第111回薬剤師国家試験

◆問306-307

50歳男性。かかりつけの内科クリニックでコレステロール値が高いと指摘され、食事療法と運動療法を行っていたが、コントロール不良のため薬物療法を開始することとなり、本日、処方1の薬剤が記載された処方箋を持って薬局を訪れた。

(処方1)
シンバスタチン錠5mg 1回1錠(1日1錠)
           1日1回 夕食後 28日分

 処方1の薬剤は本日より初めて服用する薬である。この男性が持参したお薬手帳には7日前に近所の耳鼻科で処方された以下の薬剤が記載されていた。男性によると「ずっと鼻がつまっていたので受診したら、慢性副鼻腔炎と言われ、薬をもらった。」とのことだった。

(お薬手帳の内容)
クラリスロマイシン錠200mg 1回1錠(1日1錠)
              1日1回 朝食後 28日分
カルボシステイン錠500mg 1回1錠(1日3錠)
             1日3回 朝昼夕食後 28日分

 薬剤師は、処方1の薬剤とお薬手帳の薬剤との相互作用について医師に疑義照会を行った。その結果、シンバスタチン錠5mgからフルバスタチン錠10mgへ変更する旨の回答を得たので、処方1から処方2に変更することとなった。

(処方2)
フルバスタチン錠10mg 1回1錠(1日1錠)
           1日1回 夕食後 28日分

 また、患者より「毎日グレープフルーツジュースを飲んだり、時々市販の酸化マグネシウムという便秘薬を夕食後に飲むのですが、飲み合わせは大丈夫ですか。」との質問を受けた。

◆ 問306

薬剤師法、健康保険法その他関連法令に照らし、疑義照会に関する記述として適切なのはどれか。2つ選べ。
  • 次回以降、処方1 の薬剤が処方され、お薬手帳の薬剤を服用中の場合、医師へ の照会を省略し、薬剤師の判断で処方2 の薬剤に変更することができる。
  • 薬剤師は処方箋の記載内容に疑問や不明点がある場合、疑義照会する義務がある。
  • 疑義照会後の変更の内容を薬剤師が記載した処方箋について、改めて医師の署名又は記名押印を受ける必要はない。
  • 調剤報酬点数表には、疑義照会を行い処方が変更された場合の加算は存在しない。
  • 疑義照会を行い、処方箋を交付した医師が不在であった場合、同じ医療機関に 勤務する別の医師の回答に基づき薬剤を変更して調剤することができる。

◆ 問307


◆ 問306

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:2、3


この問題は、50歳男性に対するシンバスタチンとクラリスロマイシンの併用(相互作用のリスク)を事例に、薬剤師が処方医へ問い合わせを行う「疑義照会」に関する法的な義務や手続きについて問うものです。薬剤師法や調剤報酬の知識が求められます。

【症例の背景と対応】
状況: シンバスタチン(スタチン系)とクラリスロマイシン(CYP3A4阻害薬)の併用により、横紋筋融解症のリスクがあることを薬剤師が発見しました。
対応: 処方医に疑義照会を行い、相互作用の少ないフルバスタチンへ変更することになりました。
正解:2、3
2:薬剤師は処方箋の記載に疑問がある場合、疑義照会する義務がある
これは薬剤師法第24条に定められた非常に重要な義務です。処方箋の内容に疑わしい点があるときは、その疑わしい点を確認した後でなければ調剤してはならないとされています。患者さんの安全を守るための法的根拠となります。

3:疑義照会後の変更内容を薬剤師が記載した処方箋は、改めて医師の署名は不要である
医師へ電話などで問い合わせを行い、処方変更の承諾を得た場合、薬剤師はその変更内容や回答した医師の名前などを「調剤録」や「処方箋の余白」等に適切に記録します。この手続きを行えば、医師に再度サインをもらい直す必要はありません。

誤り:1、4、5
  • 1:次回以降は疑義照会を省略し薬剤師の判断で処方2に変更できる
    薬剤師が医師の同意なく独断で処方内容を変更することは、たとえ安全性を考慮したとしても薬剤師法上認められていません。変更の都度、必ず医師に確認を行う必要があります。
  • 4:疑義照会を行い処方が変更された場合の加算は存在しない
    「重複投薬・相互作用等防止加算」という調剤管理料の加算が存在します。相互作用のリスクを回避し、処方変更に至った場合にはこの点数を算定することができます。
  • 5:処方医が不在の場合は同じ医療機関の別の医師の回答で変更できる
    原則として、処方箋を発行した医師本人、あるいはその医師と同等の権限を持つ代診医などの適切な担当者に確認する必要があります。責任の所在を明確にするため、安易に無関係な別の医師の回答で済ませることはできません。
【実務のポイント:疑義照会の重要性】
疑義照会は単なるルーチン作業ではなく、薬剤師が専門性を発揮して医療事故を未然に防ぐ「防波堤」としての役割です。
  • 法的責任: 義務を怠り、誤った処方のまま調剤して患者さんに被害が出た場合、薬剤師も法的責任を問われる可能性があります。
  • 情報の記録: 誰が、いつ、どのような理由で、誰に確認したのかを正確に記録することが、実務上のトラブルを防ぐ鍵となります。

◆ 問307

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:2、4


この問題は、特定の薬剤同士の組み合わせによって起こる「薬物相互作用」を理解し、安全な代替薬を提案・説明できるかを問う実務的な内容です。代謝酵素(CYP)の性質に着目して考えます。

【症例のポイント】
変更前の薬剤: シンバスタチン(CYP3A4で代謝されるスタチン)
併用された薬剤: クラリスロマイシン(強力なCYP3A4阻害薬)
リスク: シンバスタチンの血中濃度が上昇し、横紋筋融解症などの重篤な副作用が起こる恐れがあります。
変更後の薬剤: フルバスタチン(主にCYP2C9で代謝されるスタチン)
正解:2、4
2:クラリスロマイシン服用中の人がシンバスタチンを服用すると副作用が出やすくなる
クラリスロマイシンは、肝臓の代謝酵素であるCYP3A4を強く阻害します。シンバスタチンはこの酵素で分解されるため、併用すると体内に薬が過剰に残り、血中濃度が跳ね上がります。その結果、筋肉が壊れる「横紋筋融解症」などのリスクが著しく高まるため、この組み合わせは避ける必要があります。

4:処方2(フルバスタチン)はグレープフルーツジュースとの飲み合わせに注意喚起されていない
グレープフルーツジュースは、小腸のCYP3A4を阻害することで知られています。フルバスタチンは主にCYP2C9という別の酵素で代謝されるため、グレープフルーツの影響をほとんど受けません。そのため、シンバスタチンのような強い注意喚起は行われていません。

誤り:1、3、5
  • 1:カルボシステイン服用中の人がシンバスタチンを服用すると作用が弱くなる
    去痰薬のカルボシステインとシンバスタチンの間には、相互作用を示す根拠はありません。全く無関係な組み合わせです。
  • 3:処方2(フルバスタチン)はコレステロールの排泄を促進する
    スタチン系薬剤の本来のメカニズムは、肝臓でのコレステロール「合成」を阻害すること(HMG-CoA還元酵素阻害)です。「排泄を促進する」という説明は誤りです。
  • 5:処方2と酸化マグネシウムを同時に服用すると吸収が低下する
    フルバスタチンと酸化マグネシウムとの間に、臨床上問題となるような顕著な相互作用(吸収低下など)の報告はありません。
【実務のポイント:スタチンと代謝酵素の整理】
薬剤師として、スタチンを使い分ける際は以下の代謝経路の違いを把握しておくことが重要です。
  • CYP3A4で代謝されるもの: シンバスタチン、ロバスタチン、アトルバスタチン。これらはマクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシン等)やアゾール系抗真菌薬、グレープフルーツジュースの影響を強く受けます。
  • CYP3A4の影響を受けにくいもの: フルバスタチン(CYP2C9)、プラバスタチン(水溶性・非CYP代謝)、ロスバスタチン、ピタバスタチン。
本症例のように、クラリスロマイシンのような強力な阻害薬が処方された場合は、速やかにCYP3A4を介さないスタチンへの変更を提案する(疑義照会する)必要があります。