第111回薬剤師国家試験
◆問272-273
58歳男性。身長170cm、体重65kg、体表面積1.75m2。患者は5年前より高尿酸血症に対してプロベネシド錠を服用している。今回の入院では、急性リンパ性白血病の治療として、メトトレキサート・ホリナート救援療法を行うこととなった。そこで、主治医はプロベネシド錠からアロプリノール錠へ処方を変更した。(変更前処方)
プロベネシド錠250mg 1回2錠(1日4錠)
1日2回 朝夕食後 30日分
(変更後処方)
アロプリノール錠100mg 1回2錠(1日4錠)
1日2回 朝夕食後 7日分
(入院時検査所見)
体温36.8℃
赤血球310×104/μL、白血球18,000/μL、血小板8.2×104/μL、
血清クレアチニン0.9mg/dL、eGFR67.9mL/min/1.73m2、
尿酸7.8mg/dL、AST35IU/L、ALT40IU/L
◆ 問272
プロベネシド錠からアロプリノール錠に変更された理由として、最も適切なのはどれか。1つ選べ。-
プロベネシドがホリナートの肝取り込みを阻害するため。
-
ホリナートがプロベネシドの尿細管再吸収を阻害するため。
-
メトトレキサートがプロベネシドの肝代謝を阻害するため。
-
プロベネシドがメトトレキサートの尿細管分泌を阻害するため。
-
プロベネシドがメトトレキサートの尿細管再吸収を促進するため。
◆ 問273
◆ 問272
◆領域・タグ
◆正解・解説
正解:4
この問題は、58歳の男性患者様に対し、急性リンパ性白血病の治療として「大量メトトレキサート(MTX)療法」を行う際、併用されていたプロベネシドをなぜアロプリノールへ変更しなければならないのか、その薬物動態学的な理由を問う内容です。
正解:4(プロベネシドがメトトレキサートの尿細管分泌を阻害するため)
これが処方変更の最も重要な理由です。プロベネシドは、腎臓の近位尿細管にある有機アニオントランスポーター(OAT1およびOAT3)を強力に阻害する作用を持っています。メトトレキサート(MTX)もまた、このOATの基質(運ばれる対象)であり、主に尿細管から尿中へ分泌されることで排泄されます。
もしプロベネシドを併用すると、MTXが尿中へ捨てられる道がふさがれてしまい、血中濃度が異常に上昇(蓄積)します。大量療法下でこの蓄積が起こると、致死的な骨髄抑制や重度の粘膜障害、急性腎不全などの深刻な副作用を引き起こすため、極めて危険です。一方、アロプリノールはOATを介した排泄に影響を与えないため、安全に使用できます。
誤り:1, 2, 3, 5
- 選択肢1(ホリナートの肝取り込み阻害): プロベネシドがレスキュー薬であるホリナートの輸送に直接干渉するという機序は、この併用回避の主因ではありません。
- 選択肢2(ホリナートによる阻害): ホリナートがプロベネシドの動きを邪魔するという説明も、臨床的に重要な相互作用の根拠とはなりません。
- 選択肢3(肝代謝の阻害): メトトレキサートは体内でほとんど代謝されず、未変化体のまま腎臓から排泄されます。したがって、代謝酵素の阻害を気にする必要はありません。
- 選択肢5(尿細管再吸収の促進): プロベネシドが起こす現象は「再吸収の促進」ではなく、血液から尿へ捨てるプロセスである「分泌の阻害」です。結果として体に薬が残る点は同じですが、機序の説明として不正確です。
【試験対策のポイント:MTXの排泄を邪魔する薬剤リスト】
メトトレキサートの血中濃度を上げてしまう(排泄を遅らせる)薬剤の組み合わせは頻出です。
メトトレキサートの血中濃度を上げてしまう(排泄を遅らせる)薬剤の組み合わせは頻出です。
- プロベネシド: OAT阻害による分泌抑制。
- NSAIDs(ロキソプロフェン等): 腎血流量の低下、およびOATでの競合阻害。
- ペニシリン系抗菌薬: OATでの排泄をめぐって競合する。
◆ 問273
◆領域・タグ
◆正解・解説
正解:1、3
この問題は、がん化学療法の中でも特にリスク管理が重要な「大量MTX療法」において、重篤な副作用を回避するためのサポート療法(レスキュー療法や尿アルカリ化)の適切な知識を問うています。
正解:1(メトトレキサートの消失確認のため、投与開始48時間後の血中濃度を確認する)
大量MTX療法では、投与終了後も体内に残っているMTXの濃度を厳密に監視する必要があります。一般的に投与開始後48時間や72時間の時点で血中濃度を測定し、MTXが十分に消失しているかを確認します。もし濃度が高いままであれば、後述するホリナートの投与期間を延長したり増量したりして、正常細胞への毒性を防ぐ判断を行います。
正解:3(尿のpHを7.0以上に維持するため、炭酸水素ナトリウム注射液を追加する)
メトトレキサートは酸性の環境では非常に溶けにくく、尿が酸性に傾いていると腎臓の尿細管の中で再結晶化してしまい、深刻な腎障害(MTX腎症)を引き起こします。これを防ぐために、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ化剤を用いて、尿のpHを常に7.0以上に保つ「尿アルカリ化」と十分な補液を行うことが、この療法では必須の処置となります。
誤り:2(ホリナートカルシウムの投与はメトトレキサートと同時に開始する)
ホリナートは、MTXによる正常細胞への攻撃を肩代わりして防ぐ「レスキュー薬」です。しかし、MTXの点滴と同時に始めてしまうと、本来の目的であるがん細胞への攻撃効果まで打ち消して(中和して)しまいます。そのため、MTXの投与が完了した後、通常は24時間ほど経過してから投与を開始するのが正しいルールです。
誤り:4(メトトレキサートの排泄を促すためフロセミドを追加する)
確かに尿量を増やすことは排泄を助けますが、フロセミドのようなループ利尿薬は腎血流量を変動させ、かえってMTXの排泄に複雑な影響を与える可能性があります。大量MTX療法において優先されるべきは、単なる利尿よりも「十分な補液」と「確実な尿アルカリ化(pH管理)」であり、フロセミドの安易な追加は標準的ではありません。
誤り:5(発熱があるため抗菌薬(アモキシシリン)を追加する)
がん治療中の発熱は、骨髄抑制による白血球減少に伴う「好中球減少性発熱(FN)」の可能性があり、極めて迅速かつ慎重な対応が求められます。安易に経口の抗菌薬(アモキシシリン)を追加するのではなく、まずは血液培養などの検査を行い、必要であれば即効性のある広域スペクトルの注射用抗菌薬を選択すべきです。
【実務のポイント:大量MTX療法の3本柱】
患者様の安全を守るために、薬剤師は以下の3点を必ずチェックしましょう。
患者様の安全を守るために、薬剤師は以下の3点を必ずチェックしましょう。
- 尿pHの維持: 炭酸水素ナトリウム等で尿pH 7.0以上をキープできているか。
- ホリナート・レスキュー: MTX投与終了後の「適切な時間」から開始されているか。
- 血中濃度モニタリング: 規定のタイミング(48h、72hなど)で採血が行われ、消失を確認できているか。
