第111回薬剤師国家試験

◆問266-267

75歳男性。身長165cm、体重58kg。数年前に高血圧症及び心房細動を発症し、脳塞栓症の発症リスクが高いことから、近隣のクリニックを受診しており、内服薬(処方1及び処方2)にて経過観察中である。心拍数と血圧は良好にコントロールされている。

(処方1)
ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩カプセル75mg
1回2カプセル(1日4カプセル)
1日2回 朝夕食後 28日分

(処方2)
ビソプロロールフマル酸塩錠2.5mg 1回1錠(1日1錠)
メチルジゴキシン錠0.1mg 1回1錠(1日1錠)
イルベサルタン錠100mg 1回1錠(1日1錠)
ヒドロクロロチアジド錠25mg 1回1錠(1日1錠)
1日1回 朝食後 28日分

クリニックでの定期受診の際、爪甲の変色と肥厚から爪白癬と診断された。外用薬の塗布にて経過観察していたが、効果が不十分であったことから、処方3が追加された。患者は処方1、処方2及び処方3を持ってかかりつけ薬局を訪れた。

(処方3)
イトラコナゾールカプセル50mg 1回4カプセル(1日4カプセル)
               1日1回 朝食直後 14日分

(検査値)
Hb 10.2 g/dL、血小板 22 × 104/μL、血清クレアチニン 0.83 mg/dL、
eGFR 68 mL/min/1.73 m2

◆ 問266

薬局薬剤師が処方箋を受け取った際、医師に処方提案すべき内容として最も適切なのはどれか。1つ選べ。
  • イトラコナゾールとの併用による出血リスクを回避するため、処方1 の薬剤を リバーロキサバン錠へ変更する。
  • イトラコナゾールによりメチルジゴキシンの血中濃度が低下するため、メチル ジゴキシンの用量を増量する。
  • イトラコナゾールによりダビガトランの血中濃度が上昇するため、処方3 の薬 剤をテルビナフィン塩酸塩錠へ変更する。
  • イトラコナゾールの吸収低下を避けるため、処方3 の薬剤の用法を朝食直後か ら朝食前へ変更する。
  • イトラコナゾールの薬効への影響を考慮し、ビソプロロール服用を一時中止す る。

◆ 問267


◆ 問266

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:3


この症例では、抗凝固薬のダビガトランエテキシラートを服用している75歳男性に対し、爪白癬の治療薬としてイトラコナゾールが追加されようとしています。ここで最も警戒すべきは、イトラコナゾールによるP-糖タンパク質(P-gp)の阻害に伴う、ダビガトランの血中濃度上昇とそれに続く出血リスクです。

正解:3(イトラコナゾールによりダビガトランの血中濃度が上昇するため、処方3をテルビナフィン塩酸塩錠へ変更することを提案する)
イトラコナゾールは強力なP-gp阻害作用を持っています。一方で、ダビガトランエテキシラートはP-gpの基質であり、通常は小腸のP-gpによって一部が排泄(エフラックス)されることで吸収が調節されています。イトラコナゾールがこの働きを阻害すると、ダビガトランの吸収量が著しく増大し、出血のリスクが非常に高くなります。代替案としてのテルビナフィンは、作用機序が異なり(スクアレンエポキシダーゼ阻害)、P-gp阻害作用が弱いため、ダビガトランとの併用において安全性が高い選択肢となります。

誤り:1(処方1(ダビガトラン)をリバーロキサバンへ変更することを提案する)
リバーロキサバンも第Xa因子阻害薬(DOAC)ですが、ダビガトランと同様にP-gpの基質です。したがって、イトラコナゾールと併用すれば同様に血中濃度が上昇してしまうため、相互作用の解決策にはなりません。

誤り:2(イトラコナゾールによりメチルジゴキシンの血中濃度が低下するため変更を提案する)
方向性が逆の説明です。メチルジゴキシン(ジギタリス製剤)もP-gpの基質であるため、イトラコナゾールによってP-gpが阻害されると、その血中濃度は「低下」ではなく「上昇」します。中毒のリスクが高まるため、注意が必要です。

誤り:4(イトラコナゾールカプセルは食前服用に変更することを提案する)
イトラコナゾールカプセル(スポラノックス®など)は、胃酸が存在する状態で溶解性が高まり吸収が良くなります。そのため、食事の直後に服用するのが最も効果的です。食前に変更すると吸収が低下してしまい、爪白癬の治療効果が十分に得られなくなります。

誤り:5(ビソプロロールの一時中止を提案する)
ビソプロロール(β遮断薬)と、今回問題となっているイトラコナゾールやダビガトランとの間には、臨床上重大な相互作用の報告はありません。この薬剤を中止する根拠はなく、不適切な提案です。

【実務のポイント:相互作用=CYP3A4だけではない】
薬物相互作用をチェックする際、肝代謝酵素(CYP)だけでなく、トランスポーター(P-gpなど)への意識も不可欠です。
  • ダビガトラン: P-gpの基質。強いP-gp阻害薬(イトラコナゾール、クラリスロマイシンなど)との併用は、血中濃度を跳ね上げるため要注意です。
  • 代替薬の検討: 相互作用がある場合、同様の適応を持ち、かつ相互作用の原因となる経路(この場合はP-gp)に影響を与えない薬剤(テルビナフィンなど)への変更を検討します。

◆ 問267

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:4


この問題は、問266で検討した「なぜイトラコナゾールとダビガトランを併用してはいけないのか」という疑問に対し、その裏側にある生物学的なメカニズムを正しく理解しているかを問う内容です。単に「禁忌だから」と覚えるのではなく、どのトランスポーターが関与しているのかを整理しましょう。

正解:4(消化管におけるP-糖タンパク質(P-gp)の阻害)
これが本相互作用の核心です。ダビガトランエテキシラート(プロドラッグ)は、小腸においてP-糖タンパク質(P-gp)の基質となります。通常、吸収された一部の薬剤はP-gpによって再び腸管内へと汲み出されます(エフラックス)。しかし、イトラコナゾールがこのP-gpを強力に阻害してしまうため、汲み出しが機能しなくなり、結果としてダビガトランの吸収量が著しく増大します。これにより血中濃度が上昇し、深刻な出血リスクを招くことになります。

誤り:3(消化管におけるCYP3Aの阻害)
「イトラコナゾール=強力なCYP3A4阻害薬」という知識は非常に重要ですが、このケースでは当てはまりません。ダビガトランはCYPによる代謝をほとんど受けない薬剤だからです。相互作用の主因をCYP3A4と決めつけてしまうと、今回のようなトランスポーター由来の重大な事故を見落とす危険があります。

誤り:1, 2, 5
  • 選択肢1(OATP1B1の阻害): OATP1B1はスタチン系薬剤などの肝取り込みに関わるトランスポーターです。ダビガトランの血中濃度変動の主要因ではありません。
  • 選択肢2(UGT1A1の阻害): グルクロン酸抱合に関わる酵素です。イリノテカンの代謝などには重要ですが、今回の相互作用の本体ではありません。
  • 選択肢5(pH変動による溶解性低下): ダビガトランの吸収には胃酸による溶解が必要ですが、これはPPIやH2受容体拮抗薬との併用で問題になる点です。イトラコナゾールがpHを変動させてダビガトランの溶解性を変えることはありません。
【実務の鉄則:相互作用の「真犯人」を見極める】
薬物相互作用をチェックする際は、「その薬がどうやって体からいなくなるか(代謝か排泄か)」を確認しましょう。
  • CYP3A4 多くの薬に関わりますが、ダビガトランには無関係です。
  • P-糖タンパク質(P-gp): ダビガトラン、ジゴキシン、リバーロキサバンなどが関わります。イトラコナゾールは「CYP3A4もP-gpも両方止めてしまう」非常に強力な阻害薬であることを覚えておきましょう。