、
  eGFR 65.6 mL/min/1.73 m2、空腹時血糖 98 mg/dL、
  TG(トリグリセリド)145 mg/dL、総コレステロール 180 mg/dL、
  尿酸 6.5 mg/dL、CRP 0.25 mg/dL
創部浸出液:なし

◆ 問228

医師より前にこの検査所見を見た薬剤師が提案する内容として最も適切なのはどれか。1つ選べ。
  • バンコマイシンからリネゾリドへの変更
  • バンコマイシンからテイコプラニンへの変更
  • バンコマイシンからセファゾリンへの変更
  • バンコマイシンの減量
  • バンコマイシンの中止

◆ 問229


◆ 問228

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:5


この問題の核心は、患者さんの臨床症状(体温、血液検査、患部の状態)の経過を正しく評価し、抗菌薬の適正使用(抗菌薬適正使用支援:AST)の観点から、不要な投与の継続を中止する提案ができるかにあります。

正解:5(バンコマイシンの中身を中止する)
症例の経過を確認すると、以下の通り臨床所見が著しく改善しています。
  • 体温: 36.2度まで解熱しています。
  • CRP(炎症反応): 0.25 mg/dL と正常範囲内になっています。
  • 創部の状態: 浸出液が消失しており、局所の感染も収束していると考えられます。
このように、MRSAに対する治療効果が十分に得られており、感染が沈静化していることが明確です。ASTの視点では、継続の必要性が乏しい状況でバンコマイシン(VCM)の使用を続けることは、薬剤耐性菌の出現や、腎毒性などの副作用リスクを高める不利益を招くだけです。したがって、このタイミングでバンコマイシンの終了(中止)を提案することが、臨床的に最も適切かつ自然な判断となります。

誤り:1・2・3・4
他の選択肢は、いずれも治療を継続または強化する方向の内容ですが、現在の患者さんの良好な経過に照らすと不適切です。
  • 増量や血中濃度モニタリングの継続(1・2): すでに治療目標を達成しているため、さらなる増量や厳密な管理を行う必要はありません。
  • 他剤への切り替え(3・4): リネゾリドやダプトマイシンといった他のMRSA治療薬に変更する理由も、現時点での改善状況からは認められません。
【実務・AST業務のポイント】
抗菌薬治療において、薬剤師が介入する重要な役割の一つが「不必要な投与の終了」を促すことです。
  • 評価の基準: 解熱状況、炎症データの正常化、臨床症状(患部の赤みや腫れの消失)を総合的に判断します。
  • 安全性の確保: バンコマイシンは腎機能への影響が懸念される薬剤です。治療の目的が達成された後は、速やかに中止することで患者さんの安全を守ります。
  • 臨床現場での確認: 実際の実務では、深部感染や菌血症の有無、培養結果の推移を最終確認した上で、自信を持って終了提案を行います。

◆ 問229

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:1、4


この問題の核心は、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が引き起こす感染症の臨床的な特徴と、日本の「感染症法」に基づいた公衆衛生上の扱いを正確に区別することにあります。

正解:1
「日和見感染症の1つである」は、正しい記述です。
黄色ブドウ球菌は健康な人の皮膚や鼻腔などにも存在する常在菌ですが、手術後の患者さんや免疫力が低下した方(易感染性宿主)においては、感染症を引き起こす原因となります。MRSAも同様に、抵抗力が低下した際に感染症を発症する代表的な「日和見感染症」の起炎菌として知られています。

誤り:2
「特定の職業への就業制限対象である」は、誤りです。
感染症法において就業制限の対象となるのは、一類、二類、三類感染症、および新型インフルエンザ等感染症など、感染力が非常に強い特定の疾患に限られます。MRSAは「五類感染症」に分類されており、法的な就業制限の対象には含まれていません。

誤り:3
「第一種感染症指定医療機関へ転院させる必要がある」は、誤りです。
第一種感染症指定医療機関は、エボラ出血熱などの一類感染症患者を受け入れるための非常に高度な設備を持つ施設です。MRSA感染症においてそのような転院措置が法的に求められることはありません。

正解:4
「定点把握の対象疾患である」は、正しい記述です。
MRSA感染症は、感染症法上の五類感染症(定点把握対象)に指定されています。全国のすべての医療機関から報告を求める全数把握とは異なり、指定された特定の医療機関(基幹定点)から定期的に発生状況が報告される仕組みになっています。

誤り:5
「院内患者からのみ検出される」は、誤りです。
以前は「病院の中でうつる菌(院内感染)」というイメージが強かったのですが、現在は医療機関を受診していない健康な人の間で広がる「市中獲得型MRSA(CA-MRSA)」も報告されています。そのため、検出場所を院内だけに限定することはできません。

【試験対策のポイント:感染症法の分類】
五類感染症のうち、特に「定点把握」と「全数把握」の区別は試験でよく問われます。
  • 全数把握(五類): 梅毒、アメーバ赤痢、ウイルス性肝炎など(重要性が高いもの)。
  • 定点把握(五類): MRSA、インフルエンザ、性器クラミジア感染症など。
MRSAは「五類・定点」のグループであることをしっかり押さえておきましょう。