第111回薬剤師国家試験

◆問302-303

 76歳女性。身長153cm、体重42kg。在宅医療を受けていたが転倒し、大腿骨近位部骨折のため整形外科にて入院加療となった。後日、仙骨部に褥瘡が認められたため、褥瘡対策チームが介入することとなった。褥瘡患部は、感染の可能性のある黄色壊死組織を形成していたため(黄色期)、処方1の薬剤で治療が開始された。

(処方1)
カデックス軟膏0.9%(注) 100g
     1回適量 1日2回 朝夕 患部に塗布

[注:カデキソマー150、マクロゴール400、マクロゴール4,000を基剤とし、1g中にヨウ素9mgを含有する。]

 2週間後、褥瘡対策チームの回診の際、医師が褥瘡の診察を行い、処方1の薬剤から処方2の薬剤へ変更となった。

(処方2)
トレチノイントコフェリル軟膏0.25% 30g
     1回適量 1日2回 朝夕 患部に塗布

◆ 問302


◆ 問303

処方2 を開始した 10 日後、褥瘡は滲出液の少ない白色期に移行した。この時期の病態及び治療について適切なのはどれか。2つ選べ。
  • 皮膚の上皮化が進み、肉芽組織が収縮している。
  • 症状が改善すると、黒色期に移行する。
  • 薬物治療として、積極的に壊死組織を除去する薬剤を使用する。
  • 軟膏の基剤として、乳剤性基剤又は油脂性基剤が適している。
  • 外科的手術として、デブリードマンが推奨される。

◆ 問302

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:1、5


この問題は、褥瘡の経過(黄色期から白色期への移行)を正しく把握し、それぞれの時期に使用される薬剤の性質や目的を理解しているかを問う実務的な内容です。

【症例の経過ポイント】
当初の状態: 黄色期(滲出液が多く、壊死組織がある状態)。
現在の状態: 白色期(肉芽形成が進み、皮膚の上皮化が進行している状態)へと移行しています。
使用薬剤: カデキソマー(処方1)からトレチノイントコフェリル(処方2)へと変更されています。
正解:1、5
1:処方1(カデキソマー)の基剤は水溶性で滲出液が多い患部に適している
カデキソマー(カドメニール®など)は水溶性基剤を用いています。この基剤は水分を吸収する能力が高いため、滲出液が多い「黄色期」において、過剰な水分や壊死組織を吸い取って除去するのに非常に適しています。

5:処方2(トレチノイントコフェリル)には細胞増殖促進作用があり肉芽形成を促す
トレチノイントコフェリル(オルセノン®など)はビタミンA誘導体です。線維芽細胞の増殖や血管新生を促進する作用があるため、壊死組織がなくなった後の「赤色期」や「白色期」において、新しい組織(肉芽)を作り、上皮化を助ける目的で使用されます。

誤り:2、3、4
  • 2:処方1の効果が不十分だったため処方2へ変更された
    変更の理由は「効果不十分」ではなく、褥瘡の病期が黄色期から肉芽形成期(赤〜白色期)へ「進行(改善)」したことに伴う適切なステップアップです。
  • 3:塗布後は一定の体位を保ってもらう
    褥瘡管理の基本は「除圧」です。同じ場所に圧力がかかり続けるのを防ぐため、こまめな体位変換を行うことが鉄則であり、体位を固定させる指導は誤りです。
  • 4:処方2は壊死組織除去後は中止する
    処方2(トレチノイントコフェリル)は、むしろ壊死組織が除去された後の「肉芽形成・上皮化」を促すための薬剤です。壊死組織除去後に中止するのではなく、その段階から積極的に使い始める薬剤です。
【実務のポイント:褥瘡の病期と薬剤の組み合わせ】
褥瘡治療では、色の変化(DESIGN-R分類など)に合わせて薬剤を使い分けることが重要です。
  • 黒色期・黄色期(壊死組織あり): 壊死組織を除去し、感染を防ぐ薬剤(カデキソマー、スルファジアジン銀など)を選択します。
  • 赤色期・白色期(組織再生期): 肉芽形成を促し、乾燥を防いで保護する薬剤(トレチノイントコフェリル、精製白糖・ポビドンヨードなど)を選択します。
薬剤師は、単に処方された薬を出すだけでなく、現在の傷口の色や滲出液の量を確認し、時期に見合った基剤や主成分が選ばれているかをチェックすることが求められます。

◆ 問303

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:1、4


この問題は、褥瘡が治癒に向かう最終段階である「白色期」の病態を正しく理解し、そのステージにおいてどのような基剤(薬の土台)や処置が適切であるかを問う実務的な内容です。

【白色期とはどのような状態か】
褥瘡の治癒過程における最終段階です。赤い肉芽組織が縮小し、その上を新しい皮膚(上皮細胞)が覆い始める「上皮化」が進行している状態を指します。
正解:1、4
1:皮膚の上皮化が進み肉芽組織が収縮している
これは白色期を定義づける典型的な所見です。傷口の周囲から新しい皮膚が伸びてきて創面を覆い、盛り上がっていた肉芽組織が引き締まって小さくなっていきます。

4:乳剤性または油脂性基剤が適している
上皮化が進んでいる時期には、新しい皮膚が乾燥しないよう適切に保湿し、外部の刺激から保護することが重要です。そのため、水分を保持しやすく保護能力が高い乳剤性基剤や、より保護力の強い油脂性基剤の薬剤を選択するのが適切です。

誤り:2、3、5
  • 2:症状が改善すると黒色期に移行する
    褥瘡は「黒(壊死)→黄(炎症・壊死組織)→赤(肉芽形成)→白(上皮化)」という順番で改善していきます。白色期から黒色期へ向かうのは、症状が著しく「悪化」していることを意味するため、改善の過程としては誤りです。
  • 3・5:壊死組織を積極的に除去(デブリードマン)する
    デブリードマン(壊死組織の除去)は、感染の原因となる悪い組織が存在する「黒色期」や「黄色期」に行うべき処置です。白色期はすでに健全な組織が再生している段階ですので、組織を傷つける可能性のある除去作業は不要であり、むしろ保護が優先されます。
【実務のポイント:褥瘡ケアの「湿潤環境」】
褥瘡治療の鉄則は、時期に応じた適切な「湿り気(湿潤環境)」を保つことです。
  • 滲出液が多い時期(黄色期など): 汚れや余分な水分を吸い取る「水溶性基剤」などが好まれます。
  • 上皮化が進む時期(白色期): 乾燥を防いで新しい皮膚を育てる「乳剤性・油脂性基剤」などが好まれます。
薬剤師は、処方された外用薬の有効成分だけでなく、その「基剤」が現在の傷口の湿り具合やステージに合っているかを確認し、適切にアドバイスすることが求められます。