第111回薬剤師国家試験
◆ 問330
64歳女性。夫と同居。1年前、軽度のアルツハイマー型認知症と診断され、処方1の薬剤による治療が行われていた。6ケ月前より、認知症周辺症状(BPSD)が出現し、処方2の薬剤が追加された。その後、BPSDは改善されたが、3ケ月前には血圧が上昇し処方3の薬剤が追加された。その後、処方3の薬剤が増量されたが、降圧効果が不十分だったため、処方3は変更となり、2ケ月前より処方1、2及び4の薬剤を服用中である。本日、女性が夫とともに処方箋を持って薬局を訪れた際、処方5の薬剤がさらに追加されていた。薬剤師が女性の体調を確認したところ、2~3週間前から血圧が高くなり、最近では倦怠感や頭重感、むくみ、しびれの自覚症状があるとのことだった。(処方1)
ドネペジル塩酸塩錠5mg 1回1錠(1日1錠)
1日1回 朝食後 30日分
(処方2)
抑肝散エキス顆粒 1回2.5g(1日7.5g)
1日3回 朝昼夕食前 30日分
(処方3)
テルミサルタン錠20mg 1回1錠(1日1錠)
1日1回 朝食後 30日分
(処方4)
テルミサルタン40mg・ヒドロクロロチアジド配合錠
1回1錠(1日1錠)
1日1回 朝食後 30日分
(処方5)
塩化カリウム徐放錠600mg 1回2錠(1日4錠)
1日2回 朝夕食後 30日分
薬剤師は、薬歴に記録された 1 ケ月前の検査値と処方箋に記載された今回の検査値を比較し、医師に疑義照会を行った。
(1ケ月前の血圧及び検査値)
血圧 142/85 mmHg、AST 35 IU/L、ALT 43 IU/L、
CK(クレアチンキナーゼ)58 U/L、血清クレアチニン 0.9 mg/dL、
総ビリルビン 1.0 mg/dL、Na 138 mEq/L、K 3.8 mEq/L
(処方箋記載の検査値)
血圧 155/90 mmHg、AST 150 IU/L、ALT 78 IU/L、
CK(クレアチンキナーゼ)950 U/L、血清クレアチニン 1.0 mg/dL、
総ビリルビン 1.1 mg/dL、Na 145 mEq/L、K 2.3 mEq/L
医師に提案する内容として、適切なのはどれか。2つ選べ。
-
ドネペジル塩酸塩錠を中止する。
-
抑肝散エキス顆粒を中止する。
-
テルミサルタン・ヒドロクロロチアジド配合錠を中止する。
-
塩化カリウム徐放錠を減量する。
-
フロセミド錠を追加する。
◆ 問330
◆領域・タグ
◆正解・解説
正解:2、3
この問題は、認知症の周辺症状(BPSD)に対して抑肝散を服用している高齢患者において、副作用である「偽アルドステロン症」のサインを読み解き、悪化因子となっている薬剤を適切に選択・中止できるかを問う内容です。
【症例の背景と検査値の解釈】
・患者: 64歳女性、アルツハイマー型認知症に抑肝散を服用中。
・血清カリウム(K)値:
・CK(CPK)値:
・ポイント: 低カリウム血症の原因薬剤を特定し、緊急性の高い対応を判断する必要があります。
正解:2、3・患者: 64歳女性、アルツハイマー型認知症に抑肝散を服用中。
・血清カリウム(K)値:
2.3 mEq/L(著明な低カリウム血症)。・CK(CPK)値:
950 IU/L(高値。低カリウム血症に伴う横紋筋融解を示唆)。・ポイント: 低カリウム血症の原因薬剤を特定し、緊急性の高い対応を判断する必要があります。
2:抑肝散エキス顆粒を中止する
抑肝散には構成生薬として「甘草(カンゾウ)」が含まれています。甘草の主成分であるグリチルリチン酸は、体内で11β-HSD2という酵素を阻害することで、本来分解されるべきコルチゾールがアルドステロン受容体に結合してしまいます。その結果、アルドステロンが過剰な状態ではないにもかかわらず、高血圧や低カリウム血症を呈する「偽アルドステロン症」を引き起こします。原因薬剤である本剤の中止は必須です。
3:テルミサルタン・ヒドロクロロチアジド配合錠を中止する
この配合錠に含まれる「ヒドロクロロチアジド」はチアザイド系利尿薬です。この薬剤は、腎臓の遠位尿細管でのナトリウム再吸収を抑制しますが、同時にカリウムの排泄も促進してしまいます。現在の患者さんのように、血清カリウム値が
2.3 mEq/L という危険な低値である場合、低カリウム血症をさらに悪化させるこの薬剤は直ちに中止すべきです。誤り:1、4、5
- 1:ドネペジル塩酸塩を中止する
ドネペジルはコリンエステラーゼ阻害薬であり、認知症の治療薬です。偽アルドステロン症の発症や、低カリウム血症の悪化には関与していないため、中止の必要はありません。 - 4:塩化カリウム徐放錠を減量する
塩化カリウムは、低カリウム血症を治療(補正)するための薬剤です。低カリウム状態において、この薬剤を減量することは病態をさらに悪化させることにつながるため、不適切です。 - 5:フロセミド錠を追加する
フロセミドはループ利尿薬であり、非常に強力なカリウム排泄作用を持っています。低カリウム血症の患者さんに投与すると、さらにカリウムが失われ、不整脈や心停止のリスクを高める極めて危険な対応となります。
【実務のポイント:偽アルドステロン症の早期発見】
漢方薬は副作用が少ないと思われがちですが、甘草を含む製剤(抑肝散、葛根湯、芍薬甘草湯など)では注意が必要です。
漢方薬は副作用が少ないと思われがちですが、甘草を含む製剤(抑肝散、葛根湯、芍薬甘草湯など)では注意が必要です。
- 自覚症状の確認: 「手足のしびれ」「力が入らない(脱力感)」「筋肉痛」などがないか、定期的な聞き取りが重要です。
- 高リスク患者の把握: 本症例のように、利尿薬(チアザイド系やループ系)を併用している患者さんでは、低カリウム血症が重症化しやすいため、より厳密なモニタリングが求められます。
- 偽アルドステロン症の三徴: 「高血圧」「低カリウム血症」「浮腫(むくみ)」が代表的な症状です。
