第111回薬剤師国家試験

◆問280-281

 82歳男性。身長167cm、体重50kg。2型糖尿病の既往があり、シタグリプチンリン酸塩錠の服用により血糖コントロールは良好であったが、歩行時にふくらはぎの痛みと足趾の冷感、皮膚色調の変化を主訴に血管外科を受診した。下肢動脈の超音波検査及びCT血管造影にて、重度の閉塞性動脈硬化症が確認された。バイパス手術は積極的な適用とはならず、まずは保存的治療として、アルプロスタジル注射用(点滴静注①)による血流改善を目的とした薬物療法を入院にて行う方針となった。
 また、栄養状態が悪いため、経静脈的にアミノ酸・糖・電解質・ビタミンB1の栄養剤(点滴静注②)も投与することとなった。点滴静注①と②の注射処方が発行されたため、処方内容に誤りや注意点がないか、担当薬剤師は確認を行った。

(入院時検査値)
空腹時血糖 110 mg/dL、血清クレアチニン 0.9 mg/dL、血圧 135/85 mmHg、
eGFR 70 mL/min/1.73 m2、血清アルブミン 2.3 g/dL、Na 140 mEq/L、
K 4.2 mEq/L

(処方)
点滴静注① アルプロスタジル注射用(10 μg/バイアル 1 本) 10 μg
      生理食塩液 100 mL
       1日1回 10時 2時間かけて投与
点滴静注② アミノ酸・糖・電解質・ビタミンB1製剤 500 mL
       1日1回 10時 2時間かけて投与

◆ 問280

注射処方の確認を行った薬剤師の判断として、適切なのはどれか。2つ選べ。
  • 点滴静注①と②は、混注しても問題ない。
  • 本患者には点滴静注②の投与速度をさらに緩徐にすることを提案する。
  • 本患者は糖尿病を有するため、点滴静注①は禁忌であり疑義照会する。
  • 点滴静注①の投与時には、一過性の血圧低下に注意して血圧を監視する。
  • 生理食塩液は配合変化を生じるため、点滴静注①の希釈液として不適である。

◆ 問281


◆ 問280

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:2、4


この問題は、82歳の男性患者様(ASO、低アルブミン血症、糖尿病を合併)に対し、注射用アルプロスタジルを安全に使用するための薬学的判断を問うています。

正解:2(投与速度をさらに緩徐にすることを提案する)
患者様の検査値を確認すると、血清アルブミン値が 2.3 g/dL と著しく低下しています(低アルブミン血症)。アルブミンが少ないと、血管内に水分を留める力(膠質浸透圧)が弱くなるため、急速な点滴投与を行うと水分が血管の外へ漏れ出し、浮腫(むくみ)が悪化したり心負荷が増大したりするリスクがあります。そのため、よりゆっくりとした速度で慎重に投与することを提案するのが適切です。

正解:4(一過性の血圧低下に注意して血圧を監視する)
アルプロスタジル(PGE1)には強力な血管拡張作用があります。これにより投与直後に血圧が一時的に低下することがあり、特に82歳という高齢で心機能や血管の調節能が低下している患者様では、投与中の血圧モニタリングによる厳重な管理が必要です。

誤り:1(点滴静注①と②は混注しても問題ない)
アルプロスタジル脂肪乳剤は非常にデリケートな製剤であり、他の薬剤と混ぜると乳剤の安定性が崩れ、粒子が凝集したり分離したり(配合変化)しやすくなります。原則として他剤との混注は避け、単独で投与することが推奨されます。

誤り:3(糖尿病合併のためアルプロスタジル製剤は禁忌になる)
「糖尿病を合併した閉塞性動脈硬化症における潰瘍・安静時疼痛の改善」は、本剤の正式な適応症の一つです。禁忌どころか、むしろ積極的に選択されるべき病態であり、この記述は明確に誤りです。

誤り:5(生理食塩液は配合変化を生じるため希釈液として不適切である)
本剤は生理食塩液やブドウ糖液などの輸液で希釈して使用することが可能です。生理食塩液そのものが配合変化の直接的な原因になるわけではありません。問題となるのは「他の治療薬」との安易な混合です。

【実務のポイント:脂肪乳剤の取り扱い】
アルプロスタジルのような脂肪乳剤(エマルション)を扱う際は、以下の点に注意しましょう。
  • 混注回避: 乳剤の安定性を保つため、原則として「単独ルート」での投与が望ましいです。
  • 低アルブミン血症への配慮: 膠質浸透圧が低い患者様への輸液管理は、循環不全や浮腫を避けるため「低速投与」が基本となります。

◆ 問281

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:3


この問題は、閉塞性動脈硬化症の治療に用いられるアルプロスタジル注射液(リプル®等)の製剤的な構造を正しく理解しているかを問うています。この製剤は、水の中に油の微粒子が分散した「水中油型(O/W型)乳剤」という形態をとっています。

正解:3(大豆油の油滴の中に薬物が溶け、表面をリン脂質が覆っている模式図)
アルプロスタジル脂肪乳剤の構造は、以下の3つの要素で構成されています。
  • 内相(核となる部分): 大豆油の油滴です。主薬であるアルプロスタジル(PGE1)は脂溶性が高いため、この大豆油の中に溶け込んでいます。
  • 界面(膜の部分): 精製卵黄レシチン(リン脂質)が油滴の周りを取り囲んでいます。リン脂質は、水になじみやすい部分(親水基)を外側の水相に向け、油になじみやすい部分(疎水基)を内側の油相に向けることで、油滴を安定させています。
  • 外相(周りの液体): 水(生理食塩液など)です。油滴がこの水の中に均一に分散しています。
選択肢3の模式図が、この「中央に薬物を含む油滴があり、その周囲をリン脂質の層が包み込んでいる」という構造を正確に表しています。

誤り:1, 2, 4, 5
これらの選択肢は、内相と外相が逆になっている(W/O型)ものや、薬物の溶けている場所が不適切なもの、あるいはリン脂質の向きが物理学的に矛盾しているものなどであり、本製剤の構造説明としては誤りです。

【試験対策のポイント:なぜ「脂肪乳剤」にするのか?】
アルプロスタジルを脂肪乳剤化(ドラッグデリバリーシステム:DDSの一種)することには、以下のような大きなメリットがあります。
  • 血管痛の軽減: 薬物が油の膜の中に閉じ込められているため、点滴時の血管への刺激が和らぎます。
  • 肺での分解抑制: PGE1は本来、肺を通過する際に速やかに分解されますが、乳剤化することで分解を受けにくくなり、患部まで届きやすくなります。
  • 病変部への集積: 炎症を起こしている血管壁などに微粒子が吸着しやすくなり、効率的な治療が可能になります。