第111回薬剤師国家試験

◆問232-233

66歳女性。12月下旬、忘年会で海産物を食べた後、嘔吐と下痢で内科を受診し、ノロウイルス感染症と診断された。この女性は、医療機関で点滴を受けた後、処方箋を薬局に持参した。
トイレを借りたいと申し出があり、薬局スタッフが案内する途中で嘔吐した。その後、トイレの便器でも嘔吐したため、薬局スタッフが吐瀉物の処理を行うことになった。

◆ 問232

薬剤師がこの薬局スタッフに指示した内容として適切なのはどれか。2つ選べ。
  • マスク、ゴム手袋、エプロン及びフェイスシールドを着用する。
  • 吐瀉物の処理は、感染拡大防止のため窓を閉め切って行う。
  • 患者が触れた手すりやドアノブの消毒は、ベンザルコニウム塩化物液で行う。
  • 洋式便座の消毒は、グルタラール液で2度拭きする。
  • 吐瀉物が付着した白衣の消毒は、0.1%次亜塩素酸ナトリウム液への浸漬によ り行う。

◆ 問233


◆ 問232

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:1、5


この問題の核心は、ノロウイルスによる二次感染を防ぐために、適切な個人防護具(PPE)の着用、換気、およびウイルスの特性に合わせた有効な消毒薬を正しく選択できるかにあります。

正解:1
「使い捨てのマスク、手袋、エプロンに加え、ゴーグルを着用するよう指示する」は、正しい指示です。
吐瀉物を処理する際は、ウイルスが空気中に飛散し、それを吸い込むことで感染する(エアロゾル感染)リスクがあります。そのため、口や鼻だけでなく、目を保護するためのゴーグルやフェイスシールドも含めたフル装備の防護具を着用することが推奨されます。

誤り:2
「窓を閉め切って処理するよう指示する」は、誤りです。
処理中に舞い上がったウイルスによる空気汚染を軽減するため、窓を開けて十分に換気を行いながら作業を進める必要があります。

誤り:3
「手すりやドアノブの拭き取りにベンザルコニウム塩化物を用いるよう指示する」は、誤りです。
ノロウイルスは、脂質の膜である「エンベロープ」を持たないウイルスのため、ベンザルコニウム塩化物(逆性石けん)や消毒用エタノールは十分な効果が期待できません。環境表面の消毒には、次亜塩素酸ナトリウムを使用するのが適切です。

誤り:4
「床の拭き取りにグルタラールを用いるよう指示する」は、誤りです。
グルタラールは強力な高水準消毒薬ですが、人体に対する刺激性や毒性が非常に強いため、日常的な環境表面の拭き取りに使用するのは不適切です。通常、医療器具の消毒などに限定して用いられます。

正解:5
「汚染された衣類は、0.02%〜0.1%の次亜塩素酸ナトリウム液に浸漬するよう指示する」は、正しい指示です。
吐瀉物が付着した衣類は、85 °C で 1 分間以上の熱水洗濯が最も有効ですが、それが困難な場合は、0.02%〜0.1%(200〜1000 ppm)程度の次亜塩素酸ナトリウム液に一定時間(約 30 分間)浸すことで、ウイルスを不活化させることができます。

【実務上のポイント:ノロウイルス消毒の濃度目安】
  • 0.1%(1000 ppm): 吐瀉物や糞便が直接付着した床や場所の清拭に使用します。
  • 0.02%(200 ppm): 汚染場所の周囲や、直接汚染されていない手すり・ドアノブ、あるいは衣類の浸漬消毒に使用します。

◆ 問233

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:1、5


この問題の核心は、食中毒の原因となる細菌、ウイルス、寄生虫がそれぞれどのような環境で死滅するか、あるいは増殖するかという特性を正しく把握し、適切な予防法を選択できるかにあります。

正解:1
「ノロウイルス汚染の恐れがある二枚貝を、中心部が 85 °C で 5 分間になるよう加熱して提供した」は、正しい予防法です。
ノロウイルスの不活化には、通常「中心部が 85〜90 °C で 90 秒以上」の加熱が必要とされています。設問の「85 °C で 5 分間」という条件はこれを十分に満たしているため、効果的な予防策といえます。

誤り:2
「嘔吐型セレウス菌による食中毒を予防するため、調理後のチャーハンを十分に再加熱した」は、誤りです。
セレウス菌(嘔吐型)が食品中で産生する毒素「セレウリド」は、非常に耐熱性が高く、通常の調理加熱(126 °C で 90 分の加熱でも失活しないとされる)では分解されません。そのため、一度毒素が作られてしまうと再加熱による予防は困難です。調理後は速やかに食べるか、室温放置を避けることが重要です。

誤り:3
「ウェルシュ菌による食中毒を予防するため、調理後のカレーを 45 °C で 5 分間加熱した」は、誤りです。
45 °C 付近は、ウェルシュ菌が最も活発に増殖する「至適増殖温度域」に含まれます。この温度で放置や加熱をすることは、むしろ菌の増殖を助けてしまうため、予防策としては不適切です。予防には、加熱調理後の速やかな冷却や、中心部まで届く十分な再加熱が必要です。

誤り:4
「カンピロバクターによる食中毒を予防するため、鶏肉を −20 °C で 48 時間冷凍した」は、誤りです。
カンピロバクターは冷凍耐性を持っており、家庭用や業務用の冷凍庫(−20 °C 程度)で数日間保存しても死滅しません。鶏肉などを介した感染を防ぐには、中心部までしっかり加熱(75 °C 以上で 1 分以上)することが不可欠です。

正解:5
「アニサキスによる食中毒を予防するため、サバを −20 °C で 48 時間冷凍した」は、正しい予防法です。
寄生虫であるアニサキスの幼虫は、冷凍処理によって死滅します。厚生労働省の指針では「−20 °C で 24 時間以上の冷凍」が有効とされており、設問の「48 時間」はこれを十分に満たしています。なお、70 °C 以上の加熱(または 60 °C で 1 分以上)も有効な予防手段です。

【試験対策のポイント:予防法のまとめ】
  • ノロウイルス: 85〜90 °C、90 秒以上の加熱。
  • セレウス菌(嘔吐型): 毒素(セレウリド)は熱に強いため、再加熱は無効。
  • ウェルシュ菌: 大鍋料理(カレー等)の室温放置は厳禁。45 °C 付近は増殖ゾーン。
  • カンピロバクター: 少量の菌でも発症し、冷凍に強い。十分な加熱が必須。
  • アニサキス: 冷凍(−20 °C、24 時間以上)または加熱が有効。