第111回薬剤師国家試験
◆問292-293
57歳男性。身長160cm、体重65kg。総合病院にてIgA腎症による慢性腎不全、高血圧及び高リン血症に対し、以下の処方薬で治療が行われていた。(処方薬)
ロサルタンカリウム錠50mg 1回1錠(1日1錠)
カルベジロール錠10mg 1回1錠(1日1錠)
1日1回 朝食後
フロセミド錠40mg 1回1錠(1日2錠)
1日2回 朝昼食後
炭酸ランタン口腔内崩壊錠500mg 1回1錠(1日3錠)
1日3回 朝昼夕食直後
最近、全身倦怠感が強くなってきたため、検査入院となった。以下の身体所見及び検査所見が認められた。
(身体所見)
体温 36.3 ℃、血圧 128/72 mmHg、脈拍 75 拍/分(整)、SpO2 97%、
下肢浮腫(-)
(尿検査)
尿タンパク(±)、尿潜血(2+)
(血液検査)
赤血球 230 × 104/μL、Hb 7.6 g/dL、
MCV(平均赤血球容積)80 fL(基準値 80~100 fL)、白血球 4,500/μL、
血小板 20 × 104/μL、AST 25 IU/L、ALT 15 IU/L、
血清クレアチニン 4.51 mg/dL、eGFR 14.4 mL/min/1.73 m2、
血清アルブミン 3.2 g/dL、総タンパク 6.4 g/dL、K 4.0 mEq/L、
補正 Ca 8.7 mg/dL、P 4.4 mg/dL、
intact-PTH 50 pg/mL(基準値 10~65 pg/mL)、
フェリチン 80 ng/mL(基準値 25~250 ng/mL)、
トランスフェリン飽和度(TSAT)15%(基準値 20~30%)、
LVEF 60%、BNP 17.2 pg/mL(基準値 < 18.4 pg/mL)
◆ 問292
◆ 問293
この患者の病態に応じた医師への処方提案として、適切なのはどれか。2つ選べ。-
カルベジロール錠の増量
-
炭酸ランタン口腔内崩壊錠の増量
-
ニフェジピン徐放錠の追加
-
クエン酸第一鉄ナトリウム錠の追加
-
ロキサデュスタット錠の追加
◆ 問292
◆領域・タグ
◆正解・解説
正解:3、5
この問題は、高度に低下した腎機能と、それに伴う血液検査の数値を正確に読み取り、貧血の原因が何であるかを判断できるかを問う病態解析の問題です。
【症例の検査値(57歳男性)】
・eGFR:
・Hb(ヘモグロビン):
・TSAT(血清鉄飽和度):
・フェリチン:
正解:3、5・eGFR:
14.4 mL/min/1.73m²(高度な腎機能低下)・Hb(ヘモグロビン):
7.6 g/dL(貧血状態)・TSAT(血清鉄飽和度):
15%(低値:正常は20〜50%)・フェリチン:
80 ng/mL(正常範囲内:貯蔵鉄はある状態)3:鉄の利用・代謝障害がある
フェリチンの値が
80 ng/mL と正常範囲内であることから、体内の「貯蔵鉄」は足りていることがわかります。しかし、TSAT(血清鉄飽和度)が 15% と低値であることは、実際に利用できる鉄が不足している(鉄利用障害)ことを示唆しています。CKD患者さんでは炎症などの影響で、鉄をうまく運べない代謝障害が起こりやすくなります。5:Hb 7.6 g/dLは治療介入が必要なレベルである
CKD(慢性腎臓病)に伴う腎性貧血の治療ガイドラインでは、一般的に維持目標とするHb値を
10〜12 g/dL としています。本症例の 7.6 g/dL はこの基準を大きく下回っており、速やかに治療介入を検討すべき状態です。誤り:1、2、4
- 1:鉄が正常に利用できている
上述の通り、TSATが15%と低値を示しているため、鉄の利用には障害が起きていると判断されます。 - 2:赤血球寿命が延長している
腎不全(尿毒症)の状態では、血液中の老廃物などの影響により、赤血球の寿命はむしろ「短縮」することが一般的です。 - 4:エリスロポエチン(EPO)産生が亢進している
腎性貧血の本態は、腎臓の機能低下によって、赤血球を作る指令を出すホルモンであるエリスロポエチンの産生が「低下」することにあります。亢進することはありません。
【実務のポイント:腎性貧血の指標】
腎性貧血の診断と管理では、以下の2つの指標の組み合わせが重要です。
腎性貧血の診断と管理では、以下の2つの指標の組み合わせが重要です。
- TSAT(血清鉄飽和度): 鉄の「利用しやすさ」を表します。
20%未満は鉄不足(利用障害を含む)とみなされます。 - フェリチン: 鉄の「貯蔵量」を表します。腎不全患者さんでは、炎症があると数値が高めに出ることがあるため注意が必要です。
◆ 問293
◆領域・タグ
◆正解・解説
正解:4、5
この問題は、高度な腎機能低下(eGFR 14.4 mL/min/1.73m²)と鉄利用障害(TSAT 15%)を伴う患者さんに対し、現在の病態に最も適した薬剤を選択できるかを問う実務的な内容です。
【症例の判断ポイント】
・鉄の状態: 貯蔵鉄はある(フェリチン正常)が、利用できていない(TSAT低値)。
・リンの状態: 血清リン値(P 4.4 mg/dL)は正常範囲内であり、現時点でリン吸着のみを目的とした治療は不要です。
・治療の方向性: エリスロポエチン産生を促すとともに、滞っている鉄の利用を改善させるアプローチが求められます。
正解:4、5・鉄の状態: 貯蔵鉄はある(フェリチン正常)が、利用できていない(TSAT低値)。
・リンの状態: 血清リン値(P 4.4 mg/dL)は正常範囲内であり、現時点でリン吸着のみを目的とした治療は不要です。
・治療の方向性: エリスロポエチン産生を促すとともに、滞っている鉄の利用を改善させるアプローチが求められます。
4:クエン酸第二鉄水和物
この薬は「リン吸着薬」としての側面に加え、「鉄補充」の役割も併せ持っています。CKD患者さんでは将来的に高リン血症を合併するリスクが高く、鉄欠乏状態を同時に改善できるこの薬剤は非常に有用な選択肢となります。
5:ロキサデュスタット
「HIF-PH阻害薬」と呼ばれる新しいタイプの経口薬です。体内の低酸素応答を模倣することで、自分自身の力でエリスロポエチンを作るよう促します。さらに、ヘプシジン(鉄の利用をブロックするホルモン)を抑制する作用があるため、本症例のような「TSAT低値(鉄利用障害)」がある患者さんでも効率よく貧血を改善できるという特徴があります。
誤り:1、2、3
- 1:ダルベポエチン アルファ
ESA(赤血球造血刺激因子製剤)であり、腎性貧血の標準的な治療薬です。しかし、本症例のように鉄の利用効率が落ちている(TSAT 15%)場合、まずは鉄の環境を整えることが優先されます。また、2つの最適な選択肢を問う本問の構成上、4と5の組み合わせがより適切と判断されます。 - 2:硫酸第一鉄
一般的な経口鉄剤ですが、CKD患者さんは体内の微微な炎症によって鉄の吸収・利用が妨げられやすいため(ヘプシジン高値)、通常の鉄剤だけでは十分な効果が得られないことがあります。 - 3:炭酸ランタン
リンを吸着する薬ですが、鉄補充の効果はありません。本症例のリン値は正常(4.4 mg/dL)であるため、貧血治療としてのメリットはありません。
【実務のポイント:HIF-PH阻害薬の登場】
従来の腎性貧血治療は「注射によるESA投与 + 鉄剤」が主流でしたが、HIF-PH阻害薬(ロキサデュスタットなど)の登場により、以下の変化が起きています。
従来の腎性貧血治療は「注射によるESA投与 + 鉄剤」が主流でしたが、HIF-PH阻害薬(ロキサデュスタットなど)の登場により、以下の変化が起きています。
- 経口投与が可能: 患者さんの通院や注射の負担を軽減できます。
- 鉄利用の改善: 鉄を細胞内に閉じ込めてしまうヘプシジンの働きを抑えるため、体内に眠っている貯蔵鉄を活用しやすくなります。
