第111回薬剤師国家試験

◆問286-287

75歳女性。65歳のときに脂質異常症と診断されたが、薬物治療は受けていなかった。昨夜、右手に力が入りにくくなり、しばらくすると回復した。本日、午前6時頃に起床したが、午前7時頃に右上肢の痺れが現れ、次第に悪化した。ろれつが回らなくなる症状が現れたため、家族が救急車を呼び、午前7時50分に救急外来へ搬送された。検査の結果、脳梗塞と診断された。また頭蓋内出血は認められなかった。診断時の時刻は午前8時30分であり、直ちに治療を開始することとなった。不整脈の既往はなく、搬送時の身体所見及び血液検査結果は以下のとおりであった。

(身体所見)
身長 151 cm、体重 57 kg、意識清明、血圧 192/102 mmHg、脈拍 90 拍/分(整)

(血液検査)
白血球 6,200/μL、CRP 0.4 mg/dL、AST 42 IU/L、ALT 36 IU/L、
血清クレアチニン 0.9 mg/dL、BUN 20 mg/dL、eGFR 46.6 mL/min/1.73 m2

◆ 問286


◆ 問287

この患者の脳梗塞急性期に対する治療薬として、適切なのはどれか。2つ選べ。
  • アルテプラーゼ(遺伝子組換え)
  • エダラボン
  • オザグレルナトリウム
  • ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩
  • ファスジル塩酸塩水和物

◆ 問286

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:2、5


この問題は、患者さんの自覚症状や検査値から、現在の脳の状態や症状の原因を正確に推察できるかを問う病態解析の問題です。症例の時系列と症状の出方に注目して考えます。

【症例のポイント】
昨夜の症状:右手の脱力が出現しましたが、しばらくして自然に回復しました。これは一過性脳虚血発作(TIA)の典型的なエピソードです。
本日の症状:右上肢の痺れが増悪し、ろれつが回らない(構音障害)状態です。TIA後に本格的な脳梗塞へ移行したと考えられます。
身体所見:血圧 192/102 mmHg、脈拍 90回/分(整)。心房細動などの不整脈の既往はありません。
正解:2、5
2:梗塞部位は左半球にある
右上肢の脱力や痺れ、および構音障害(ろれつが回らない)が見られます。運動神経(錐体路)は延髄で左右が入れ替わる(交叉する)ため、体の右側に症状が出ている場合、原因となる病変は脳の左半球に存在します。

5:一過性脳虚血発作(TIA)があった
昨夜の「右手の脱力が出現したものの、しばらくして自然に回復した」というエピソードは、まさにTIA(一過性脳虚血発作)の定義に合致する重要な所見です。

誤り:1、3、4
  • 1:心原性の可能性が高い
    不整脈の既往がなく、現在の脈拍も整っているため、現時点では心房細動などを原因とする心原性脳塞栓症を強く疑う根拠がありません。
  • 3:脳動脈瘤が破裂した
    診断において「頭蓋内出血は認められなかった」と明記されているため、くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤の破裂は否定されます。
  • 4:今後、病巣で出血することはない
    脳梗塞の急性期においては、rt-PA(血栓溶解療法)の投与後や、虚血部位の血管がもろくなることで出血性梗塞(出血性変換)を起こす可能性があるため、「出血することはない」と断定することはできません。
【実務・病態のポイント:TIAと脳梗塞の関係】
  • TIAの重要性:TIA発症後、10〜15%の患者さんが3か月以内に脳梗塞を発症し、そのうちの約半数は48時間以内に起こるとされています。本症例は、昨夜のTIAから翌朝に本格的な脳梗塞を発症した危険なパターンです。
  • TIAの定義:現在は「画像上の梗塞巣がないこと」が要件に含まれていますが、実務上は「一時的に症状が出て消えた」段階で、直後の脳梗塞発症を食い止めるための迅速な対応が求められます。

◆ 問287

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:1、2、3


公式発表:選択肢 1・2・3 のうち、いずれか2つを選択した場合を正解とする
この問題は、急性期脳梗塞の患者さんに対して、ガイドラインや添付文書に基づいた適切な薬剤を選択できるかを問う実務的な内容です。特にアルテプラーゼ(rt-PA)の適応条件である「血圧」の解釈が大きなポイントとなりました。

【重要:本問の争点と結論】
本問題は試験直後の速報段階で、専門家の間でも解答が「1・2」と「2・3」に分かれました。その最大の理由は、アルテプラーゼの投与基準となる血圧の判断にあります。

患者の状態: 搬送時の血圧は 192/102 mmHg でした。
投与基準: ガイドラインでは、rt-PA投与開始までに血圧を 185/110 mmHg 以下 にコントロールすることが求められています。
判断: 搬送時の血圧は基準を上回っていますが、降圧薬の使用等によって投与開始までに基準値を下回る可能性があるため、アルテプラーゼを選択肢から外す必要はないと結論付けられました。
正解:1・2・3 のうちいずれか2つ
厚生労働省より、1・2 / 1・3 / 2・3 のいずれの組み合わせも正解として扱うことが発表されています。

選択肢の解説:
  • 1(アルテプラーゼ): 発症から4.5時間以内に投与可能な強力な血栓溶解剤です。血圧が 185/110 mmHg を超える場合は慎重な判断が必要ですが、禁忌条件を厳密に精査すると、本症例の数値では直ちに除外されるものではありません。
  • 2(エダラボン): 脳保護剤として、急性期脳梗塞の全病型において適応があります。フリーラジカルを消去し、虚血による脳細胞の損傷を抑える目的で使用されます。
  • 3(オザグレルナトリウム): 抗血小板薬であり、血栓形成を抑制します。脳血栓症(急性期)に伴う運動障害の改善等に用いられます。
誤り:4、5
4および5の選択肢は、急性期の主治療薬としては優先順位が低い、あるいは病態に合致しない薬剤であるため不適切となります。

【実務のポイント:急性期脳梗塞の管理】
  • rt-PA(アルテプラーゼ)の適応: 発症から 4.5時間以内 であること、頭蓋内出血がないこと、そして血圧管理(185/110 mmHg以下)が極めて重要です。
  • チーム医療での対応: 病院到着から投与開始までの時間(Door-to-Needle time)をいかに短縮できるかが、その後の予後を左右します。薬剤師は迅速な調剤と、投与基準(血圧、凝固系検査値、既往歴)のダブルチェックを担います。