第111回薬剤師国家試験

◆問320-321

82歳女性。東京都在住。息子夫婦と同居している。末期の胃がんで自宅での看取りを希望し、訪問診療と訪問看護を受けている。経口薬の服用が難しくなってきたため麻薬貼付剤を使用していたが、レスキューの使用回数が増え貼付剤での疼痛コントロールが困難になった。そのため、以下の持続皮下注射処方に変更となり、息子が処方箋を近隣の東京都内の薬局に持参した。電動式の PCA(自己調節鎮痛法)用のシリンジポンプを使用して持続皮下注射を行うこととなった。この患者がシリンジポンプを使用するのは初めてである。

(処方)
モルヒネ塩酸塩注 100 mg シリンジ(100 mg/10 mL/本)  1本
    持続皮下注 0.25 mL/h より開始
    PCA 設定:0.25 mL/回 ロックアウトタイム 15分

◆ 問320


◆ 問321

息子に対して行うこの薬剤やポンプの使用に関する説明として適切なのはどれか。2つ選べ。
  • 薬剤がなくなったら家族が薬剤をセットしてください。
  • 患者や家族が流速を変更できないようになっています。
  • ロックアウトタイム中は PCA ボタンを押しても薬剤が出ない構造になってい ます。
  • この薬剤は薬剤師がご自宅に持っていくことができないので、毎回薬局に取りに来てください。
  • 今後、この薬剤が2 本以上処方された場合、未使用の薬剤は冷蔵庫で保管する必要があります。

◆ 問320

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:1、3


この問題は、胃がん終末期の患者さんに対する在宅緩和ケアを事例に、薬剤師が知っておくべき麻薬の譲渡、処方箋の記載事項、管理体制に関する法的なルールを問うものです。在宅医療において重要な「麻薬小売業者間譲渡許可制度」などの理解が求められます。

【症例の背景】
患者: 82歳女性、胃がん(終末期)。在宅での疼痛管理を実施中。
状況: PCAポンプによる麻薬投与が行われており、地域での円滑な麻薬供給体制が必要な場面です。
正解:1、3
1:在庫不足の場合、あらかじめ都道府県知事の許可を受けた薬局間で麻薬を譲渡できる
これは「麻薬小売業者間譲渡許可制度」に基づいた対応です。在宅緩和医療などで麻薬が急に必要になった際、自局に在庫がない場合でも、あらかじめ「同一の都道府県知事」から許可を得ている薬局同士であれば、麻薬を譲り受けることができます。地域の供給体制を支える重要な制度です。

3:患者または同居家族から「麻薬の譲受証」を受け取る必要はない
麻薬卸売業者や他の薬局との取引(業者間取引)には「麻薬譲受証・譲渡証」の取り交わしが法的に必須ですが、薬局が患者さんやそのご家族に麻薬を交付する際には、これらの書類を受け取る必要はありません。

誤り:2、4、5
  • 2:患者住所の記載がなくても確認不要
    麻薬処方箋には、一般的な処方箋の記載事項に加え、患者さんの「住所」が必須の記載事項として定められています。住所の記載がない場合は、そのまま調剤することはできず、必ず確認・追記が必要です。
  • 4:薬局の開設者は麻薬管理者を置かなければならない
    麻薬管理者の設置義務があるのは「病院、診療所、または飼育動物診療施設」です。薬局においては、薬剤師が適切に管理を行うことになっており、別途「麻薬管理者」という職責を置く義務はありません。
  • 5:患者が都外に引越した場合は調剤できない
    麻薬処方箋の有効性において、患者さんの住所地が都道府県外であっても調剤自体に制限はありません。薬局の所在地と、処方箋を発行した医師の所在地や患者さんの現住所は切り離して考えられます。
【実務のポイント:在宅麻薬管理の留意事項】
在宅で麻薬を取り扱う際は、以下の点に注意しましょう。
  • 情報の正確な記録: 麻薬帳簿への記載は遅滞なく行い、残液の廃棄についても適切に記録・報告する必要があります。
  • 家族への指導: ご家族に対して、麻薬の適切な保管方法や、余った場合の返却ルール(薬局に返却すること)を分かりやすく説明することが大切です。
  • 地域連携: 24時間対応や業者間譲渡許可の活用により、終末期患者さんが痛みで困ることがないよう、地域の薬局同士や医療機関と連携体制を整えておくことが求められます。

◆ 問321

◆領域・タグ

◆正解・解説

正解:2、3


この問題は、がんの痛みに対するPCAポンプを用いた緩和ケアにおいて、患者さんやご家族が安心して正しく使用できるよう、装置の安全機能や薬剤の管理方法について適切に説明できるかを問う実務的な内容です。

【PCA(Patient-Controlled Analgesia)ポンプとは】
患者さん自身が「痛い」と感じたときにボタンを押すことで、あらかじめ設定された量の鎮痛薬(医療用麻薬など)を注入できる装置です。突出痛(急な痛み)に対して、速やかに対応できるメリットがあります。
正解:2、3
2:患者や家族が流速を変更できないようになっている
PCAポンプには、誤操作や不正な使用を防ぐための安全装置(ロック機能)が備わっています。薬剤の投与速度(流速)や1回あたりの注入量は、医師や看護師などの医療従事者が設定し、患者さんやご家族が勝手に変更できない仕組みになっているため、安全性が保たれています。

3:ロックアウトタイム中はPCAボタンを押しても薬剤が出ない構造
「ロックアウトタイム」とは、一度ボタンを押して薬剤が注入された後、次の注入ができるようになるまでの「待機時間」のことです。この時間内は、何度ボタンを押しても薬が追加で出ることはありません。これにより、短時間に過剰な量の薬が体内に入るのを防ぎ、副作用(呼吸抑制など)のリスクを最小限に抑えています。

誤り:1、4、5
  • 1:薬剤がなくなったら家族が薬剤をセットする
    麻薬製剤のセットや充填、ポンプの再設定は、非常に厳密な管理が求められるため、必ず医師や看護師などの医療従事者が行います。ご家族が独断で行うことはできません。
  • 4:この薬剤は薬局に取りに来なければならない
    在宅医療においては、薬剤師が患者さんのご自宅へ直接薬剤をお届けすること(麻薬小売業者の配達)が認められています。特に重症の患者さんの場合は、医療従事者が連携して供給をサポートします。
  • 5:未使用薬剤は冷蔵庫で保管する
    本症例で使用されるモルヒネシリンジなどの貯法は、原則として「遮光・室温保存」です。冷蔵庫で保管する必要はなく、直射日光を避けた涼しい場所で適切に保管していただきます。
【実務のポイント:PCA療法の指導とモニタリング】
在宅でのPCA療法を支える薬剤師の役割を整理しておきましょう。
  • 安全性の説明: 「ボタンを押しすぎたらどうしよう」という不安を抱えるご家族に対し、ロックアウトタイムなどの安全機能を丁寧に説明し、安心感を提供します。
  • 残量の確認: 訪問時にポンプ内の残量を確認し、次回の交換タイミングを予測して、在庫不足にならないよう手配します。
  • 副作用のチェック: 鎮痛効果が十分か、また眠気や呼吸抑制、吐き気などの副作用が出ていないかを多職種で共有します。