第111回薬剤師国家試験
◆ 問326
60 歳女性。白金製剤を含む化学療法治療後に増悪した再発卵巣がんに対し、ドキソルビシン塩酸塩を MPEG-DSPE(注) 修飾リポソームに封入した注射剤(ドキシル注)による治療を検討することになった。[注:N-(Carbonyl-methoxypolyethylene glycol 2000)-1,2-distearoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine sodium salt]
治療導入前のカンファレンスにおいて薬剤師が情報提供する内容として、適切なのはどれか。2つ選べ。
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本剤は、従来のドキソルビシン塩酸塩製剤の代替として使用しない。
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添加剤に大豆由来の成分が含まれるので、大豆アレルギーがないことを患者に 確認した。
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インフュージョンリアクションを軽減するためにリポソーム化した製剤である。
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高度催吐リスクのため、デキサメタゾン、セロトニン 5-HT3 受容体遮断薬及 びタキキニン NK1 受容体遮断薬の3 剤を前投与する。
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投与中に血管外漏出が見られたときは、漏出部位と同一静脈から再度点滴を再開する。
◆ 問326
◆領域・タグ
◆正解・解説
正解:1、2
この問題は、抗がん薬ドキソルビシンをリポソーム化した製剤であるドキシル®について、従来の製剤との違いや、特有の副作用、使用上の注意点を正しく理解しているかを問う内容です。リポソーム化によるメリットとデメリットを整理することが鍵となります。
【ドキシルの特徴】
・リポソーム製剤であり、がん組織に集まりやすく、心臓への毒性が軽減されるよう設計されています。
・しかし、従来のドキソルビシンとは投与量や適応、副作用(手足症候群など)が大きく異なるため、注意が必要です。
正解:1、2・リポソーム製剤であり、がん組織に集まりやすく、心臓への毒性が軽減されるよう設計されています。
・しかし、従来のドキソルビシンとは投与量や適応、副作用(手足症候群など)が大きく異なるため、注意が必要です。
1:通常のドキソルビシン製剤の代替として使用しない
ドキシルはリポソーム化されたことで、体内での動き(薬物動態)が劇的に変化しています。適応疾患や投与スケジュール、副作用の出方が通常のドキソルビシンとは全く異なるため、安易に置き換えて使用することはできません。別の薬として扱う必要があります。
2:大豆由来リン脂質を含有するため大豆アレルギーの確認が必要
ドキシルのリポソームの外殻(膜)には、大豆由来の「水添ホスファチジルコリン」が使用されています。大豆アレルギーのある患者さんに投与すると、重篤なアレルギー反応を起こす可能性があるため、投与前の確認が必須です。
誤り:3、4、5
- 3:インフュージョンリアクション(IRR)を軽減するためにリポソーム化した
リポソーム化の主な目的は、がん組織に選択的に集積させる「EPR効果」の利用と、心筋障害(心毒性)を軽減することです。むしろ、リポソーム製剤そのものが注入反応(IRR)を引き起こす原因になることがあり、軽減目的という説明は誤りです。 - 4:高度催吐リスクのため3剤前投与が必要
ドキシルは、制吐薬適正使用ガイドラインにおいて「中等度催吐性リスク」に分類されています。高度リスクで用いられる3剤セット(デキサメタゾン+5-HT₃受容体拮抗薬+NK₁受容体拮抗薬)を必須とするほどのリスクではありません。 - 5:血管外漏出時は同一静脈から再度点滴を再開する
抗がん薬が血管の外へ漏れてしまった場合は、直ちに投与を中止し、漏出部位に適切な処置(冷却や薬液の吸引など)を行う必要があります。同じ血管から点滴を再開することは、症状を悪化させる恐れがあるため厳禁です。
【実務のポイント:ドキシルの副作用管理】
薬剤師として、ドキシル特有の副作用についても覚えておきましょう。
薬剤師として、ドキシル特有の副作用についても覚えておきましょう。
- 手足症候群: 従来のドキソルビシンよりも頻度が高く、手足の痛み、発赤、腫れが生じます。締め付けの強い靴を避けるなど、物理的な刺激を減らすよう指導します。
- 投与速度の調節: 急激な投与は注入反応(IRR)を誘発しやすいため、初回投与時は特にゆっくり(
1 mg/分以下など)開始し、慎重に様子を見る必要があります。
