第111回薬剤師国家試験
◆問256-257
77歳男性。身長165cm、体重61kg。10年前に腎硬化症と診断され、処方1~4の薬剤で治療中である。(処方1)
炭酸水素ナトリウム錠500mg 1回1錠(1日3錠)
1日3回 朝昼夕食後 5日分
(処方2)
球形吸着炭細粒 1回2g(1日6g)
1日3回 朝昼夕食間 5日分
(処方3)
アルファカルシドール錠0.5μg 1回1錠(1日1錠)
ダプロデュスタット錠4mg 1回1錠(1日1錠)
アムロジピン錠5mg 1回2錠(1日2錠)
オルメサルタン錠40mg 1回1錠(1日1錠)
1日1回 朝食後 5日分
(処方4)
ドキサゾシンメシル酸塩錠4mg 1回1錠(1日2錠)
1日2回 朝夕食後 5日分
しかし、半年前から腎機能が徐々に低下してきたため、食事制限を行った。患者は腎代替療法として血液透析を希望しており、透析シャント形成のために入院となった。また、入院前日に同院内で歯科治療を受け、処方5が追加され服薬していたが痛みは持続している。入院時の血液検査結果は以下のとおりであった。
(処方5)
アセトアミノフェン錠500mg 1回1錠
疼痛時 10回分
(検査値)
血清クレアチニン7.4mg/dL、CCr7.2mL/min、K5.9mEq/L、Ca9.2mg/dL、P3.1mg/dL、HCO3-24.1mEq/L、Hb9.8g/dL、血液pH7.39、血圧180/110mmHg
◆ 問256
◆ 問257
検査値からこの患者は高カリウム血症と判断できる。その原因と考えられる処方1~3に含まれる薬物の作用機序はどれか。1つ選べ。-
電位依存性 L 型 Ca 2+ チャネルの遮断
-
低酸素誘導因子-プロリン水酸化酵素(HIF-PH)の阻害
-
ビタミン D 受容体の刺激
-
アドレナリン α1 受容体の遮断
-
アンジオテンシンⅡ AT1 受容体の遮断
◆ 問256
◆領域・タグ
◆正解・解説
正解:1、3
この問題は、透析導入を間近に控えた保存期の慢性腎臓病患者様に対し、検査値に基づいた現在の治療の意義や、将来的な透析生活、そして使用中の薬剤の副作用について正しく指導できるかを問う内容です。
正解:1(酸とアルカリのバランスが整ってきており、処方1の薬剤の内服継続が必要です)
患者様の検査値を見ると、HCO3- 24.1 mEq/L、血液pH 7.39となっており、正常範囲内に保たれています。これは処方1に含まれる炭酸水素ナトリウム(重曹)による補正が適切に効いている状態です。服用を中断すると再び「代謝性アシドーシス」に戻ってしまう恐れがあるため、継続が必要であることを丁寧にお伝えします。
正解:3(処方3及び処方4の薬剤の服用中に立ちくらみの症状に注意してください)
処方3のアムロジピン(Ca拮抗薬)と処方4のドキサゾシン(α1受容体遮断薬)は、どちらも血管を広げて血圧を下げる作用があります。併用によって特に「起立性低血圧(立ちくらみ)」が起こりやすくなるため、急に立ち上がらないよう、また高齢者では転倒のリスクがあることを含めて注意喚起を行います。
誤り:2(血液透析導入後は食事制限がなくなります)
これは大きな誤りです。透析を開始しても、カリウム、リン、水分、塩分の制限は原則として継続が必要です。透析で除去できる量には限界があるため、制限をなくすと、高カリウム血症や溢水(体液過剰)による心不全などの重大な合併症を招く恐れがあります。食事管理の重要性は変わりません。
誤り:4(処方5の薬剤は1時間空ければ繰り返し服用できる)
アセトアミノフェン(処方5)の安全な服用間隔は、通常4時間から6時間以上です。1時間という短い間隔で繰り返し服用すると、1日の最大量を超えてしまう可能性があり、深刻な肝毒性(肝不全など)を誘発する危険があるため、不適切な説明となります。
誤り:5(血液透析を開始したらダプロデュスタットによる治療は不要になる)
ダプロデュスタット(HIF-PH阻害薬)は、腎臓の機能低下による「腎性貧血」を治療するための薬です。透析導入後も腎臓がエリスロポエチンを十分に作れない状況は続くため、引き続き貧血管理が必要となります。したがって、透析を開始してもこの治療が不要になるとは言えません。
【実務に役立つポイント:CKD患者様へのアドバイス】
保存期の患者様にとって、透析導入は大きな不安を伴う変化です。
保存期の患者様にとって、透析導入は大きな不安を伴う変化です。
- 服薬の意味: 検査値が正常なのは「薬が効いているから」であり、維持のために継続が必要であることを伝えます。
- 生活管理: 透析導入後も食事制限が必要であることを正しく伝え、健康状態を維持するためのサポートを行います。
◆ 問257
◆領域・タグ
◆正解・解説
正解:5
この問題は、提示された複数の薬剤の中から、副作用として血清カリウム値を上昇させる可能性があるものを特定し、その作用機序を正しく理解しているかを問う内容です。腎機能が低下している患者様では、薬剤によるカリウム排泄への影響がより顕著に現れるため、重要な知識となります。
正解:5(AT1受容体を遮断してアルドステロン分泌を抑制する)
これは処方1のオルメサルタン(ARB:アンジオテンシンII受容体拮抗薬)の作用機序です。ARBは、アンジオテンシンIIがAT1受容体に結合するのを阻害することで、副腎皮質からのアルドステロン分泌を抑制します。アルドステロンには、腎臓の集合管でナトリウムの再吸収を促し、カリウムの排泄を促進する働きがあるため、分泌が抑えられるとカリウムの排泄が低下します。その結果、血清カリウム値が上昇しやすくなります。
誤り:1, 2, 3, 4
- 選択肢1(L型Ca2+チャネルを遮断): 処方3のアムロジピンの作用機序です。血管平滑筋のCa流入を抑えて血管を広げることで血圧を下げますが、血清カリウム値に直接的な影響は与えません。
- 選択肢2(HIF-PHを阻害): 処方2のダプロデュスタットの作用機序です。低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素を阻害することで、体内のエリスロポエチン産生を高めて貧血を改善します。カリウム代謝には直接関与しません。
- 選択肢3(ビタミンD受容体を刺激): 処方5のアルファカルシドールの作用機序です。腸管からのカルシウムやリンの吸収を促進しますが、カリウム値への直接的な影響は認められません。
- 選択肢4(アドレナリンα1受容体を遮断): 処方4のドキサゾシンの作用機序です。末梢血管抵抗を下げて血圧を下げますが、カリウムの変動とは無関係です。
【試験対策のポイント:CKD患者におけるARB/ACE阻害薬の注意点】
ARBやACE阻害薬は、蛋白尿の減少や腎保護を目的としてCKD治療に広く用いられますが、高カリウム血症が最大の注意点となります。
ARBやACE阻害薬は、蛋白尿の減少や腎保護を目的としてCKD治療に広く用いられますが、高カリウム血症が最大の注意点となります。
- 特に腎機能(eGFR)が低下している患者様ではリスクが高いため、定期的な血清カリウム値のモニタリングが欠かせません。
- 「腎保護に有効だが、カリウム値の上昇には警戒が必要」という二面性を整理しておきましょう。
