第111回薬剤師国家試験
◆問298-299
56歳女性。1日の排尿回数が日中・夜間に関係なく増えており、外出先でトイレの心配をすることが多くなってきた。また、急に我慢できないような尿意を覚えることがあるため、「市販の薬を試してみたい。」と相談に薬局を訪れた。医師の診察・治療は受けておらず、薬剤によるアレルギー及び副作用の経験はないとのことであった。薬局にはプロピベリン塩酸塩10mgを含有する医薬品があり、来局者が使用可能かを確認することにした。
◆ 問298
この女性の病態として正しいのはどれか。2つ選べ。-
膀胱に感染性炎症がある。
-
膀胱からの求心路障害はない。
-
残尿がある。
-
大脳から排尿中枢への抑制が弱くなっている。
-
腹圧の上昇で起こる。
◆ 問299
◆ 問298
◆領域・タグ
◆正解・解説
正解:2、4
この問題は、過活動膀胱(OAB)の本態が「蓄尿障害(尿を溜める機能の異常)」であることを理解し、神経学的な仕組みや他の疾患との違いを区別できるかを問う内容です。症例の「急な尿意を我慢できない」という訴えに注目して考えます。
【過活動膀胱の判断軸】
過活動膀胱は、膀胱が勝手に収縮してしまうことで、尿が十分に溜まっていないのに強い尿意を感じる疾患です。「尿を溜める異常(蓄尿障害)」であり、尿が出にくいといった「排出障害」とは区別して考える必要があります。
正解:2、4過活動膀胱は、膀胱が勝手に収縮してしまうことで、尿が十分に溜まっていないのに強い尿意を感じる疾患です。「尿を溜める異常(蓄尿障害)」であり、尿が出にくいといった「排出障害」とは区別して考える必要があります。
2:膀胱からの求心路(知覚神経)障害はない
「急な尿意を感じる(尿意切迫感)」ためには、膀胱に尿が溜まっているという情報が脳に伝わる必要があります。この情報を伝える通り道が「求心路(知覚神経)」です。強い尿意を感じている以上、この神経系は正常に機能していると考えられます。
4:大脳から排尿中枢への抑制が弱くなっている
通常、私たちは大脳からの指令によって、排尿中枢の働きを抑えて尿を我慢しています。加齢や脳血管障害などによりこの「抑制」が弱まると、膀胱がわずかな刺激で過剰に収縮してしまい、尿意を我慢できなくなります。これが過活動膀胱の主要なメカニズムの一つです。
誤り:1、3、5
- 1:膀胱に感染性炎症がある
過活動膀胱は感染によるものではありません。細菌感染がある場合は「膀胱炎」として別に診断されます。 - 3:残尿がある
過活動膀胱は「溜められない」ことが問題であり、尿を出し切れない「残尿(排出障害)」は、通常は前立腺肥大症や神経因性膀胱などで見られる所見です。 - 5:腹圧の上昇で起こる
くしゃみや咳などで漏れてしまうのは「腹圧性尿失禁」であり、筋肉(骨盤底筋)の緩みが主な原因です。突然の強い尿意を特徴とする過活動膀胱とは病態が異なります。
【実務のポイント:蓄尿障害と排出障害】
下部尿路症状を考える際は、まず「溜める異常」か「出す異常」かを整理しましょう。
下部尿路症状を考える際は、まず「溜める異常」か「出す異常」かを整理しましょう。
- 蓄尿障害(溜められない): 頻尿、尿意切迫感、切迫性尿失禁。代表疾患は過活動膀胱です。
- 排出障害(出せない): 尿の勢いが弱い、尿が途切れる、残尿。代表疾患は前立腺肥大症です。
◆ 問299
◆領域・タグ
◆正解・解説
正解:4、5
この問題は、過活動膀胱の症状(尿意切迫感など)に対してOTC医薬品の抗コリン薬を販売する際、副作用や持病との兼ね合いで特に確認すべき重要な項目を問う実務的な内容です。
【薬剤の特性:プロピベリン塩酸塩】
プロピベリンは抗コリン作用を持ち、膀胱の過剰な収縮を抑えることで頻尿や尿意切迫感を改善します。しかし、その作用が膀胱以外の場所(目や尿道)に及ぶと、重大な副作用や病態の悪化を招く恐れがあるため、販売前の聞き取りが不可欠です。
正解:4、5プロピベリンは抗コリン作用を持ち、膀胱の過剰な収縮を抑えることで頻尿や尿意切迫感を改善します。しかし、その作用が膀胱以外の場所(目や尿道)に及ぶと、重大な副作用や病態の悪化を招く恐れがあるため、販売前の聞き取りが不可欠です。
4:排尿困難の症状の有無
抗コリン薬には膀胱の収縮力を弱める働きがあります。もし患者さんに「尿が出にくい(排尿困難)」という症状がある場合、服用によってさらに尿が出にくくなり、完全に尿が止まってしまう尿閉を誘発するリスクがあります。そのため、使用前に必ず確認が必要です。
5:緑内障の有無
抗コリン作用によって瞳孔が開く(散瞳)と、目の中の液体の通り道が狭くなり、眼圧が急激に上昇することがあります。特に閉塞隅角緑内障の患者さんには禁忌(使用してはいけない)であるため、緑内障の既往の有無は極めて重要な確認事項です。
誤り:1、2、3
- 1:喫煙歴
過活動膀胱の症状悪化に関与することはありますが、抗コリン薬を販売する際の直近の禁忌確認としての優先度は低いです。 - 2:光線過敏症の既往歴
プロピベリンにおいて、販売時に最も優先して確認すべき主要なリスク事項ではありません。 - 3:グレープフルーツジュースの飲用習慣
プロピベリンは代謝酵素CYP3A4に関与しますが、OTC医薬品としての販売可否を判断する上での主要な確認項目(禁忌に関連するもの)ではありません。
【薬剤師の視点:抗コリン薬の適正販売】
OTCの抗コリン薬を販売する際は、単に症状に合うかだけでなく、「使ってはいけない人」を確実に見抜くことが求められます。
OTCの抗コリン薬を販売する際は、単に症状に合うかだけでなく、「使ってはいけない人」を確実に見抜くことが求められます。
- 前立腺肥大症の可能性を疑う: 男性で「トイレが近い」と訴える場合、過活動膀胱ではなく前立腺肥大症(排出障害)の可能性があります。この場合、抗コリン薬は尿閉のリスクを高めるため、受診勧奨が必要です。
- 禁忌の徹底確認: 緑内障(特に閉塞隅角)や心疾患の有無など、添付文書上の禁忌項目に基づいたスクリーニングを習慣づけましょう。
