第111回薬剤師国家試験

◆問294-295

 58歳男性。身長 172 cm、体重 73 kg。2型糖尿病で 10 年前から総合病院を受診し、現在は処方1~4の薬剤を使用している。

(処方1)
エンパグリフロジン錠10mg 1回1錠(1日1錠)
             1日1回 朝食後 56日分

(処方2)
メトホルミン塩酸塩錠500mg 1回1錠(1日2錠)
              1日2回 朝夕食後 56日分

(処方3)
インスリングラルギン(遺伝子組換え)注射液(300単位/1キット)6キット
     1回25単位
     1日1回 朝食前 皮下注射(自己注射)

(処方4)
インスリンリスプロ(遺伝子組換え)注射液(300単位/1キット)5キット
     1回 朝8単位 昼4単位 夕6単位
     1日3回 朝昼夕食直前 皮下注射(自己注射)

 12月初旬の受診時の検査結果は以下のとおりだった。

(12月初旬の検査結果)
空腹時血糖 127 mg/dL、HbA1c 7.0%、尿糖( 4+)、尿タンパク(-)、
尿ケトン体(-)、血清クレアチニン 0.7 mg/dL、eGFR 78 mL/min/1.73 m

 8週間経過した1月末、年末年始の食生活の乱れから空腹時血糖 177 mg/dL、
HbA1c 7.8%になった。医師からは、「食事内容に気を付け、薬をきちんと使用すること。次回受診時に改善が見られなければ薬を増やす。」と言われた。さらに2週間経った本日、嘔吐と下痢のため近医を受診して胃腸炎と診断され、処方5及び処方6の処方箋を持って薬局を訪れた。

(処方5)
酪酸菌配合剤 1回1錠(1日3錠)
       1日3回 朝昼夕食後 7日分

(処方6)
ドンペリドン錠10mg 1回1錠(1日3錠)
          1日3回 朝昼夕食前 7日分

 薬剤師に「昨夜から食事が摂れなかったが、今朝は家にあったプリンだけ食べられた。甘いものを食べたので、糖尿病の薬はきちんと使用した。」と伝えた。

◆ 問294

薬剤師は患者から同意を得て、総合病院の主治医に連絡をした。シックデイにおける対応に従えばよいと確認をした上で指導を行った。胃腸症状が続いている間に関する説明内容として適切なのはどれか。2つ選べ。
  • エンパグリフロジンの服用は続けてください。
  • メトホルミンは服用しないでください。
  • インスリンはどちらも注射しないでください。
  • 試験紙で尿ケトン体を調べてみてください。
  • 炭水化物の摂取は控えてください。

◆ 問295


◆ 問294

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:2、4


この問題は、糖尿病治療中の患者さんが発熱や下痢、食欲不振などの体調不良(シックデイ)に陥った際、安全に治療を継続するための判断力を問うものです。特に、薬剤の休薬判断と合併症の予防が重要になります。

【症例のポイント】
現在の治療: インスリン(グラルギン、リスプロ)およびメトホルミンを使用中。
現在の症状: 発熱、嘔吐、食欲不振(典型的なシックデイの状態)。
リスク: 脱水や栄養不足による血糖値の乱れ、および特定の薬剤による重篤な副作用のリスクがあります。
正解:2、4
2:メトホルミンを一時中止する
シックデイ、特に嘔吐や食欲不振がある場合は脱水になりやすくなります。脱水状態でメトホルミンを服用し続けると、腎機能が低下して薬が体に蓄積し、致死的な乳酸アシドーシスを引き起こす危険があるため、一時中止(休薬)が必要です。

4:尿中ケトン体をモニタリングする
脱水や十分な食事が摂れない状態では、体内のエネルギー源として脂肪が分解され、ケトン体が産生されやすくなります。これが進行すると「ケトアシドーシス」という危険な状態になるため、尿中ケトン体のチェックを行うことが推奨されます。

誤り:1、3、5
  • 1:インスリンは中止する
    シックデイの際、自己判断でインスリンを完全に中止することは厳禁です。感染症によるストレスなどで、食事をしていなくても血糖値が上昇することがあるため、医師の指示に基づいた調整(補正)が必要です。
  • 3:カロリー補充は不要である
    食欲がなくても、脱水予防とケトーシス防止のために、糖質を含む飲料(スポーツドリンクやスープなど)で最低限の水分とカロリーを補給する必要があります。
  • 5:SGLT2阻害薬を追加する
    シックデイにSGLT2阻害薬を新たに追加したり継続したりすると、過度の脱水や、血糖値が正常に近いのに酸血症になる「正常血糖ケトアシドーシス」を誘発する恐れがあるため不適切です。
【実務のポイント:シックデイに注意すべき薬剤(3大Sick薬)】
以下の薬剤を服用している患者さんがシックデイになった場合、一時中止を検討する必要があります。
  • メトホルミン: 乳酸アシドーシスのリスクを避けるため。
  • SGLT2阻害薬: 脱水および正常血糖ケトアシドーシスのリスクを避けるため。
  • GLP-1受容体作動薬: 消化器症状(嘔気・下痢)を悪化させ、脱水を助長させる恐れがあるため。
患者さんには、体調が悪い時に「どの薬を休むか」「いつ病院に連絡するか」を事前に指導しておくことが、薬局薬剤師の重要な役割です。

◆ 問295

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:1、4


この問題は、胃腸炎などのシックデイから回復した患者さんに対し、中断していた薬剤の再開判断と、自己血糖測定(SMBG)の結果に基づいた適切なインスリン調整ができるかを問う実務的な内容です。

【現在の血糖状況(SMBG結果)】
・朝食前:112 mg/dL(概ね良好)
朝食後:252 mg/dL(著明な上昇)
・昼食後:198 mg/dL(やや高い)
・夕食後:163 mg/dL(比較的良好)
正解:1、4
1:エンパグリフロジンを継続する
胃腸炎の症状が改善し、食事が十分に摂れるようになった(シックデイから回復した)ため、脱水リスクを考慮して一時中止していたSGLT2阻害薬(エンパグリフロジン)を再開・継続することは適切です。

4:朝食直前のインスリンリスプロを増量する
SMBGの結果を見ると、朝食後の血糖値が 252 mg/dL と突出して高くなっています。この「特定の食後の高血糖」を解決するには、その食事の直前に打つ超速効型インスリン(リスプロ)の不足が考えられるため、朝食前のリスプロを増量するのが最も直接的な調整方法となります。

誤り:2、3、5
  • 2:メトホルミンを減量する
    腎機能(Cr 0.88 mg/dL)や全身状態が回復しているため、現時点でメトホルミンを減量する必要はありません。むしろ血糖コントロールを優先すべき段階です。
  • 3:インスリングラルギンを増量する
    持効型溶解インスリン(グラルギン)は基礎分泌を補うもので、主に空腹時血糖に影響します。朝食前血糖値が 112 mg/dL と許容範囲内であるため、グラルギンの増量優先度は低いです。
  • 5:夕食直前のリスプロを増量する
    夕食後の血糖値は 163 mg/dL と、他の時間帯に比べて良好にコントロールされています。ここを増量すると、夜間の低血糖リスクを高める恐れがあるため不適切です。
【実務のポイント:血糖変動に基づいたインスリン調整】
インスリン製剤の調整を提案する際は、以下の原則を意識しましょう。
  • 「どの食後が高いか」を確認: 特定の食後が高い場合は、その食前の「追加インスリン(超速効型・速効型)」を調整します。
  • 「朝食前が高いか」を確認: 寝起き(朝食前)の血糖値が高い場合は、前夜の「基礎インスリン(持効型)」の不足を疑います。
本症例のように、シックデイ明けは一時的にインスリン需要が変動しやすいため、細かなモニタリングと、問題となっている時間帯をピンポイントで改善するアプローチが重要です。