第111回薬剤師国家試験

◆問254-255

54歳男性。身長171cm、体重65kg。脳梗塞の既往あり。通勤中の午前8時頃、回転性めまいを自覚して駅で転倒し、救急搬送された。意識消失や明らかな外傷はなかったが、繰り返し嘔吐をしていた。午前9時に病院到着後、頭部CTで小脳に最大径3.5cmの出血を認め、激しいめまいと平衡障害も出現した。開頭手術が予定されており、お薬手帳を基に服用薬剤と最終服薬時刻の確認が必要となり、家族に聴取したところ、同日の朝7時に服薬したことがわかった。

(お薬手帳の内容)
ビソプロロールフマル酸塩錠2.5mg 1回1錠 1日1回 朝食後
エソメプラゾールカプセル10mg 1回1カプセル 1日1回 朝食後
オルメサルタン錠10mg 1回1錠 1日1回 朝食後
ダビガトランエテキシラートカプセル75mg 1回1カプセル 1日2回 朝夕食後

(臨床所見及び検査値)
血圧153/115mmHg、脈拍62拍/分、AST45IU/L、ALT33IU/L、LDL-C78mg/dL、血清クレアチニン0.7mg/dL、HbA1c5.5%

◆ 問254

抗血栓薬の中和目的で手術に備えて準備することを提案する薬物として、適切なのはどれか。1つ選べ。
  • イダルシズマブ
  • プロタミン
  • 乾燥濃縮人プロトロンビン複合体
  • アンデキサネット アルファ
  • メナテトレノン

◆ 問255


◆ 問254

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:1


この問題のポイントは、患者様が服用している抗凝固薬の種類を特定し、その薬の効果をピンポイントで打ち消す「特異的中和剤」の知識があるかを問う点にあります。

症例では54歳男性が小脳出血を起こし、緊急手術が必要な状態です。お薬手帳から、患者様は直接トロンビン阻害薬であるダビガトランエテキシラートを服用していることが分かります。手術時の大出血を防ぐためには、この薬の作用を速やかに逆転させる必要があります。

正解:1(イダルシズマブ)
イダルシズマブ(商品名:プリズバインド)は、ダビガトランに対する特異的中和抗体(モノクローナル抗体フラグメント)です。ダビガトランに対して非常に高い親和性を持ち、結合することでその抗凝固作用を数分以内に消失させます。生命を脅かす出血時や、本症例のような緊急手術が必要な際に使用される極めて重要な薬剤です。

誤り:2, 3, 4, 5
  • 選択肢2(プロタミン): 主にヘパリン(未分画ヘパリンや低分子ヘパリン)の中和に用いられます。ヘパリンと電気的に結合して無効化する薬剤であり、ダビガトランには効果がありません。
  • 選択肢3(乾燥濃縮人プロトロンビン複合体): ワルファリン服用中の出血時や、特定の凝固因子が不足している場合に使用されます。ダビガトランを直接中和するものではなく、不足した凝固因子を補う「バイパス療法」的な位置づけとなります。
  • 選択肢4(アンデキサネット アルファ): アピキサバンやリバーロキサバンといった直接血液凝固第Xa因子阻害薬に対する特異的中和薬です。ダビガトラン(トロンビン阻害薬)には作用しません。
  • 選択肢5(メネシット(メナテトレノン)): ビタミンK2製剤です。ワルファリン(ビタミンK拮抗薬)の効果を打ち消すために用いられますが、ダビガトランはビタミンKとは無関係に作用を及ぼすため、ビタミンKを投与しても中和できません。
【試験対策のポイント:中和剤の組み合わせを整理】
「どの抗凝固薬にどの中和剤を使うか」は実務・薬理ともに頻出です。
  • ダビガトラン: イダルシズマブ(DAbiiDAr と覚えるとスムーズです)。
  • Xa阻害薬(アピキサバン等): アンデキサネット アルファ。
  • ワルファリン: ビタミンK、プロトロンビン複合体。
  • ヘパリン: プロタミン。

◆ 問255

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:2、4


この問題の前提として、患者様はβ遮断薬(ビソプロロール)を服用しています。これは心臓のβ1受容体がブロックされている状態を意味するため、ドブタミンなどのカテコールアミン製剤(β1刺激薬)を使用しても、十分な強心効果が得られにくい状況にあります。そのため、β受容体を経由せずに細胞内のcAMP濃度を上昇させる薬剤を選択する必要があります。

正解:2(グルカゴン受容体を刺激してcAMPを増加させる)
グルカゴンは、心筋細胞においてβ受容体とは独立したグルカゴン受容体(Gs共役型受容体)に結合します。これによりアデニル酸シクラーゼが活性化され、ATPからcAMPの産生が促進されます。β受容体を介さないルートで心収縮力を高めることができるため、β遮断薬の過量投与時や、β遮断薬服用中の低心拍出状態の改善に非常に有用です。

正解:4(ホスホジエステラーゼIII(PDEIII)を阻害してcAMPの分解を抑制する)
ミルリノンなどのPDEIII阻害薬は、細胞内でcAMPを分解する酵素であるホスホジエステラーゼIIIの働きを止めます。受容体刺激による「産生」を増やすのではなく、今あるcAMPの「分解」を遅らせることで、結果的に細胞内のcAMP濃度を維持・上昇させます。この作用は受容体より下流(分解側)で起こるため、β遮断薬の影響を受けずに強心効果を発揮できます。

誤り:1, 3, 5
  • 選択肢1(インスリン受容体を刺激): インスリンは主に糖代謝や同化作用に関与しており、心筋に対して直接的な強心作用(収縮力増強)をもたらすものではありません。
  • 選択肢3(HCNチャネルを阻害): イバブラジンの作用機序です。洞結節のIf電流を抑制して心拍数を下げる「心拍数低下薬」であり、心収縮力を高める効果(強心効果)はありません。
  • 選択肢5(アデニル酸シクラーゼを阻害): アデニル酸シクラーゼを阻害するとcAMPの産生が低下してしまいます。これは強心作用とは真逆の方向に働く(心機能を抑制する)機序であるため、不適切です。
【試験対策のポイント:cAMPを増やす3つのルート】
心不全治療においてcAMPを増やす方法は、大きく分けて以下の3つがあります。
  • 産生を促す(正面): β1受容体刺激(ドブタミンなど)。※β遮断薬服用中は効きにくい。
  • 産生を促す(裏口): グルカゴン受容体刺激。※β遮断薬の影響を受けない。
  • 掃除を止める(下流): PDEIII阻害(ミルリノン、オルプリノン)。※β遮断薬の影響を受けない。