第111回薬剤師国家試験
◆問304-305
19歳男性。身長 165 cm、体重 51 kg。以前より、右足の痛みと腫れがあり、1ケ月前に父親とともに近所の整形外科を受診した。その2 週間後、医師は骨腫瘍を疑い、大学病院を紹介した。精査の結果、大腿骨遠位の骨肉腫と診断され、加療のため昨日入院となった。入院時の検査結果は以下のとおりである。(入院時の検査値)
赤血球 520 × 104/μL、Hb 14.3 g/dL、白血球 7,500/μL、
好中球 3,100/μL、血小板 15.8 × 104/μL、血清クレアチニン 0.86 mg/dL、
BUN 16.0 mg/dL、AST 23 IU/L、ALT 22 IU/L、総ビリルビン 1.0 mg/dL
検査の結果、化学療法は施行可能と判断され、明日から以下の MAP 療法を実施することとなった。
◆ 問304
◆ 問305
MAP 療法による副作用を予防するために、この患者に投与すべきなのはどれか。2つ選べ。-
アセタゾラミド
-
セベラマー
-
トリクロルメチアジド
-
ホリナートカルシウム
-
メスナ
◆ 問304
◆領域・タグ
◆正解・解説
正解:1、3
この問題は、強力な抗がん薬を組み合わせた「MAP療法」を実施する際、各薬剤の物理的性質や副作用のリスクを正しく理解し、適切な管理を行えるかを問う実務的な内容です。
【MAP療法の構成と症例】
・対象: 19歳男性、骨肉腫。
・薬剤: メトトレキサート(大量療法)、ドキソルビシン、シスプラチンの3剤併用。
・管理の要点: 心毒性の監視、薬剤の安定性保持、および腎障害の予防が重要となります。
正解:1、3・対象: 19歳男性、骨肉腫。
・薬剤: メトトレキサート(大量療法)、ドキソルビシン、シスプラチンの3剤併用。
・管理の要点: 心毒性の監視、薬剤の安定性保持、および腎障害の予防が重要となります。
1:ドキソルビシンの累積投与量が 500 mg/m² 未満であることを確認する
ドキソルビシンなどのアントラサイクリン系薬剤には、生涯の合計投与量(累積投与量)に依存して、不可逆的な心筋障害(心筋症・心不全)を引き起こすリスクがあります。一般的に 500 mg/m² を超えると発症率が急増するため、これまでの投与歴を厳密に管理する必要があります。
3:シスプラチンの投与時は遮光する
シスプラチンは光に対して不安定な薬剤です。光にさらされると加水分解が進み、有効成分の活性が低下したり沈殿が生じたりするため、点滴時は遮光カバーを用いるなどの配慮が必要です。
誤り:2、4、5
- 2:シスプラチンは冷蔵庫に保管する
シスプラチンを冷蔵保管すると、結晶が析出(結晶化)してしまいます。一度析出した結晶は再溶解しにくいため、原則として室温で保管しなければなりません。 - 4:メトトレキサートは開始から10分以内に終了する
メトトレキサート大量療法(MTX大量療法)では、通常 4〜24時間かけて持続点滴 を行います。10分以内という急速投与は、副作用リスクを著しく高めるため誤りです。 - 5:MTXの治療効果を高めるために水分摂取を制限する
メトトレキサートは主に腎臓から排泄されます。水分を制限すると尿量が減り、腎尿細管で薬剤が結晶化して重篤な腎障害を引き起こす恐れがあります。そのため、むしろ大量の補液(強制利尿)を行い、尿量を十分に確保することが必須となります。
【実務のポイント:抗がん薬の特性と副作用管理】
がん化学療法における薬剤師の役割は、以下の点に集約されます。
がん化学療法における薬剤師の役割は、以下の点に集約されます。
- 心毒性のチェック: ドキソルビシンのような累積毒性がある薬では、患者さんごとの通算投与量を記録し、上限を超えないよう常に監視します。
- 物理的安定性の維持: 冷蔵不可(シスプラチン)、遮光必須(シスプラチン、ダカルバジンなど)、吸着注意(パクリタキセルなど)といった各薬剤の「癖」を把握し、適切に調剤・管理します。
- 腎障害の予防: シスプラチンや大量MTXでは、事前の十分な補液(ハイドレーション)と利尿薬の使用が、副作用を未然に防ぐ鍵となります。
◆ 問305
◆領域・タグ
◆正解・解説
正解:1、4
この問題は、メトトレキサート(MTX)を大量に使用する際に懸念される「正常細胞への傷害」と「腎毒性」を、どの薬剤を用いて防ぐかを問う実務的な内容です。MTXの代謝経路と排泄の特性を理解することが重要です。
【MAP療法におけるMTXの課題】
・正常細胞への影響: MTXが葉酸代謝を阻害することで、がん細胞だけでなく正常な細胞までダメージを受けてしまいます。
・腎障害のリスク: MTXは尿が酸性だと結晶として固まりやすく、腎臓の管(尿細管)を詰まらせてしまう恐れがあります。
正解:1、4・正常細胞への影響: MTXが葉酸代謝を阻害することで、がん細胞だけでなく正常な細胞までダメージを受けてしまいます。
・腎障害のリスク: MTXは尿が酸性だと結晶として固まりやすく、腎臓の管(尿細管)を詰まらせてしまう恐れがあります。
1:アセタゾラミド
炭酸脱水酵素阻害薬です。尿をアルカリ化する作用があり、メトトレキサートが腎尿細管で結晶として析出(沈殿)するのを防ぎ、体外への排泄をスムーズにします。通常、炭酸水素ナトリウム(メイロンなど)と併用し、尿のpHを7以上に保つ管理が行われます。
4:ホリナートカルシウム(ロイコボリン)
「ロイコボリン救済(レスキュー)療法」として用いられます。メトトレキサートによって阻害された酵素(ジヒドロ葉酸還元酵素)を通らずに、正常細胞の葉酸代謝を直接助けることができます。MTX投与後、一定時間(通常42時間後など)から定期的に投与を開始し、MTXの血中濃度が安全なレベルに下がるまで継続します。
誤り:2、3、5
- 2:セベラマー
高リン血症などの治療に用いられるリン吸着薬です。MTX療法の副作用予防とは関係がありません。 - 3:トリクロルメチアジド
サイアザイド系利尿薬です。高血圧や浮腫の治療に使われますが、MTXの副作用予防を目的として使用することはありません。 - 5:メスナ
シクロホスファミドやイホスファミドを使用する際に起こる「出血性膀胱炎」を予防するための薬剤です。メトトレキサートによる毒性予防には不要です。
【実務のポイント:ロイコボリン救済とモニタリング】
メトトレキサート大量療法を安全に行うためには、薬剤師による以下の管理が欠かせません。
メトトレキサート大量療法を安全に行うためには、薬剤師による以下の管理が欠かせません。
- TDM(血中濃度モニタリング): MTXの血中濃度を測定し、ロイコボリンをいつまで続けるべきか、増量が必要かを判断します。
- 尿pHのチェック: アセタゾラミドや重曹(炭酸水素ナトリウム)の効果を確認し、尿が十分にアルカリ性に保たれているかを監視します。
- 十分な水分補給: 尿量を確保して薬剤の排泄を促す「強制利尿」が行われているか、点滴の流速を確認することも重要です。
