第111回薬剤師国家試験

◆問262-263

8歳女児。身長128cm、体重28kg。前日より突然の発熱、関節痛、咽頭痛、咳嗽が出現し、自宅で経過をみていたが軽快せず、近医を受診した。検査の結果、A型インフルエンザと診断され、処方1~処方4が記載された処方箋を持参して来局した。薬剤師は処方箋に基づき、吸入薬の使い方や内服薬について説明することにした。

(処方1)
ラニナミビルオクタン酸エステル水和物吸入粉末剤20mg 1本
     1回1吸入 1日1回 朝 吸入

(処方2)
カルボシステインドライシロップ50% 1回0.56g(1日1.68g)
アンブロキソール塩酸塩ドライシロップ小児用1.5%
     1回0.56g(1日1.68g)
     1日3回 朝昼夕食後 5日分

(処方3)
メジコン配合シロップ(注)  1回3mL(1日9mL)
           1日3回 朝昼夕食後 5日分
           
[注:1mL中にデキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物2.5mg、クレゾールスルホン酸カリウム15mgを含有する。]

(処方4)
アセトアミノフェンドライシロップ小児用20%
     1回1.5g
     発熱時 5回分

◆ 問262

処方1~4 のいずれかの薬物の作用機序として、正しいのはどれか。2つ選べ。
  • 気道粘膜において漿液分泌を減少させるとともに、線毛運動を亢進させる。
  • 視床下部の体温調節中枢に作用し、熱放散を促進させて解熱作用を示す。
  • 知覚神経の ATP P2X3 受容体を遮断し、神経興奮を抑制する。
  • 活性代謝物がインフルエンザウイルスのノイラミニダーゼを阻害し、感染細胞 からのウイルスの放出を抑制する。
  • 痰中のムチンのジスルフィド結合を開裂させ、痰の粘調性を低下させる。

◆ 問263


◆ 問262

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:2、4


この問題は、8歳の女児に処方されたインフルエンザ治療薬(処方1:ラニナミビルオクタン酸エステル水和物)や、対症療法として用いられる薬剤(処方4:アセトアミノフェンなど)の作用機序を正確に選択できるかを問う内容です。

正解:2(視床下部の体温調節中枢に作用し、熱放散を促進させて解熱作用を示す)
これは処方4のアセトアミノフェンの解熱作用に関する記述です。アセトアミノフェンは、脳内の視床下部にある体温調節中枢に働きかけ、熱の産生を抑えるとともに、皮膚の血管を広げたり汗をかかせたりすることで体外への熱の放出(熱放散)を促します。これにより、高熱を安全に下げる効果を発揮します。

正解:4(活性代謝物がインフルエンザウイルスのノイラミニダーゼを阻害し、感染細胞からのウイルス放出を抑制する)
これは処方1のラニナミビルオクタン酸エステル(商品名:イナビル)の作用機序です。この薬は吸入後に肺の中で加水分解され、活性体である「ラニナミビル」に変わります。ウイルス表面にあるノイラミニダーゼという酵素の働きを邪魔することで、増殖したウイルスが細胞の外へ飛び出すのを防ぎ、感染の拡大を抑えます。1回の吸入で治療が完了する点が大きな特徴です。

誤り:1, 3, 5
  • 選択肢1(線毛運動の亢進など): この記述に完全に一致する機序の薬剤は今回の処方には含まれていません。処方2のアンブロキソールや処方3のカルボシステインは痰を出しやすくする薬(去痰薬)ですが、主な働きは痰の滑りを良くしたり構成成分のバランスを整えたりすることです。
  • 選択肢3(知覚神経のP2X3受容体遮断): 慢性咳嗽の治療薬であるゲーファピキサント(商品名:リフヌア)の機序です。処方3のデキストロメトルファンは延髄の咳中枢に直接働きかけて咳を鎮める「中枢性鎮咳薬」であるため、この記述とは異なります。
  • 選択肢5(ムチンのジスルフィド結合開裂): N-アセチルシステイン(商品名:ムコフィリンなど)の作用機序です。痰の粘り気を直接断ち切ってサラサラにする働きですが、今回の処方薬の機序ではありません。
【試験対策のポイント:インフルエンザ薬の基本】
小児のインフルエンザ治療において、以下の知識は必須です。
  • ノイラミニダーゼ阻害薬: ウイルスの「放出」を止める。ラニナミビル(吸入)、オセルタミビル(内服)、ザナミビル(吸入)など。
  • アセトアミノフェン: 小児のインフルエンザ時の解熱には、ライ症候群のリスクを避けるため、原則としてアセトアミノフェンが推奨されます。

◆ 問263

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:1、4


【重要:処方せんの不備について】
本問題の処方1(ラニナミビル吸入粉末剤)の記載には、実務上の不備があります。8歳の患児(10歳未満)の場合、正しい用量は「1回2吸入(1容器を全量使用)」ですが、処方には「1回1吸入」と記載されています。実際の現場であれば、調剤前に必ず疑義照会が必要となるケースです。
小児インフルエンザにおける服薬指導と安全管理この問題は、インフルエンザに罹患した小児の保護者に対し、安全に治療を継続するための適切なアドバイスができるかを問うています。

正解:1(異常行動発現のおそれがあるため、少なくとも発症後2日間は子供を一人にさせないよう保護者に説明する)
インフルエンザ発症後には、急に走り出す、外に飛び出す、あるいは高い所から飛び降りようとするといった「異常行動」が報告されています。これは薬剤の有無に関わらず、インフルエンザそのものの症状としても起こり得るため、特定の薬を原因と決めつけず、発症後少なくとも2日間は子供から目を離さないよう指導することが極めて重要です。

正解:4(処方3の薬剤(メジコン配合シロップ)を服用すると眠気が出る可能性があることを説明する)
処方3に含まれるデキストロメトルファンは中枢性鎮咳薬であり、副作用として眠気やめまいが生じることがあります。小児の場合、ふらつきによる怪我などの恐れもあるため、保護者に事前に伝えておくべき適切な事項です。

誤り:2(処方1の薬剤は下を向いたまま吸入するよう指導する)
ラニナミビル(イナビル)を吸入する際は、「上を向いて」吸入するのが正しい方法です。下を向いて吸入すると、薬の粉末が喉の奥(咽頭部)に落ちやすくなり、目的地である気道や肺まで十分に届かなくなってしまいます。

誤り:3(処方1を吸入した後すぐにうがいをするよう指導する)
吸入ステロイド薬(ICS)などは副作用予防のためにうがいが必要ですが、ラニナミビルは抗ウイルス薬であり、口腔内への残留を気にする必要はありません。そのため、吸入直後のうがいは不要です。

誤り:5(処方4(アセトアミノフェン)をロキソプロフェンナトリウム錠に変更するよう提案する)
ロキソプロフェンは15歳未満の小児には禁忌です。また、インフルエンザ罹患時に使用すると「ライ症候群」という重篤な合併症を引き起こすリスクがあるため、8歳の子供に対して変更を提案することは絶対に避けてください。

【試験対策のポイント:小児への禁忌と適切な指導】
  • 異常行動: 薬のせいだと断定せず、インフルエンザそのもののリスクとして説明します。
  • 解熱薬の選択: 小児のインフルエンザには、安全性の高いアセトアミノフェンを選択するのが鉄則です。
  • 吸入方法: イナビルは「上を向いてしっかり吸い込む」ことがポイントです。