第111回薬剤師国家試験
◆問252-253
65歳女性。身長147cm、体重48kg。非ホジキンリンパ腫の既往があり、3年前に胸部放射線治療を実施し、がん疼痛に対して鎮痛薬を内服していた。その後、放射線性心膜炎と心嚢液貯留が認められ、循環器内科で経過観察中であった。今年4月、労作時呼吸困難を主訴に受診し、急性心不全と診断され入院となった。薬剤師が持参薬の確認を行ったところ、処方1及び処方2の薬剤を持参していた。(処方1)
ロキソプロフェンNa錠60mg 1回1錠(1日3錠)
レバミピド錠100mg 1回1錠(1日3錠)
1日3回 朝昼夕食後 10日分
(処方2)
テルミサルタン錠20mg 1回1錠(1日1錠)
1日1回 朝食後 10日分
胸部X線で両側胸水と心拡大が認められ、心エコーで左室駆出率は40%に低下していた。なお、心嚢液貯留は認めなかったが、入院直後の検査値から、処方1と処方2を入院後も継続し、処方3の追加が検討された。
検査値:

(処方3)
ダパグリフロジン錠10mg 1回1錠(1日1錠)
フロセミド錠10mg 1回1錠(1日1錠)
エプレレノン錠25mg 1回1錠(1日1錠)
1日1回 朝食後 10日分
◆ 問252
◆ 問253
処方3のいずれかの薬物の作用機序として、正しいのはどれか。2つ選べ。-
ネプリライシンを阻害して、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の心保護 作用を増強する。
-
Na+,K+-ATPase を阻害して、心筋細胞内の Ca2+ 量を増加させる。
-
ナトリウム-グルコース共輸送体2 (SGLT2)を阻害して、近位尿細管におけ る Na+ 再吸収を抑制する。
-
アドレナリン β1 受容体を遮断して、傍糸球体細胞からのレニン分泌を抑制す る。
-
ミネラルコルチコイド受容体を遮断して、集合管における上皮性 Na+ チャネル の発現を抑制する。
◆ 問252
◆領域・タグ
◆正解・解説
正解:2、5
この問題の核心は、Triple Whammy(三重苦)と呼ばれる、腎機能を急速に悪化させる薬剤の組み合わせを回避できるかにあります。本症例では、NSAIDs(ロキソプロフェン)、ARB(テルミサルタン)、利尿薬(フロセミド)の3剤が揃っており、実際に患者様のCCr(クレアチニンクリアランス)が入院時の57から48 mL/minへと低下している点に注目する必要があります。
正解:2(急性腎障害(AKI)の誘発要因が疑われるため、ロキソプロフェンをアセトアミノフェンへ変更することを提案する)
Triple Whammyを回避するための最も重要な提案です。NSAIDsはプロスタグランジン合成を阻害することで、腎臓の入口である「輸入細動脈」を収縮させ、糸球体への血流を減少させます。これにARB(輸出細動脈の拡張)と利尿薬(循環血漿量の減少)が加わると、糸球体での濾過圧が極端に低下し、AKIを引き起こします。アセトアミノフェンはこの腎血流への影響がほとんどないため、安全な代替案となります。
正解:5(尿路感染が疑われる際には、レボフロキサシン錠を追加することを提案する)
処方3に含まれるダパグリフロジン(SGLT2阻害薬)は、尿中に糖を排泄させる性質上、尿路・生殖器感染症のリスクを高めることが知られています。もし尿路感染が疑われる状況であれば、その起因菌を広くカバーできるニューキノロン系抗菌薬(レボフロキサシンなど)を追加提案することは、副作用マネジメントとして適切です。
誤り:1, 3, 4
- 選択肢1(レバミピドの変更): レバミピドは胃粘膜保護薬であり、カリウム値に影響を与えるような薬理作用はありません。提案の根拠が成り立たないため、誤りです。
- 選択肢3(ダパグリフロジンの中止): SGLT2阻害薬は尿糖とともにナトリウムや水分の排泄も促すため、むしろ利尿・浮腫の軽減に寄与します。心不全の治療にも有効な薬剤であり、「浮腫を発現するから中止」という判断は不適切です。
- 選択肢4(エプレレノンの増量): エプレレノンには心保護・腎保護的な側面はありますが、現時点でこの患者様の病態において増量を優先すべき明確な根拠は示されていません。まずはAKIの原因(Triple Whammy)を取り除くことが先決です。
【試験対策のポイント:Triple Whammyのメカニズム】
以下の3方向からの攻撃が重なると腎機能が危ない、と覚えましょう。
以下の3方向からの攻撃が重なると腎機能が危ない、と覚えましょう。
- NSAIDs: 輸入細動脈を収縮させる(入口を狭くする)。
- ARB / ACE阻害薬: 輸出細動脈を拡張させる(出口を広げすぎて圧が逃げる)。
- 利尿薬: 循環血流量を減少させる(流れる水の量自体が減る)。
◆ 問253
◆領域・タグ
◆正解・解説
正解:3、5
この問題は、処方3に記載されている薬剤が、腎臓のどの部位でどのように作用して心不全の病態(浮腫や体液貯留など)を改善するのか、その正確なメカニズムを問う内容です。
正解:3(SGLT2を阻害して近位尿細管のNa+再吸収を抑制する)
これはダパグリフロジン(フォシーガ)の作用機序です。近位尿細管に存在するSGLT2(ナトリウム-グルコース共輸送体2)を選択的に阻害することで、グルコースとナトリウムの再吸収を減少させます。これにより尿糖の排泄を促すとともに利尿作用を発揮し、心不全患者における体液貯留の改善に貢献します。
正解:5(ミネラルコルチコイド受容体を遮断して集合管の上皮性Na+チャネル(ENaC)の発現を抑制する)
これはエプレレノン(セララ)の作用機序です。遠位尿細管後半から集合管において、アルドステロンが結合するミネラルコルチコイド受容体を遮断します。これにより、上皮性ナトリウムチャネル(ENaC)の発現や活性化が抑えられ、ナトリウムの再吸収抑制とカリウムの排泄抑制が起こるため、「カリウム保持性利尿薬」としての効果を発揮します。
誤り:1, 2, 4
- 選択肢1(ネプリライシンを阻害): サクビトリル(エンレストの成分)の機序です。心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)などの分解を抑え、心保護作用を強めますが、今回の処方には含まれません。
- 選択肢2(Na+,K+-ATPaseを阻害): 強心配糖体であるジゴキシンの機序です。細胞内のカルシウム濃度を上昇させて心筋の収縮力を高めますが、今回の処方とは異なります。
- 選択肢4(アドレナリンβ1受容体を遮断): ビソプロロールなどのβ遮断薬の機序です。心拍数や心収縮力を抑えて心臓の負荷を減らす薬剤ですが、選択すべき回答ではありません。
【試験対策のポイント:作用部位のイメージ】
利尿作用を持つ薬剤が腎臓のどこで働くかを整理しましょう。
利尿作用を持つ薬剤が腎臓のどこで働くかを整理しましょう。
- 近位尿細管: SGLT2阻害薬(ダパグリフロジンなど)
- ヘンレループ上行脚: ループ利尿薬(フロセミドなど)
- 遠位尿細管: サイアザイド系利尿薬
- 集合管: カリウム保持性利尿薬(エプレレノン、スピロノラクトンなど)
