第111回薬剤師国家試験
◆問234-235
84歳男性。身長 165 cm、体重 60.5 kg。直腸がん(Stage Ⅲb)に対して、腹腔鏡下直腸切断術が施行された。術後疼痛管理のためアセトアミノフェン静注液1,000 mg を手術当日に1回投与した。疼痛が継続したため、さらに術後1日目と2日目に1日4回投与した。術後3日目の血液検査で総ビリルビン 2.63 mg/dL、AST 5,991 IU/L、ALT 4,438 IU/L であったため、アセトアミノフェン血漿中濃度を測定した結果、解毒薬の投与推奨域であった。◆ 問234
◆ 問235
提案した解毒薬の投与により、肝臓内で生成量が増えるアセトアミノフェン代謝物はどれか。1つ選べ。
◆ 問234
◆領域・タグ
◆正解・解説
正解:2
この問題の核心は、アセトアミノフェンの過量投与によって生じる肝障害のメカニズムを理解し、その毒性を中和するために最も適切な解毒薬を、生体内反応(グルタチオン抱合)の観点から選択できるかにあります。
正解:2(N-アセチルシステイン)
本症例では、術後疼痛の管理目的でアセトアミノフェンが1日4,000 mg投与され続けており、著明な肝機能数値の悪化(AST 5,991 / ALT 4,438 IU/L)が見られます。血中濃度も解毒薬投与の推奨域に達しているため、N-アセチルシステイン(NAC)の投与が最も適切です。
【詳細解説とメカニズム】
アセトアミノフェンは通常、肝臓で「グルクロン酸抱合」または「硫酸抱合」を受けて無毒化されます。しかし、過量投与時にはこれらの処理能力を超えてしまい、別の経路(主にCYP2E1など)によって酸化され、NAPQI(N-アセチル-p-ベンゾキノンイミン)という毒性の強い中間代謝物が生成されます。
通常、少量のNAPQIであれば生体内のグルタチオン(GSH)と抱合することで解毒されますが、過量投与時はこのグルタチオンが枯渇してしまいます。その結果、NAPQIが肝細胞のタンパク質と結合し、広範な肝細胞壊死を引き起こします。
ここでN-アセチルシステインを投与すると、体内でシステインを供給することでグルタチオンの再合成を促進し、NAPQIの解毒ルートを回復させることができます。これにより、肝障害の進行を最小限に抑えることが可能となります。
誤り:1, 3, 4, 5
- 選択肢1(ピリドキシン): ビタミンB6であり、アセトアミノフェンの解毒には直接関与しません。
- 選択肢3(デフェロキサミン): 鉄中毒の解毒薬(鉄キレート剤)であり、本症例には不適切です。
- 選択肢4(プラリドキシム): 有機リン系農薬中毒の解毒薬(コリンエステラーゼ賦活薬)であり、本症例には不適切です。
- 選択肢5(フルマゼニル): ベンゾジアゼピン系薬物の解毒薬(受容体拮抗薬)であり、本症例には不適切です。
【試験対策のポイント:アセトアミノフェンの代謝経路】
- 通常時: グルクロン酸抱合、硫酸抱合(無毒)。
- 過量時: CYP代謝により毒性代謝物 NAPQI が生成。
- 解毒の鍵: グルタチオン抱合が不可欠。枯渇を防ぐためにシステイン供与体である「N-アセチルシステイン」を用いる。
◆ 問235
◆領域・タグ
◆正解・解説
正解:5
この問題の核心は、アセトアミノフェンの毒性代謝物であるNAPQI(N-アセチル-p-ベンゾキノンイミン)が、解毒薬NACの投与によってどのように処理され、どの代謝物として安定化するのかという化学的プロセスを正しく理解することにあります。
正解:5(アセトアミノフェン-グルタチオン抱合体)
NACを投与する最大の本質は、毒性代謝物であるNAPQIを無毒化するために必要な「グルタチオン(GSH)」を増やすことにあります。体内でNACはシステインの供給源となり、グルタチオンの再合成を促進します。その結果、以下の解毒反応(抱合反応)が活性化されます。
NAPQI + GSH → アセトアミノフェン-グルタチオン抱合体(APAP-SG)
この反応が進むことで、肝細胞を破壊するNAPQIが解毒されます。選択肢5に示されている構造式は、まさにこの「アセトアミノフェン-グルタチオン抱合体」を表しており、NAC投与によって生成・増加する主要な代謝物となります。この抱合体は最終的にメルカプツール酸体などへと変化し、尿中へ安全に排泄されます。
誤り:1, 2, 3, 4
他の構造式は、NACによる解毒プロセスで「増加」するものではありません。
- 選択肢1(誤り): アセトアミノフェンそのものの構造です。
- 選択肢2(誤り): 毒性を持つ中間代謝物であるNAPQIです。NACの投与によって速やかにグルタチオンと結合して消費されるため、これが増加することはありません。
- 選択肢3・4(誤り): それぞれ硫酸抱合体、グルクロン酸抱合体です。これらはアセトアミノフェンの通常の無毒化経路(主要代謝経路)であり、過量投与時にはこれらの処理能力が飽和しています。NACの投与が直接的にこれら2つの抱合経路を増強するわけではありません。
【試験対策のポイント:NACの役割】
NACは体内でシステインとなり、グルタチオン(Glu-Cys-Gly)を構成するアミノ酸として機能します。
NACは体内でシステインとなり、グルタチオン(Glu-Cys-Gly)を構成するアミノ酸として機能します。
- 毒性の中和: 直接NAPQIを中和するのではなく、グルタチオンの「材料」を提供することで、生体の持つ解毒ルートを回復させます。
- 構造式の見分け: アセトアミノフェンの骨格に、グルタチオン(またはその一部であるシステインの硫黄原子)が結合している構造式が「解毒された姿」であると判断しましょう。
