第111回薬剤師国家試験
◆問300-301
29歳男性。身長170cm、体重47kg。喫煙20本/日。腹痛、反復する下痢、体重減少を認めたため近所の消化器内科を受診した。内視鏡検査を実施したところ、クローン病と診断され、以下の処方1~3の薬剤で治療を開始することになった。なお、重症度分類では軽症~中等症であった。(検査値)
赤血球 450 × 104/μL、白血球 7,800/μL、血小板 16.8 × 104/μL、
Hb 14.1 g/dL、血清クレアチニン 0.83 mg/dL、AST 21 IU/L、
ALT 22 IU/L、CRP 1.5 mg/dL
(処方1)
ブデソニド腸溶性顆粒充填カプセル3mg 1回3カプセル(1日3カプセル)
1日1回 朝食後 7日分
(処方2)
ペンタサ錠500mg(注1) 1回1錠(1日3錠)
1日3回 朝昼夕食後 7日分
(注1:1錠中にメサラジン 500 mg を含有する)
(処方3)
エレンタール配合内用剤(注2)80g 1回1袋(1日3袋)
1日3回 朝昼夕 7日分
(注2:成分栄養剤)
◆ 問300
この薬物治療及び栄養療法について、薬剤師が患者へ説明する内容として適切なのはどれか。2つ選べ。-
処方1 の薬剤は症状が改善しても、寛解維持のために長期的に服薬を継続する 必要がある。
-
処方2 の錠剤を粉砕したり、口腔内で噛み砕いたりしないで服用する。
-
処方3 の薬剤は、脂肪分をほとんど含んでいないため、腸への負担が少ない。
-
処方3 の薬剤は、下痢症状を改善する作用がある。
-
食事は食物繊維を多く含むメニューとするのが望ましい。
◆ 問301
◆ 問300
◆領域・タグ
◆正解・解説
正解:2、3
この問題は、クローン病(IBD)の治療に用いられる薬剤の製剤学的特性や、病態に合わせた適切な栄養管理についての知識を問うものです。各薬剤が「何のために」「どのような仕組みで」使われているかを整理して考えます。
【症例のポイント】
・患者:29歳男性、クローン病。
・現在の処方:ブデソニド、ペンタサ顆粒、エレンタール(成分栄養剤)。
・検査値:CRP 1.5 mg/dL(軽度の炎症反応が残存している状態)。
正解:2、3・患者:29歳男性、クローン病。
・現在の処方:ブデソニド、ペンタサ顆粒、エレンタール(成分栄養剤)。
・検査値:CRP 1.5 mg/dL(軽度の炎症反応が残存している状態)。
2:処方2(ペンタサ顆粒)は粉砕したり、噛んだりして服用しない
ペンタサ(メサラジン)は、pH依存型の徐放性製剤です。小腸から大腸にかけて少しずつ有効成分を放出するように設計されています。粉砕したり噛んだりすると、その放出制御の仕組みが壊れてしまい、本来届けるべき部位(回腸や大腸)に十分な成分が届かなくなるため、そのまま服用する必要があります。
3:処方3(エレンタール)は、他の栄養剤に比べて脂肪含量が少ない
エレンタールは「成分栄養剤」に分類され、タンパク質がアミノ酸まで分解された状態で含まれています。最大の特徴は、脂肪含有量が極めて低いことです。脂肪は腸管の収縮を促し炎症を悪化させる可能性があるため、低脂肪である成分栄養剤は腸管の安静と炎症抑制に非常に有効です。
誤り:1、4、5
- 1:処方1(ブデソニド)は寛解維持のために長期継続が必要である
ブデソニドは、主に活動期の症状を抑えるための「寛解導入薬」として用いられます。局所的に作用するステロイドですが、長期に使用すると全身性の副作用(副腎抑制など)のリスクがあるため、寛解維持のために漫然と長期継続することは推奨されません。 - 4:処方3(エレンタール)は下痢を改善するために用いられる
エレンタールの主な目的は、腸管に負担をかけずに「栄養を補給すること」と「腸管を休ませること(安静)」です。下痢そのものを止める直接的な止瀉作用があるわけではありません。 - 5:食物繊維を多く含む食事が望ましい
クローン病の活動期には、腸管の負担を減らすために「低残渣食(ていざんさしょく)」が基本となります。食物繊維は消化されにくく、炎症で狭くなった腸管を刺激したり閉塞の原因になったりする恐れがあるため、過剰な摂取は避けるべきです。
【実務のポイント:クローン病の生活指導】
- 食事療法の基本: 「低脂肪・低残渣・高たんぱく」が基本です。特に活動期は、脂肪分や食物繊維を控えるよう具体的にお伝えしましょう。
- 成分栄養剤(エレンタール)の工夫: 脂肪が少なく腸には優しいですが、独特の風味が原因で継続が難しい場合があります。専用のフレーバーを使用したり、温度を工夫したりして、アドヒアランス(服薬維持)を高める提案が薬剤師には求められます。
- ステロイド薬の役割: 症状が良いときに使う「維持薬(ペンタサなど)」と、悪いときに一気に抑える「導入薬(ステロイド)」の役割の違いを正しく理解し、患者さんの不安を解消しましょう。
◆ 問301
◆領域・タグ
◆正解・解説
正解:1、4
この問題は、患者さんの現在の検査値(CRPやHbなど)から病態を正確に読み取り、ガイドラインに沿った次の治療ステップを適切に判断できるかを問う実務的な内容です。
【症例の評価ポイント】
・炎症の指標: CRP 1.5 mg/dL。基準値を上回っており、依然として慢性的な炎症活動性が残っていることを示しています。
・貧血の指標: Hb 14.1 g/dL。男性の基準範囲内であり、現時点で貧血は認められません。
・現在の治療: ブデソニド、ペンタサ、エレンタールを使用していますが、炎症が治まりきっていない状況です。
正解:1、4・炎症の指標: CRP 1.5 mg/dL。基準値を上回っており、依然として慢性的な炎症活動性が残っていることを示しています。
・貧血の指標: Hb 14.1 g/dL。男性の基準範囲内であり、現時点で貧血は認められません。
・現在の治療: ブデソニド、ペンタサ、エレンタールを使用していますが、炎症が治まりきっていない状況です。
1:CRP 1.5 mg/dLは慢性炎症活動性が残存していることを示している
CRP(C反応性タンパク)は体内の炎症を反映する指標です。軽症から中等症の患者さんであっても、この値が陽性(基準値超え)であることは、現在の治療だけでは炎症を十分に抑え込めていないという判断の根拠になります。
4:現治療が無効な場合はプレドニゾロン内服を検討する
クローン病の治療には「治療エスカレーション」という考え方があります。現在の治療(栄養療法や5-ASA製剤、局所作用型ステロイド)で効果が不十分な場合、次のステップとして全身性ステロイドであるプレドニゾロンの内服を検討するのが一般的な方針です。
誤り:2、3、5
- 2:貧血症状が見られる
検査値の Hb 14.1 g/dL は正常範囲内です。したがって、貧血があると判断する根拠はありません。 - 3:明らかな腸閉塞が認められる
提示された身体所見や検査値(腹痛や嘔吐の増悪、画像所見など)の中に、腸閉塞を強く疑わせる具体的な根拠は示されていません。 - 5:薬物療法を完遂することで完治が期待できる
残念ながら、現在の医学においてクローン病は根治(完治)が困難な「指定難病」です。治療の目的は、症状がない状態を維持する「寛解維持」であり、「完治」という表現は適切ではありません。
【実務のポイント:クローン病の治療ステップ】
軽症〜中等症のクローン病における一般的な治療の流れ(ステップアップ)を整理しておきましょう。
軽症〜中等症のクローン病における一般的な治療の流れ(ステップアップ)を整理しておきましょう。
- 初期治療: 栄養療法(エレンタールなど)、5-ASA製剤(ペンタサなど)、局所作用型ステロイド(ブデソニド)。
- 次のステップ: 全身性ステロイド(プレドニゾロンなど)。
- さらに強化: 免疫調節薬(アザチオプリンなど)や生物学的製剤(抗TNF-α抗体など)。
