第111回薬剤師国家試験
◆問274-275
85歳男性。身長165cm、体重82kg、BMI30.1。2型糖尿病の既往があり、処方1及び処方2の薬剤で治療中である。(処方1)
ダパグリフロジンプロピレングリコール錠5mg 1回1錠(1日1錠)
1日1回 朝食後 28日分
(処方2)
メトホルミン塩酸塩錠500mg 1回1錠(1日2錠)
1日2回 朝夕食後 28日分
2ケ月前より、微量アルブミン尿がみられたため、糖尿病性腎症の進行抑制を目的として処方3が追加された。
(処方3)
リシノプリル錠5mg 1回1錠(1日1錠)
1日1回 朝食後 28日分
3日前より、下痢と食欲不振が続き、水分摂取も十分にできていなかった。来院当日、全身倦怠感、口渇、悪心、軽度の呼吸苦を訴え、救急搬送された。来院時には、以下の身体所見及び検査結果が得られた。
(身体所見)
血圧95/62mmHg、呼吸26回/分、口腔内乾燥、皮膚冷感
(検査値)
Na 132mEq/L、K 5.2 mEq/L、Cl 105 mEq/L、空腹時血糖220 mg/dL、
血清クレアチニン2.10 mg/dL、血中ケトン体(-)、AST 35 IU/L、
ALT 40 IU/L、動脈血pH 7.25(基準範囲7.35-7.45)、
PaCO2 18 mmHg(基準範囲35-45 mmHg)、
HCO3-10 mEq/L(基準範囲22-26 mEq/L)、
乳酸 203mg/dL(基準範囲3.7-16.3 mg/dL)
◆ 問274
来院時、この患者に生じている症状として最も適切なのはどれか。1つ選べ。-
代謝性アルカローシス
-
糖尿病ケトアシドーシス
-
乳酸アシドーシス
-
呼吸性アルカローシス
-
遠位型尿細管性アシドーシス
◆ 問275
◆ 問274
◆領域・タグ
◆正解・解説
正解:3
この問題は、85歳の男性患者様の来院時の検査データから、酸塩基平衡の状態を正しく読み解くことがポイントです。以下の数値の動きに注目します。
- 動脈血pH 7.25: 正常値(7.35~7.45)を下回っており、アシドーシスの状態です。
- HCO3- 10 mEq/L: 重炭酸イオンが減少しており、代謝性アシドーシスであることを示しています。
- PaCO2 18 mmHg: 二酸化炭素分圧が低下しています。これは代謝性アシドーシスを補うために、呼吸を速めて酸(CO2)を外に出そうとする「代償性の過換気」が起こっている結果です。
- 乳酸 203 mg/dL: 基準値(3.7~16.3 mg/dL)の約12倍という著明な上昇が認められます。
正解:3(乳酸アシドーシス)
著明な高乳酸血症を伴う代謝性アシドーシスが認められることから、診断として最も適切です。後続の問275でも触れますが、メトホルミンなどの薬剤が腎機能低下時に蓄積することで引き起こされる代表的な重篤副作用の一つです。
誤り:1(代謝性アルカローシス)
pHが7.25と低値を示しているため、アルカローシス(pH上昇)ではなくアシドーシスです。
誤り:2(糖尿病ケトアシドーシス)
糖尿病ケトアシドーシス(DKA)も代謝性アシドーシスを呈しますが、本症例では血中ケトン体が陰性(-)です。ケトン体の蓄積が否定されるため、DKAとは診断されません。
誤り:4(呼吸性アルカローシス)
PaCO2の低下が見られますが、これはあくまで代謝性アシドーシスに対する「代償的な反応」です。pHが低いことから、一次的な原因は呼吸器系(アルカローシス)ではなく代謝系のアシドーシスにあると判断します。
誤り:5(遠位型尿細管性アシドーシス)
尿細管性アシドーシスも重炭酸イオンの低下を伴いますが、本症例のように乳酸値が極端に高い場合は、その原因を直接示す「乳酸アシドーシス」を診断として優先するのが妥当です。
【試験対策のポイント:血ガス分析の読み方】
以下の手順で考えるとスムーズです。
以下の手順で考えるとスムーズです。
- pHをチェック: 7.35未満ならアシドーシス、7.45超ならアルカローシス。
- 原因を探す: HCO3-が減っていれば「代謝性」、PaCO2が増えていれば「呼吸性」。
- 特異的な因子を見る: 今回のように乳酸が激増していれば「乳酸アシドーシス」、ケトン体があれば「ケトアシドーシス」と特定します。
◆ 問275
◆領域・タグ
◆正解・解説
正解:1
この問題は、問274で診断された乳酸アシドーシスの原因薬剤を特定し、その動態学的な背景を考察するものです。患者様の腎機能データと、各薬剤の排泄経路を照らし合わせることが鍵となります。
正解:6(メトホルミン・腎排泄の低下)
メトホルミンは、尿中未変化体排泄率が約52%と高く、主に腎臓から排泄される薬剤です。 本症例では血清クレアチニン(Cr)値が2.10 mg/dLと、本来の基準値上限の約2倍に達しており、明らかな腎機能の低下が認められます。 このように腎機能が低下した状態でメトホルミンを服用し続けると、薬物が体内に蓄積し、結果として乳酸の産生が過剰に促進されて乳酸アシドーシスを引き起こします。 今回は、高齢であることに加え、脱水や急性腎障害(AKI)が重なったことで、急激に腎排泄能が低下したことが発症の引き金になったと考えられます。
誤り:ダパグリフロジンが原因であるとする考え方
ダパグリフロジンの尿中未変化体排泄率はわずか1%程度であり、その大部分は肝代謝や胆汁排泄によって消失します。 したがって、本症例のような腎機能低下が起こったとしても、メトホルミンのように薬物が劇的に蓄積して乳酸アシドーシスを誘発する可能性は非常に低いため、原因薬剤としては不適切です。
【実務のポイント:メトホルミンの安全な管理】
メトホルミンによる重篤な乳酸アシドーシスを防ぐため、以下の管理基準を徹底することが重要です。
メトホルミンによる重篤な乳酸アシドーシスを防ぐため、以下の管理基準を徹底することが重要です。
- 禁忌基準: 腎機能の指標であるeGFRが30 mL/min/1.73 m2未満の患者様には禁忌とされています。
- シックデイへの対応: 発熱、下痢、嘔吐がある場合や、脱水が懸念される状況では、一時的に休薬(服用を中止)し、医師の指示を仰ぐよう患者様に指導しておく必要があります。

