第111回薬剤師国家試験
◆ 問342
58 歳男性。体重 62 kg、体表面積 1.72 m2。2 年前、S 状結腸がん(Stage Ⅲ)と診断され、S 状結腸切除術が施行された。その後、術後補助化学療法として FOLFOX 療法(オキサリプラチン、レボホリナートカルシウム、フルオロウラシル)を 12 コース施行し、外来通院にて定期検査を実施していた。しかし、2 ケ月前の定期検査の際、肝転移が見つかった。主治医が診察及び面談を行い、患者の希望や検査結果を踏まえ、FOLFIRI + パニツムマブ療法の導入が検討されている。(FOLFIRI + パニツムマブ療法)

病棟カンファレンスに参加する際、この薬物治療に関して病棟担当薬剤師が留意する情報として、適切なのはどれか。2つ選べ。
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処方1 の薬剤は、RAS 遺伝子が変異型であることを確認した上で使用するこ と。
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UGT1A1 の酵素活性が低下する遺伝子型を持つ患者では、処方2 の薬剤による 骨髄抑制の発現率が高まること。
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処方3 の薬剤は、処方4 及び5 の薬剤の抗腫瘍効果を高めるために使用するこ と。
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処方4 及び5 の薬剤は、生理食塩液との混和を避けること。
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処方5 の薬剤は、腕などの末梢静脈から投与すること。
◆ 問342
◆領域・タグ
◆正解・解説
正解:2、3
この問題は、S状結腸がんの肝転移に対する「FOLFIRI+パニツムマブ」という強力な化学療法を行うにあたり、薬剤師が事前に確認すべき患者背景や、各薬剤の役割・投与方法を正しく理解しているかを問うています。
正解:2(UGT1A1酵素活性が低下する遺伝子型を持つ患者は、処方2による骨髄抑制発現率が高まる)
処方2のイリノテカンは、体内で活性代謝物であるSN-38に変換されます。SN-38は主に「UGT1A1」という酵素によってグルクロン酸抱合を受けて無毒化されますが、特定の遺伝子型(UGT1A1*6や*28など)を持つ患者様では、この酵素の働きが低下しています。その結果、SN-38が体内に蓄積し、重篤な骨髄抑制(白血球減少など)や激しい下痢を引き起こすリスクが著しく高まります。投与前にこの遺伝子型を確認し、必要に応じて減量を検討することは安全管理上、極めて重要です。
正解:3(処方3は処方4・5の抗腫瘍効果を高めるために使用される)
処方3のレボホリナート(ロイコボリン)は、処方4・5の5-FU(フルオロウラシル)と一緒に使われることで、「5-FUのミサイル効果」を強める役割を果たします。具体的には、5-FUが作用する酵素(チミジル酸合成酵素)との結合をより強固に安定化させることで、がん細胞の増殖をより効果的に抑え込みます。このように、自身の毒性を利用するのではなく他剤を助ける働きを「モジュレーション」と呼びます。
誤り:1(RAS遺伝子が変異型であることを確認した上で使用する)
パニツムマブ(抗EGFR抗体)を使用するための絶対条件は、RAS遺伝子が「野生型(変異がない状態)」であることです。もしRAS遺伝子に変異がある場合、この薬を使用しても効果が期待できないばかりか、かえって予後を悪化させる可能性が報告されています。「変異型であることを確認する」という記述は、正しい適応条件とは正反対の内容です。
誤り:4(処方4・5は生理食塩液との混和を避ける)
5-FUは化学的に比較的安定しており、生理食塩液や5%ブドウ糖注射液などの一般的な輸液で希釈して投与することが可能です。生理食塩液との混和を一律に避ける必要はなく、この記述は不適切です。
誤り:5(処方5は末梢静脈から投与する)
処方5の5-FU(46時間持続投与)は、非常に長い時間をかけて点滴を行います。このような長時間投与を細い末梢静脈から行うと、血管痛や静脈炎を起こしやすく、また薬液が漏れた際のリスクも大きくなります。そのため、通常はCVポート(中心静脈ポート)を介して、携帯用ポンプなどを用いて確実に投与するのが標準的な方法です。
【実務のポイント:パニツムマブとイリノテカンのチェック項目】
このレジメンを監査する際は、以下の2つの「遺伝子チェック」をセットで意識しましょう。
このレジメンを監査する際は、以下の2つの「遺伝子チェック」をセットで意識しましょう。
- RAS遺伝子(野生型): 薬が「効くかどうか」の判定に必須です。
- UGT1A1遺伝子: 副作用が「強く出すぎないか」の予測に重要です。
