第111回薬剤師国家試験

◆問246-247

 79歳男性。身長 165 cm、体重 47 kg。口渇が著明で、発熱や咳嗽を主訴に総合病院を受診し、入院後に誤嚥性肺炎と診断され、入院当日から処方1による治療が開始された。

(処方1)
点滴静注 注射用アンピシリンナトリウム・スルバクタムナトリウム
           (3 g/バック 1 バック) 3g
   1日4回 朝昼夕食後・就寝前 1時間かけて投与 5日連日投与

 喀痰培養検査で、Klebsiella pneumoniae が同定され、薬剤感受性試験の結果は以下のとおりであったが、肺膿瘍は認められなかった。

(薬剤感受性試験の結果)
111回問246-247画像1

 この結果を踏まえて、新たな抗生物質の投与により、誤嚥性肺炎は軽快に向かったが、軽度の舌苔が認められた。含嗽はしていたが、12日目より口腔咽頭カンジダ症を発症したため、処方2が追加となった。

(処方2)
イトラコナゾール経口液1% 1回 20 mL(1日 20 mL)
              1日1回 空腹時 7 日分

 また、食事摂取困難な日が継続していたことから、栄養摂取方法について検討がなされた。

◆ 問246

本症例における薬剤師の対応として正しいのはどれか。1つ選べ。
  • 薬剤感受性試験結果より、処方1 の薬剤をピペラシリンへ切り替えるよう提案 した。
  • 新たな抗生物質への切り替え後は、少なくとも 30 日以上投与することを提案 した。
  • 処方2 の薬剤は、服薬時に数秒間口に含み、口腔内全体に行き渡らせた後に嚥 下する旨を患者に指導した。
  • 食事摂取困難の対応として、フルカリック輸液(注)を末梢静脈から投与するよ う提案した。
    (注:総合ビタミン・糖・アミノ酸・電解質を含む高カロリー輸液)
  • 誤嚥が認められた場合の対応として、ジフェンヒドラミンの使用を提案した。

◆ 問247


◆ 問246

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:3


本症例は、誤嚥性肺炎に対して抗菌薬治療を行い改善傾向にありましたが、その後に口腔内環境が悪化し「口腔咽頭カンジダ症」を発症した79歳男性のケースです。追加されたイトラコナゾール内用液の適切な指導や、他の治療の妥当性を判断する能力が求められます。

正解:3(数秒間口に含み、口腔内全体に行き渡らせた後に嚥下するよう指導する)
イトラコナゾール内用液は、口腔咽頭カンジダ症の治療において、薬液を直接病変部に接触させることが重要です。そのため、一般的な内服薬のようにすぐに飲み込むのではなく、数秒間口に含んでから飲み込むよう指導します。また、吸収を良くするために「空腹時」に服用することや、服用直後のうがいや飲食を避ける(薬液が流れてしまうため)ことも併せて伝えるのが適切です。

誤り:1(ピペラシリンへの切り替えを提案する)
感受性試験の結果で「R(耐性)」と判定されている薬剤を選択することは、抗菌薬適正使用の観点から不適切です。治療薬は「S(感性)」の結果が出ているものから選ぶのが原則であり、本症例ではセフトリアキソン(CTRX)やタゾバクタム・ピペラシリン(TAZ/PIPC)などが候補となります。

誤り:2(少なくとも30日以上継続して投与することを提案する)
通常の肺炎治療において、30日以上の長期投与が必要となるのは、肺膿瘍、壊死性肺炎、膿胸といった合併症がある場合に限られます。本症例ではそのような記載はなく、臨床症状も改善しているため、長期投与の根拠はありません。通常は数日から1週間程度での終了を検討します。

誤り:4(フルカリック輸液を末梢静脈から投与することを提案する)
フルカリックは高カロリー輸液(TPN製剤)であり、非常に高い浸透圧を持っています。これを末梢静脈から投与すると、血管痛、血栓性静脈炎、最悪の場合は組織壊死を引き起こすリスクがあるため、添付文書でも「中心静脈内投与」と明記されています。末梢からの投与提案は誤りです。

誤り:5(誤嚥予防のためジフェンヒドラミンの使用を提案する)
ジフェンヒドラミン(第1世代抗ヒスタミン薬)には強い抗コリン作用と鎮静作用があります。抗コリン作用により唾液が減少して口が乾き、また鎮静作用により意識レベルが低下することで、かえって誤嚥のリスクを高めてしまう恐れがあります。高齢者の誤嚥予防としては不適切です。

【実務のポイント:内用液の指導とTPNのルール】
現場でよく遭遇する重要なポイントを復習しましょう。
  • イトラコナゾール内用液: 「含み飲み」と「空腹時服用」が基本。カプセル剤とは服用条件が異なる(カプセルは食直後)点に注意が必要です。
  • 高カロリー輸液(TPN): 浸透圧比が大きいため、必ず太い血管である中心静脈から投与します。
  • 高齢者への抗コリン薬: 口渇、便秘、尿閉、ふらつきなどの原因となるため、慎重な評価が求められます。

◆ 問247

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:1、3


この問題は、細菌感染症に用いられるアンピシリンと、真菌感染症に用いられるイトラコナゾールのそれぞれの作用機序(標的となる酵素)を正しく選択できるかを問う内容です。

正解:1(トランスペプチダーゼ(PBP))
処方1のアンピシリンをはじめとするβ-ラクタム系抗菌薬は、細菌の細胞壁(ペプチドグリカン層)を合成する際に必要な「架橋」を担う酵素であるトランスペプチダーゼ(ペニシリン結合タンパク質:PBP)を阻害します。具体的には、酵素の活性部位をアシル化することで働きを止めます。架橋が止まると細胞壁の強度が落ち、細菌は浸透圧の差によって溶解・死滅します。

正解:3(ラノステロールC-14脱メチル化酵素(CYP51))
処方2のイトラコナゾールをはじめとするアゾール系抗真菌薬は、真菌の細胞膜を構成する重要な成分であるエルゴステロールの合成経路を阻害します。具体的には、エルゴステロールの合成を担う酵素であるCYP51(ラノステロールC-14脱メチル化酵素)を阻害します。これにより正常な細胞膜が作られなくなり、真菌の増殖が抑えられます。ヒトのコレステロール合成系とは一定の差異があるため、真菌に対して選択的な毒性を発揮します。

誤り:2, 4, 5
  • 選択肢2(II型トポイソメラーゼ): レボフロキサシンなどのフルオロキノロン系抗菌薬の標的です。DNAの複製を阻害する機序であり、今回の処方薬とは関係ありません。
  • 選択肢4(1,3-β-D-グルカン合成酵素): ミカファンギンなどのキャンジン系抗真菌薬の標的です。真菌の「細胞壁」成分であるβ-グルカンの合成を止める機序です。ヒト細胞にはこの酵素がないため、副作用が少ないという特徴があります。
  • 選択肢5(スクアレンエポキシダーゼ): テルビナフィンなどの抗真菌薬の標的です。エルゴステロール合成経路のより上流を阻害するもので、アゾール系とは「目的地は似ていますが、経路が違う」薬剤です。
【作用機序を覚えるためのイメージ】
  • アンピシリン(β-ラクタム系): 「細菌の細胞壁という『壁』を組み立てる職人(PBP)の手を縛る」とイメージしましょう。
  • イトラコナゾール(アゾール系): 「真菌の細胞膜という『膜』を作るための素材の製造ライン(CYP51)を止める」とイメージすると分かりやすいです。