第111回薬剤師国家試験

◆問236-237

45歳男性。糖尿病で治療中である。21~30歳までの間、化学工場で化学物質を取り扱う業務に従事していた。血尿を自覚し泌尿器科を受診し、膀胱鏡検査、造影 CT 及び MRI 検査により、膀胱がんと診断された。経尿道的膀胱腫瘍切除術を施行し、筋層浸潤がんであることが確認されたため、GC 療法(ゲムシタビン・シスプラチン併用療法)による術前化学療法を4コース行った後、ロボット支援根治的膀胱全摘除術を受けることになった。

◆ 問236


◆ 問237

この男性が化学工場で業務中に曝露されていた可能性が高い化学物質はどれか。2つ選べ。111回問236-237画像1

◆ 問236

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:3、5


この問題の核心は、抗がん薬の催吐性リスク(吐き気の強さ)を正しく評価し、ガイドラインに基づいた適切な制吐薬の組み合わせを選択できるかにあります。

本症例で行われるGC療法のうち、シスプラチンは「高度催吐性(HEC)」に分類される代表的な薬剤です。高度催吐性リスクに対しては、急性および遅発性の悪心・嘔吐を予防するため、原則として以下の3剤(または4剤)を併用する「定石」の組み合わせで考えます。
1. NK1受容体拮抗薬
2. 5-HT3受容体拮抗薬
3. デキサメタゾン
(必要に応じて、これらにオランザピンを加えた4剤併用が検討されます)

正解:3(アプレピタント)
アプレピタントはNK1受容体拮抗薬です。中枢神経に作用して、遅発性に現れる悪心・嘔吐に対しても強い予防効果を発揮します。高度催吐性リスクの管理において、中心的な役割を果たす薬剤の一つですので、適切な選択となります。

正解:5(パロノセトロン塩酸塩)
パロノセトロンは、第2世代の5-HT3受容体拮抗薬です。従来の第1世代(グラニセトロンなど)に比べて血中半減期が長く、投与後24時間以降に起こる遅発性の悪心・嘔吐に対しても高い効果が認められています。そのため、シスプラチンのような強い催吐性を持つ薬剤を使用する際に非常に適しています。

誤り:1, 2, 4
  • 選択肢1(メトクロプラミド): ドパミンD2受容体拮抗薬です。軽度の吐き気止めとしては使われますが、高度催吐性リスクであるシスプラチンの「予防」としてはパワー不足であり、第一選択にはなりません。
  • 選択肢2(ドンペリドン): 同じくD2受容体拮抗薬ですが、末梢性であり、高度催吐性リスクへの予防効果は不十分です。
  • 選択肢4(オランザピン): 多受容体遮断型の抗精神病薬であり、近年は「4剤併用療法」の一角として高度催吐性リスクの予防に用いられるようになっています。しかし、今回の設問は「2つ選べ」という形式ですので、より標準的かつ中心的な組み合わせであるNK1拮抗薬 + 5-HT3拮抗薬のセット(選択肢3と5)を選ばせる意図だと判断されます。
【試験対策のポイント:制吐療法の3本柱】
シスプラチンなどの高度催吐性リスク(HEC)が出た際は、以下の組み合わせを即座に連想しましょう。
  • NK1拮抗薬: アプレピタント、ホスアプレピタント、ロラピタントなど。
  • 5-HT3拮抗薬: パロノセトロン、グラニセトロン、オンダンセトロンなど。
  • ステロイド: デキサメタゾン。

◆ 問237

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:2、3


この問題は、特定の化学物質にさらされる職業に従事することで発症する「職業性膀胱がん」の原因物質を構造式から正しく識別できるかを問う内容です。

膀胱は、体内の代謝産物が尿として濃縮され、一定時間溜まる場所であるため、化学物質の影響を受けやすい臓器です。特に染料やゴム、化学工業などで扱われる芳香族アミンは、体内で代謝(N-水酸化など)されて活性化し、DNAと結合してがんを引き起こすことが知られています。

正解:2(o-トルイジン)
構造式を見ると、ベンゼン環にメチル基(-CH3)とアミノ基(-NH2)が隣り合って結合しています。これはo-トルイジンであり、芳香族アミンの一種として膀胱がんのリスクが高い物質です。

正解:3(MOCA)
2つのベンゼン環(それぞれアミノ基と塩素原子が結合)をメチレン基(-CH2-)でつないだ構造をしています。これはMOCA(4,4'-メチレンビス(2-クロロアニリン))と呼ばれる芳香族アミンであり、これも膀胱がんの原因物質に該当します。

誤り:1, 4, 5
  • 選択肢1: バルビツール酸骨格にフェニル基がついた構造であり、フェノバルビタールに類似した物質です。膀胱がんとの関連性は認められません。
  • 選択肢4: Cl-CH2-O-CH2-Cl という構造は、ビス(クロロメチル)エーテルです。これは強力な発がん物質ですが、主に肺がんの原因となることで知られています。
  • 選択肢5: 塩素化されたプロパンの構造(1,2-ジクロロプロパン)です。これは印刷業などにおける胆管がんの原因物質として注目された事例があります。
【試験対策のポイント:部位と原因物質の対応】
がんの部位と原因物質の組み合わせは衛生統計や職業衛生の頻出テーマです。
  • 膀胱がん: 芳香族アミン(ベンジジン、2-ナフチルアミン、o-トルイジン、MOCAなど)。
  • 肺がん: ビス(クロロメチル)エーテル、アスベスト、クロム、ニッケル。
  • 胆管がん: 1,2-ジクロロプロパン、ジクロロメタン。