第111回薬剤師国家試験

◆問264-265

57歳女性。身長161cm、体重60kg、体表面積1.562m2。アルコール過敏症あり。HER2陽性の再発乳がんと診断され、多発骨転移及びリンパ節転移を認めたため、外来で抗HER2療法を含む化学療法(トラスツズマブ+ペルツズマブ+ドセタキセル)が以下のレジメンで開始されることとなった。併せて処方1も開始されることになった。この患者に対するレジメン及び処方について、カンファレンスが開かれた。

(初回コース:トラスツズマブ+ペルツズマブ+ドセタキセル療法レジメン)
111回問264-265画像1

(注:ドセタキセルはエタノール無添加の製剤を使用)

(処方1)
デノスマブ(遺伝子組換え)皮下注(120mg/1.7mL) 1バイアル
           1回120mg 皮下注射

◆ 問264

カンファレンスで薬剤師が説明する内容として適切なのはどれか。2つ選べ。
  • 2コース目以降のトラスツズマブの投与量は1コース目より増量すること。
  • デノスマブによる副作用として、しびれが増す可能性があること。
  • 壊死起因性抗がん薬が含まれるため、投与後の血管外漏出時には局所処置を行うこと。
  • 1コース目のペルツズマブ投与時間は短縮できること。
  • このドセタキセル製剤は禁忌になるため、他の薬剤に変更すること。

◆ 問265


◆ 問264

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:2、3


この問題は、乳がんの再発治療に用いられる複数の薬剤について、適切な投与スケジュールや副作用の初期症状、および製剤特性を理解しているかを問う内容です。

正解:2(デノスマブによる副作用として、しびれ(手足のしびれ、口の周りのしびれ)が増す可能性がある)
デノスマブ(ランマーク®)は、骨転移による骨関連事象(SRE)の抑制に用いられますが、最も注意すべき副作用は低カルシウム血症です。血清カルシウム値が低下すると、手足や口の周りのしびれ、テタニー(筋肉のけいれん)、心電図でのQT延長などの症状が現れます。定期的な血液検査とともに、患者様にしびれなどの初期症状を伝えておくことは非常に重要です。

正解:3(壊死起因性抗がん薬が含まれるため、投与後の血管外漏出時には局所処置を行う)
本レジメンに含まれるドセタキセルは、「壊死起因性抗がん薬(Vesicant)」に分類されます。万が一、点滴中に薬液が血管の外に漏れると、周囲の組織に重度の炎症や壊死、潰瘍を引き起こす恐れがあります。そのため、投与中のルート確認を徹底し、漏出が疑われる際の処置手順をチームで共有しておく必要があります。

誤り:1(2コース目以降のトラスツズマブの投与量は1コース目より増量する)
トラスツズマブの投与量は、初回(1コース目)に高い血中濃度を確保するための「ローディングドーズ(8 mg/kg)」を行い、2コース目以降は「維持量(6 mg/kg)」へと減量するのが標準的な投与法です。設問の記述は方向が逆であるため不適切です。

誤り:4(1コース目のペルツズマブの投与時間は短縮できる)
ペルツズマブ(パージェタ®)の初回投与は、過敏症などの反応を慎重に観察するため、60分かけて行います。投与を短縮(30分への短縮)できるのは、初回の忍容性が良好であった場合の2コース目以降からに限られます。初回から短縮することは認められていません。

誤り:5(このドセタキセル製剤のアルコール過敏症への使用は禁忌になる)
通常のドセタキセル製剤には溶解補助剤としてエタノールが含まれていますが、本症例のレジメンには「エタノール無添加製剤を使用」と明記されています。したがって、アルコール過敏症の既往があっても使用が可能であり、禁忌には該当しません。すでに安全な薬剤選択がなされている状態です。

【実務のポイント:がん薬物療法の安全性確保】
がん化学療法の現場では、以下の点に常に留意しましょう。
  • 血管外漏出対策: 壊死起因性(ドセタキセル、アントラサイクリン系等)や炎症起因性の薬剤を扱う際は、投与部位の観察が不可欠です。
  • 電解質異常: デノスマブ使用時の低カルシウム血症は頻度が高いため、カルシウム・ビタミンD製剤の併用状況も併せて確認しましょう。
  • 初回投与の観察: 抗体製剤は初回投与時にインフュージョンリアクションが起こりやすいため、特に慎重なモニタリングが求められます。

◆ 問265

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:1、4


この問題は、本症例で使用される薬剤が、どのような分子メカニズムで働き、それがどのような副作用の発現に関与しているのかを正しく理解しているかを問うています。

正解:1(神経細胞の軸索輸送に関わる微小管の脱重合を阻害)
これはタキサン系抗がん薬であるドセタキセルの作用機序です。ドセタキセルは微小管に結合してその脱重合を阻害(微小管を過剰に安定化)させることで、がん細胞の分裂を妨げます。また、神経細胞内の軸索輸送も微小管に依存しているため、この機序が副作用である「末梢神経障害(手足のしびれなど)」の発現と直接的に関連しています。

正解:4(RANKLに結合し、破骨細胞の分化・活性化を阻害)
これは骨修飾薬であるデノスマブ(ランマーク®の正確な作用機序です。デノスマブは、破骨細胞の形成・活性化に不可欠なタンパク質であるRANKL(受容体活性化核因子κBリガンド)を中和することで、骨破壊を強力に抑制します。この骨代謝抑制作用が、副作用である「低カルシウム(Ca2+)血症」や「顎骨壊死」の発現と深く関わっています。

誤り:2(DNAトポイソメラーゼⅠを阻害してDNA複製を妨げる)
これはイリノテカンなどのカンプトテシン誘導体の作用機序です。今回の処方(トラスツズマブ、ペルツズマブ、ドセタキセル、デノスマブ)には含まれていないため不適切です。

誤り:3(B細胞上のCD20に結合して補体依存性細胞傷害を誘導)
これはリツキシマブ(リツキサン®)などの抗CD20抗体の作用機序です。主にB細胞性非ホジキンリンパ腫などの血液がんの治療に用いられるものであり、乳がん治療では通常使用されません。

誤り:5(VEGFに結合して腫瘍血管新生を阻害)
これはベバシズマブ(アバスチン®)の作用機序です。血管内皮細胞増殖因子(VEGF)を標的とする薬剤ですが、今回のレジメンには含まれていないため不適切です。

【試験対策のポイント:薬理作用と副作用を結びつける】
単に作用機序を覚えるだけでなく、それがなぜその副作用に繋がるのかを整理しておきましょう。
  • ドセタキセル: 微小管の脱重合を阻害 → 細胞分裂が止まる(治療効果) & 神経の輸送が止まる(末梢神経障害)。
  • デノスマブ: RANKLを阻害 → 破骨細胞による骨破壊が止まる(治療効果) & 骨から血液へのカルシウム供給が減る(低Ca2+血症)。